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何も打ち込めない私へ 映画『ルックバック』(ネタバレあり)

 各所で絶賛されている映画『ルックバック』を劇場で鑑賞した。親と観に来ている小学生もいた。

 小学生の藤野は、同世代の中では絵がうまく、学級新聞に連載している4コマ漫画は評判で、クラスメイトからも一目置かれていた。
 ある日、担任から呼び出された藤野は、不登校の同級生・京本の絵を学級新聞に掲載したいから枠を譲ってほしいと相談を受ける。軽い気持ちで快諾した藤野だったが、掲載された京本の絵は、藤野とは比べ物にならないクオリティのものだった。藤野はそれを機に筆を折ってしまうが……。

 原作同様、映画もハマれなかったのは、何かに打ち込むこと=善とする世界が、私は苦手だからだと思う。それだけの話なら「合わなかったな」で終わるが、今作は実際に起きた京都アニメーション放火事件への目くばせがあり、そのあたりを絡める真意も図りかねた(いろいろな考察も見たが)。最近だと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が現実に起きた悲惨な事件を回避する物語設定だったが、こちらはカタルシスたっぷりに仕上げていて面白かった。『ルックバック』はあそこまで振り切ってはいないように感じた。

 それでも、序盤で展開される京本に勝つために死ぬほど努力する藤野の後ろ姿にはウルっときたし、ラストシーンは特に秀逸で、描くことの業、描くことでしか解消できないクリエイティブの深層に触れる見せ方は感動した。場面で変わっていくアニメーション技術も見たことが無い最先端のものだった。

 原作に比べて、特に音楽を多用することでエモーショナルな演出がされていて、原作のクールな読後感とは一味違うものになっている。
 人生で努力してきた人、何かに熱中して挑んだ経験がある人には刺さるだろうが、漫然と生きてきた私にはプレッシャーを感じる一作ではあった。

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