夜景が嫌いだ


あれは小学生の頃だった

助手席の僕は窓の外をじっと見ていた

夜に差し掛かるころ

大きな病院の窓がチラチラと明かりをつけた

運転席の母に言った

「きれいだね!いっせいに明かりがついた!」

母は少し黙った後、

「あの窓の先、ひとつひとつに

 人の生活があるのよ」と。

子どもながらに、不謹慎なことを言ったのかなと

気まずくなったのを覚えている。


友人や、想い人と夜景を見る機会が何度かあった。

流れる車の明かりも  高層ビルの明かりも

あの小さな光ひとつひとつに

「人」とその「人生」があるんだと

勝手に想像して 勝手に苦悩し

勝手に心を痛めているのだ。


あの頃から、32歳になった今でもそれは変わらない。

僕は夜景が嫌いなのだ。


いつか夜景を心から

「美しい」と思った僕なら

今の僕をゆるしてくれるのだろう

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