ヘンリー

海外文学が好きです。ショートショートの作品をアップしていきます。よろしくお願い致します。

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最近の記事

ショートショート:「オーバーアチーバー」

※この作品は、以前書いた「天才」と併せてお読みいただけると、よりお楽しみ頂けると思います。 https://note.com/bold_yarrow777/n/nffd471bcd9de?sub_rt=share_pw (以下、本編です)   ある日、英夫は、「高学歴でも人生が上手くいかなかった人」というタイトルのテレビ番組を見ていた。学歴と人生の成功との間に必ずしも相関関係がないことは、誰でも薄々感じていることだが、それでも高学歴の人がニートになっていたりすると、多く

    • 短編小説:「結界」

      ※今回投稿する作品は、以前「小説家になろう」に投稿したものです。 一、  第50代天皇の桓武天皇は、781年に即位した三年後の784年に、都を平城京から、長岡京へと遷都した。この背景の思惑には、平城京時代に隆盛を極めた寺社勢力との決別があった。平城京には、聖武天皇が国力を総動員して建立した東大寺を始めとした寺社が多く存在し、その勢力は大きな政治力を持つようになり、天皇家で内紛が起こる一因となっていた。そういう血みどろの内紛を若い頃から目の当たりにしてきた桓武天皇は、朝廷と

      • 政治的なコンテンツ

        ※今回はショートショートではなく、個人的なお話です。  私は翻訳が趣味で、noteに上げたショートショートのお話の一部を翻訳して、海外の小説投稿サイト"Royal Road"に投稿しています。以下のリンクは「大衆作家」というお話を翻訳したものです。 The whole story - Popular fiction writer | Royal Road  先日、「個人主義の時代へようこそ」という作品を翻訳して投稿しようとしたところ、投稿が拒絶されてしまいました。  

        • ショートショート:「成功法則」

           ある雑誌の企画で、戸田隆二と赤瀬智の、二人の元ボクシング世界王者が対談した。対談のテーマは、「世界王者になるために必要な素質」についてである。  記者に話を振られた戸田は、 「必要な素質ねえ」    と言って頭をかきながら、 「世界王者になろうと思ったら、やっぱり努力が必要だと思いますよ。いくら才能があったって、練習をしなければ一番になれるはずありませんから。」  と答えた。戸田よりも一回り年上で落ち着いた雰囲気の赤瀬はそれを聞いて、 「まあ確かに、努力は必要だろ

        ショートショート:「オーバーアチーバー」

          ショートショート:「教育困難校」

           東高雄は、都内の私立大学を卒業後、アメリカの有名大学院に進学した人物である。彼は国際関係学で修士を取得後、日本のある地方私立大学で、英語講師としての職を得た。1990年のことで、東は弱冠25歳だった。  その大学は、落ちこぼれが集まるいわゆる「教育困難校」で、東が授業をしようにも、笑い声がそこかしこから聞こえ、紙飛行機を飛ばして遊ぶ者や、席から立ち上がって教室を歩き回る者もいる有様だった。  普通の講師ならそこで諦めてしまうところなのだが、東は違った。彼は中学高校で体育

          ショートショート:「教育困難校」

          エッセイ:「2024年の世界を生きるための価値観」

          ※すみません、今回はショートショートではありません。筆者のぼやきのようなエッセイです。  私は星新一を作家として尊敬しています。彼の理系の知識に基づいたユニークな観点のSFの作品は、芸術の域に達していたと思います。文体も簡潔で無駄がなく、作風は社会への風刺がきいているようでいて、特定の個人を批判する意図を感じることもなく、どんな読者が読んでも不快に感じることがないようにという配慮も感じられます。  しかし最近、彼の「未来都市」という作品を読んでいて、「ああ、この人もやはり

          エッセイ:「2024年の世界を生きるための価値観」

          ショートショート:「雑念」

           良行は、高名な禅僧だった。40代になる頃には師匠からお寺を任され、住職という肩書きも持っていた。彼はなかなかの美丈夫だったこともあり、マスコミからも注目され、有名人と対談する機会も多くあった。  あるとき、雑誌の「禅とメンタルヘルス」というタイトルの企画で、精神科医と対談することがあり、彼はその場で「現代人は生き急ぎすぎている」「呼吸を整えれば、大抵の問題の解決策は見えてくる」と、自らの禅僧としての修行体験に基づいた持論を展開した。その企画への反響はかなり大きく、その後、

          ショートショート:「雑念」

          ショートショート:「激安ファーストフードの秘密」

          ※この話はフィクションです。  2000年代初頭の日本は、デフレの時代と言われた。とくに、ハンバーガーや牛丼などのファーストフードチェーン店が全盛期を迎え、200円のハンバーガーや牛丼は、デフレ経済の象徴とも言えた。  サラリーマンたちは昼休みに500円玉を握りしめて、ファーストフード店に長蛇の列を作った。時折あるセールスの時期には、ハンバーガーの価格が200円を切ることもあった。  いくらデフレの時代とはいえ、ここまでの低価格では、店側としても採算が取れないのではない

          ショートショート:「激安ファーストフードの秘密」

          ショートショート:「自由主義の弊害」

           佳代子は、お世辞にも器量が良いとは言えない女性だった。太い眉毛に、だらしなく垂れ下がった目、低い鼻梁、間の抜けた丸顔。そのいずれも他人に嫌悪感を与えるとまではいかなくとも、良い印象を与えることも、決してなかった。  彼女は戦前生まれで、今のルッキズムの時代とはかけ離れた価値観の中で生きてはいたのだが、それでも当時でも「このような見てくれでは、お嫁にいけないかもしれない」という悩みはあった。20歳も近くなって、結婚を意識するようになると猶のこと、そういう悩みは深まっていった

          ショートショート:「自由主義の弊害」

          ショートショート:「個人主義の時代へようこそ」

           修二は、若手の小説家だった。純文学を専門とし、若くして数々の賞を総なめにした彼だったが、ある時点から公の場で政治的な発言をするようになり、為政者を批判する内容の本を書くようにもなった。それらの本に展開される為政者への批判の舌鋒は非常に鋭いもので、他の政治評論家にはないユニークな視点も多く含まれており、とくに野党の議員を中心に、政治家の中にも彼の本を愛読する者がいるらしかった。  修二は自身の著書の中で、過去の偉大な文学者や哲学者の言葉を引用しながら、無責任なことを言って大

          ショートショート:「個人主義の時代へようこそ」

          ショートショート:「作品と人間性」

           ベストセラー作家の小出啓介逮捕のニュースは、日本国民の多くに大きな衝撃を与えた。小出は子供向けのファンタジー小説が専門の作家だったが、彼の小説は年代を問わずに読まれ、国際的な評価も受けるなど、日本を代表する作家の一人だった。メディアへの露出も多く、スキャンダラスなイメージとは無縁のように思われていた彼だったからこそ、彼が大麻を所持していたことが発覚し、逮捕されたことが人々に与えた衝撃は、ひとしおだったのである。  小出逮捕のニュースが報じられるや否や、日本中の本屋から彼の

          ショートショート:「作品と人間性」

          ショートショート:「願い」/シロクマ文芸部

          「月の色を変えるなら、何色が良いだろう?」  ロンは、こんな変わった問いを頭の中で反芻しながら、夜空にぼんやりと光る月を見つめていた。  ロンは、若い勇者である。こんなことを考えていたのは、その前の日に、ある村を盗賊から救った礼として、その村の村長から魔法の杖を授かったからである。村長によると、その杖はこの世の全員に影響があるような願いを一つ叶える魔力を持つという言い伝えがあるとのことで、ロンがその杖を早速振りかざしてみると、 「月の色を、其方の好きなように変えてくれよ

          ショートショート:「願い」/シロクマ文芸部

          ショートショート:「人相」

           人の外見と、内面の性格とがいくらかは関係していることを、私たちは経験から知っている。あまり表立ってこれを言うのは良くないと思われがちなのだが、知的な顔立ち、乱暴そうな顔立ち、優しそうな顔立ち、というものは確かにあり、「人は見た目によらない」という言葉もあるものの、私たちがそういった外見から他人に対して抱く印象は、たいていは裏切られないものである。2030年の世界ではこういった観点から、人間の見た目からその人の性格特性をかなりの確度で識別するAIが開発され、犯罪の予防などに広

          ショートショート:「人相」

          ショートショート:「災い転じて・・・」

           元太には、困った癖があった。どうも、一言余分なのである。言わなくても良いことを言って、他人を怒らせてしまう。年を取るにつれて、自分でもそのことに気が付き始めていたのだが、「しまった」と思ったときにはもう遅いのである。どうしても、自分の言動が制御できないのである。  これは、本人にとっても非常に厄介なことだった。とくに学生時代は、自分が言った一言が原因で、同級生からはぶられてしまうことを何度も経験した。しかしそんな彼にも、パソコンに強いという特技があった。大人になってからは

          ショートショート:「災い転じて・・・」

          ショートショート:「シラフ」

           何億年も昔。地球の海底で有機物が組み合わさって、偶然に、代謝を行う生命体が誕生した。その生命体は、徐々に複雑な身体を構成するようになり、たまたま住んだ場所の環境に適応するように、様々に枝分かれして進化していった。その進化した生命体の中で、これもまた偶然に脳が進化して、複雑な意識を持つものが現れた。  その生物の脳には、フィクションを作り、それを他の個体と共有して、ときに(生存という観念から見れば)不合理な行動さえするという特殊性があった。その生物は、歴史が浅いうちは全知全

          ショートショート:「シラフ」

          ショートショート:「メリトクラシー」

           ある国の王さまが、どうすれば国を豊かにできるかに頭を悩ませ、側近の大臣に話しかけた。 「大臣よ。我が国を豊かにするためには、何をすればよいだろうか?」 大臣はしばらく考えて、以下のように答えた。 「我が国では、世襲で役職が決まり、どれだけ成果を上げても報酬は変わらない、というように、個々人の能力を生かす場が乏しいのが現状でございます。この機会に、能力主義を導入されてはいかがでしょうか?」  大臣がここで言う能力主義とは、例えば王宮に仕える官僚を選抜する際に、世襲やコ

          ショートショート:「メリトクラシー」