冴えない主人公の無条件幸福01

 俺は冴えない男だ、無職、ニートを貫いてもう31歳になる、
親元を離れられない生活をおくっているが、そろそろ親も限界だろう、
そう考えた時、ふとオレは、この環境から離れてみるのも悪くは無い、
なんて思っていたりする。
 おれは精神障害を患っていて、障害基礎年金がでているから、
それで10年間溜めたお金があれば、中古マンションを買って、
適当にひとり暮らしを始められるはずだ、そうに違いない。
 といっても、一人暮らしを始めるほどの度胸も根気も無いのだが、ん?

ぶーん、ぶーん。

 羽音の様なものが近づいてきているのを感じた、これは?

ぶーん、ぶーん、ばりばりばりばりばり! ばりばりばり!

 羽音は徐々に大きくなって、ヘリコプターがもし近づいてきたら、
きっとこんな音を立てるだろうと考えれるほどになった。

 おれは恐怖を感じて、走りだした、が、大きな影が先にまわり込んだ、

「な、なんだああ?!」

 目の前に居たのは巨大なハチだった、両眼が大きくきらめいていて、
巨大な羽がぶんぶんと眼にもとまらぬ速さで動き、確実に俺のほうに、
近づいてきている。

「や、やめろぉぉ!!!」

 気がついた時にはオレはハチに抱きかかえられて天高く、
連れ去られた、空から眺める町の風景は確かに日本だったが、
徐々に離れはじめて、雲を横切った先にある、野生の原風景?
 というものは異常だった。
空から確認しても明らかな巨木の森が、辺りに広がっていて、
そんな巨木の中をハチに抱えられて飛んでいくのはなんとも、
いえない、気持ちになるものだった。

「俺をどこに連れて行く気だー!!」

 分からない、なぜ、俺はこんな巨大な蜂に絡まれたのだろうか?
そしてこの地上にどうしてこんな蜂があれる余裕があったのか?
世界は驚きに満ちている。 そんなことを内心で思う余裕が俺には、
あったのか分からないが、とにかく俺はつれていかれてしまった。

奴らの巣に。

 羽音が一層にひどくなる、巣の中は暗いかと思ったが、
案外、光る苔の様なものが生えていて、明るく、
どことなく幻想的な空間ではあったが、教育テレビでやってる、
昆虫の特に、蜂のドキュメンタリーでみたような、
蜂の巣が広がっていた、ちょうど蜂の巣上に区切られた巣穴が、
いくつもぽっかり穴が空いているわけで、俺もそこに入れられたわけで、

「くっ!」

 次に出てくるセリフが殺せ! なら、女騎士として合格だが、
おれは、女でも騎士でもないのでそんなセリフは吐けない、それに、

「なっなにをするー!!? うわー!!?」

 巨大蜂に想いっきりディープキスをされた、しかも蜜の味がする、
というか蜜を思いっきりドクドクと流し込んでくるのが、
のどに後味を残しながら伝わってくる。 エロスだ。

 甘く、甘すぎる初キッスを蜂に奪われてしまったオレは、
奴の縞々模様を睨みながらも、そういや蜂の大半は雌だっけ、
と考え直すが、まったく、俺は蜂に好かれるいわれもないし、
とっかえひっかえやってくる蜂から蜜を供給されるこの状況は、
ハーレムと言ったらハーレムだが、全く嬉しくは無い。

「こういうの、あれか? 異世界転生というやつか?」

 もちろん、違う、どちらかというと異世界誘拐だ、
まさか蜂にさらわれてしまうとはな、ははは、恐怖しかない、
けれど状況はさほど悪くは無い、何故か、布団などが、
完備されている蜂の巣の穴の中、ちょっとしたカプセルホテルとしては、
あまりにも広い空間で、光る苔の照明付きときたら、悪くない、
ここで1人暮らしを? って甘い蜜ばかり啜って虫歯になるわ!!

「ん、こんどはなんだ、ってこれ」

 から揚げ弁当を持ってきた蜂はオレの思念を理解している?
いや、そんなはずはと思った次の蜂は、歯ブラシを持ってきたから、
正直、驚いている。 だが、このカプセルホテルには水道がないはず、
そういや洗面台が無いじゃないか、案外不便だなって、

「や、やめろ、俺を連れていくな、俺から離れろ! うわあああ!」

 爆音の羽音とともにオレは巣の下部の方に連れられていって、
ん? 人影? 先客がいるのか? というか無事? 俺も無事?

「なんだなんだ、新入りか?」
「だ、誰だ、アンタ? ここはどこなんだ?」

 男は俺と同い年くらいか分からないが、俺よりはまともななりで、
しゃんとしているから、良いとこの出なんじゃなかろうか?
俺はとりあえず狼狽えるばかりだ。

「安心しろよ、こいつらは人間をもてなす事しか考えてないらしい、
 とにかく歯磨くか? あの蜜は甘すぎるからな」
「ん?」

 丁度、巣の中に広間があって、そこに何人もの人が、
休憩できるスペースになっているらしく、蛇口のついた洗面台や、
数多くの家具、音が鳴るだろうジュークボックスなんかがあって、
誰のお気に入りの曲かは知らないが、ディスクが掛かって、
音が鳴り響いていた、ここ、電気も通ってるのか?

「はっはー、インフラ、全完備だぜ? 蜂もなかなかの文明を、
 持ってるってこった、感心しきりだろう? だろう?」

 いけ好かない男だが、フレンドリーなのは悪くない、
が、俺は、未だに、不安が拭えないでいた、と?
 またあのうるさい羽音が近づいてきた! 今度のやつは大きい!
特に蜂の腹に値するところがやたらと大きく感じる!

「おっと、女王様のおいでのようだぜ、
 一応、挨拶しとかないとな」
「じょ、女王って、蜂のか? そんないるのか?」
「居ないわけないだろ? 蜂、だぜ? あの群れを為す、な?」

 やたらとイケメンボイスで話すから、正直この野郎にフラグがたちや、
しないか、危険な状況であるが、どうしたもんだろうか?

「オレの名前は篤瀬康太、よろしくな、日本人だ」

「あつせ?こうた? 俺は鯵氏順だ」
 しまった気軽に名乗ってしまった、ここがもし異世界なら、
真名を名乗ったら相手に支配されてしまうとかあるまいか?

「あじしじゅん、な、 よろしくな」

 あつせ、こうたの態度を見る限り、そんな様子は無い、
さすがにネットの環境にどっぷりだったオレのオタク知識が、
先を読みすぎたという事か、それより女王様だが、

「まあ、顔見世ってところだな、ギチギチ言ってるが、
 どうやら蜂語みたいだし、俺たちじゃなくって、
 周りの蜂に言い聞かせてるんだろうな、とにかく、
 安心しろ、ここは俺たちにとっての楽園、パラダイスだ」

「こうた、って呼んでいいか? とりあえず、こうた、
 俺、あじし、じゅんが、把握したいのはだ、
 ここから現実の世界にもどれるのか?」

 あつせ、こうた、は一瞬ちょっと考えたように、腰に手をやって、
のちに手を振って答えた、もったいぶるなよ。

「安心しろ、蜂に頼めば、元いた町までひとっ飛びさ、
 わからんが、こいつら蜂は俺たちの思念を自然自然と、
 慮ってくれる機能がついてるらしいからな」

「安心できるか! あの羽音とあの大きさだ!
 こうた、 お前は蜂に毒されてるんじゃないのか?」

 はっはっは、とか笑いやがって、俺はまあ大の大人だから、
怖がってるのが笑えるのかもしれんが、普通の一般人なら、
蜂を信用するとかマジないからな、他の人間のやつらも、
同じように、というか、人間の男ばっかりだな、ここ?

「まあ、とりあえず、一週間も過ごせば見解は大きく変わるさ、
 蜂達も巨大なドローンだとおもって好き勝手使ってたらいいんだ
 どんなものでももってきてくれるしな、俺の服なんかもそうだよ」

「なんだって、なんだって?」

 やたらと良さげな服着てると思ったら、この蜂にかっぱらいでも、
させた結果得たものだったのか、まったくどこの阿呆でも、
やりだすことといったらこれだから、な、このこうたという男も、
やっぱり信用ならないところがあるが、とにかく、
様子を見るか。


 一週間は割とあっさりすぎた、
蜂はノートパソコンを望めば、ノートパソコンを持ってきたし、
巣にも電源があり、さらに無線LANが通っていたから、
ネット環境は整っているらしい、で、だ、
当然、ニュースになってるはずだとおもったが、
何故かネットニュースにはなっていなかった。
 これってあれか? 異世界ならではだったり、
もしくは超能力が干渉し合って出来たりする強制力とか、
修正されたってことか? 世界が、この蜂たちに都合よく?
 さすがに合点がいかないので、ブログでこいつらの事を、日記につける、
ことにした、きちんとカメラも思念で持ってこさせたし、
こいつら蜂のことをばらして、ばら撒いてやった、が、
やはり強制力みたいなものが働いて強制されてるからか、
それとも31歳ニートが祟ってか、バズらない、バズるというのは、
ようするに流行るってことだが、一向にアクセスは伸びない、
奇妙な状況だ、考えれば考えるほどに。

 だが、何だか無償にこの環境に適応すればするだけ、
欲求や欲望に奔放になっていくのが知れた。

 そして、ずっと気になっていたことだが、
この巣には何故、人間の女がいないのだろうか?

「あん? 人間の女だあ? ははは、お前さては、欲情したな?」

「な、なにをいう、あつせ、こうた! 俺は断じて!」

俺を遮って何を話し続ける?!
「じゅんさんよ、お前も男だろ?
 だったら外遊びってのを覚えなくっちゃな、
 どうやらここは人間は男以外禁止のようだし、
 外で女を探すのなら、蜂もオッケーを出してくれるさ」

「くそ! 勘違いするなよ! だがこうた、がそういうなら、
 一応、女を探しに行ってやるか!」

 俺は、蜂に抱えられて、この巨木の森をさまよい、
やがて、静かな湖畔の辺りに下ろされ、蜂は去っていった。

「こんなところに女がいるってのか?
 こんなところよりかは、町のほうが、
 よっぽど女は多いだろうが、
 というか俺みたいなのがモテるか?」

 自分で言っていて果てしなく情けなくなった、
ん、湖畔の周りの茂みでなにやらがさごそと音が?

「よいしょー! さあておよぐわよ!」

 そこには全裸の青髪の女がいた、スタイルはなかなかいい、

「あれ、君は?! 一緒に泳ぐ?」

 女が、こちらに振り向きざま、そう言った、
正直、どこか腹が立つ、泳ぐだって?
なんでこんな水が綺麗かも分からない所で、
泳がないといけないんだ!

「な、なんで俺が! お前は誰だ!?」

「あたしは、エイセイレイ! ここの住人よ!
 あなたは?」

「おれは鯵氏順(あじしじゅん)、異世界から来た!」

 自分で言ってみたが、全裸の女が、
胸を隠しもせずにあっけらかんと言ってくるのにはさすがに、
堪えるものがあった。

「はやく服を着ろ! なってないぞ!」

「ウフフ、気に掛けてくれてるの?」

 エイセイレイは、露わになった胸や下腹部を隠しながら、
茂みに戻ると、素早く服を身にまとって、

「これで、水遊びはパーだけど、
 これからあなたが遊んでくれるんでしょ?」

 エイセイレイは俺に近づくと、そのまま、
俺の腕を掴み、引き寄せて、胸を近づけてきた。

「よ、よせ、俺にそのつもりはない!」

 俺は、恥ずかしくなってその手を振り払ったが、
エイセイレイは明らかにのりきだった。

「ふふふ、新顔さんね、
 この世界のことを知らないなら、
 一緒に冒険しましょうよ? ね?」

 訳も分からないまま、始まった、
蜂による誘拐劇による、異世界探索か、
どういう意味でここに立ってるのかもままならないというのに、
鯵氏順は、今日から、非日常な、
日常に染み込んでいく事になるのだろう。

「胸をくっつけるな!」
「あら? 蜂さん?
 あなたも王国の兵隊さんなのかしら?」

 エイセイレイは何やら訳の分からないことを言っているが、
蜂が近づいてくると、女物の水着と、男物の水着が!
 違う、俺はそんな思念を飛ばしていない!

「ふふふ、よくわからないけど、それってこうやって、
 みにつけるものかしら? あら、ぴったり!」

 エイセイレイは青く長い髪をはためかせながら、
俺のほうに向きなおった。

「ほら、はやく、着替えて着替えて!」

「ぬ、脱がせるな! わかった、俺がやるよ!」
 服を脱いで、水着に着替えると、
エイセイレイに催促されて、湖畔の水に入った、
冷たかったが、

「それっ!」

「水を掛けるな! 俺はここの水を信用してない!」

 といいつ、蜂まで加わってしばしの水遊びを、
満喫することが出来たというから、
よくわからないものだ、この季節の水は冷たいが、
自ら上がった後は、蜂の羽ばたきですっかり水気は飛んで、
エイセイレイは満足げだった。

「さて、案内したいところもあるし、
 じゅん、ももっと色々知りたいことがあるでしょ?
 どっかでお話ししながら楽しみましょうよ!」

 俺はエイセイレイの促すまま、ただ目まぐるしく変わる、
状況に辟易していた。

「はいはい、わかったわかった、
 頼めば蜂が連れてってくれるだろうさ!」

とにかく、日常が安定して進むことを。祈るばかりだ。

いただけるなら、どこまでもおともしますとも!