カフェ

カフェにいる。

カフェというよりマンションの一室のような場所だが、私は明確にそこを“カフェ”と認識していた。

カフェは繁盛しており、私以外にも多くの客で賑わっている。その一角、老齢のマスターの姿がよく見えるカウンターに私は腰掛けていた。

もう朧気だが、マスターが提供してくれた何がしか、コーヒーか紅茶か、トーストだったかもしれない。とにかく何がしかを受け取り、食べた。美味しかった。私は笑顔でマスターにお礼を告げる。その時マスターが返事をくれたのか、どんな表情をしていたのか全く覚えていない。

いきなり私の視界は切り替わり、何故か店の外にいる。だが疑問に思うことなく、カフェもといマンションの一室の扉の前で立っている。すると、マスターが出てくる。マスターは部屋を出るなり突然走り出す。廊下の端まで走り抜けて、そのまま手すりを飛び越えて、飛び降りた。

私は悲鳴をあげた。

何故かここはマンションの5階という確信があった。マンションの5階から飛び降りる。その結果は明白である。

私の悲鳴は止まない。

そこで目が覚めた。

めちゃくちゃ夢だった。

夢で良かった、と安堵する。

____瞬間、私の脳内に溢れ出した“存在しない記憶”

そうだ、例のカフェのマスターは、かつて友人と旅行に行った先で訪れた喫茶店の店主だ。彼は早くにパートナーを亡くしており、自分が店で満足のいくサービスができたら、パートナーのもとに行こうと決めている、と話してくれた。そうか。私があの時、笑顔でお礼を告げたから、マスターは満足してしまったのか。自分が知らず知らずのうちに最後のトリガーを引いてしまったことに罪悪感を覚える。重たい気持ちを抱えてベッドから何とか起き上がり、朝食を貪り、朝の一服。

そこで突然、気づいた。
「いや、誰だよあの爺さん」

マジで知らん人だった。全然会ったことない。旅行先の喫茶店で店主と話したことないわ。

ようやく目が覚めて、謎の気疲れを抱えながらいつも通りの日常を始めることにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?