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誰でもわかるクリーン・サープラス関係

クリーン・サープラス関係は、「利益が出た分の財産が増えている」関係です。
投資家にとって大事なこのクリーン・サープラス関係を税理士試験の財務諸表論に必要な範囲で考えてみました。

1.クリーン・サープラス関係とは何か

クリーン・サープラスとは、きれいな剰余金(≒繰越利益剰余金)。
一般的には、利益分の繰越利益剰余金が増え(損益/繰越利益剰余金)、
逆に利益がないのに繰越利益剰余金は増えません。
クリーン・サープラス関係とは、利益分だけ資本が増える関係を意味します。
なお、増資などの資本取引でも資本は増えますが、これは除きます(以下同じ。)。

一般的にクリーン・サープラス関係とは、資本取引以外の資本の増減が利益と一致する関係をいいます。

包括利益の表示に関する会計基準注1

2.クリーン・サープラス関係の種類

包括利益の表示に関する会計基準の導入までは「株主資本と純利益」の間で成立していたクリーン・サープラス関係は、包括利益の表示の導入により、連結財務諸表では「純資産と包括利益」の間でも成立します。

個別財務諸表 株主資本の増減=当期純利益
連結財務諸表 株主資本の増減=親会社株主に帰属する当期純利益
       純資産の増減 =包括利益

3.クリーン・サープラス関係はなぜ必要なのか



クリーン・サープラス関係の成立は、会計情報の信頼性を高め、企業評価に役立ちます。

会計上の利益は、キャッシュ・フローに根差したもの。
たとえばその他の包括利益を純利益に振替えるリサイクリングをせず、一致の原則を満たさない利益情報は、その信頼性を損ない、企業評価にも役立ちません。

日本基準ではフロー情報として包括利益よりもその有用性に勝るだろう純利益を重視しており、「株主資本と純利益」とのクリーン・サープラス関係は特に重要です。

4.クリーン・サープラス関係の変遷


クリーン・サープラス関係は制度的に次のような推移を辿りました。

1.当期業績主義を採用していた時代 ⇒ 成立せず

2.純資産直入がなかった時代 ⇒ 純資産と純利益の間で成立

3.資本(純資産)直入が登場した時代 ⇒ 成立せず

4.純資産基準の創設 ⇒ 株主資本と純利益の間で成立

5.包括利益基準の創設 ⇒ 株主資本と純利益、純資産と包括利益(連結)で成立


5.クリーン・サープラス関係と利益計算


包括利益は資産負債アプローチ的な利益であり、純利益は収益費用アプローチ的な利益です。

わが国の概念フレームワークは、構成要素の定義面で資産負債アプローチをとりました。

しかし、測定面では一つの測定値に依存しない多面的なアプローチをとります(混合測定)。

フロー情報として重視しているのは包括利益ではなく、純利益です。

包括利益を純利益と併せて表示するために必要なのがその他の包括利益の純利益への振替手続であるリサイクリング(組替調整)です。

現状では、このリサイクリングが存在し、クリーン・サープラス関係が二重に構築され、複雑な感は否定できません。

しかし、概念フレームワークが大きくスタンスを変えることはおそらくないでしょう。

貸借対照表の資産・負債の測定値を統一することに意味があるか、その差額である純資産の変動額(包括利益)に純利益を上回る役立ちが期待される。

このうちのいずれかが確認されない限り、そのスタンスは変わらないでしょし、そもそもそれほど簡単に結論の出せる問題などではないのかもしれません。

地味な検証作業を続けながら確認していく以外に道はないというべきなのでしょう。


6.クリーン・サープラス関係に関する過去出題

クリーン・サープラス関係に関する過去の出題の全文を示しておきます。

(1)第66回(平成28年)第一問

ある期間における資本の増減(資本取引による増減を除く。)が当該期間の利益と等しくなる関係をクリーン・サープラス関係という。個別財務諸表と連結財務諸表のそれぞれにおけるクリーン・サープラス関係を説明しなさい。なお、連結財務諸表においては2種類のクリーン・サープラス関係が成立することに留意しながら解答すること。


(2)第67回(平成29年)第一問

短期的に損なわれることがあってもクリーン・サープラスの関係が長期的には維持されていることは、現行会計基準の主要な特徴の1つである。この点に関する以下の各問に答えなさい。
1.クリーン・サープラスの関係に係る以下の記述から最も適切なものを選び、記号で答えなさい。
 ア 資本剰余金と利益剰余金とが混同されず、両者が発生源泉別に区分されている状態をいう。
 イ 利益剰余金が唯一の処分原資とされ、資本剰余金の処分が禁じられている状態をいう。
 ウ 潜在的な負債を考慮してもなお純資産が正の値をとる状態をいう。
 エ 資本取引以外による純資産の増減が、期間損益に漏れなく反映されている状態をいう。
2.何を資本取引とみるかは、クリーン・サープラス関係が保たれているかどうかの判断と密接にかかわっている。そこで資本取引に該当しない取引として最も適切なものを選び、記号で答えなさい。
 ア 新規社債の発行  イ 自己株式の取得  ウ 現物出資
 エ ストック・オプションの行使による新株発行
3 当期純利益に係るクリーン・サープラスの関係を損なわない取引として最も適切なものを選び、記号で答えなさい。
 ア 個別財務諸表における「その他有価証券評価差額金」の純資産への直入
 イ 為替換算調整勘定の計上  ウ 自己株式の消却  エ 繰延ヘッジ損益の計上
4 仮に本来であれば経費(発生時費用処理)として処理すべき項目を、剰余金の分配として処理したとする。この処理が期間損益に及ぼす影響に係る以下の記述から最も適切なものを選び、記号で答えなさい。
 ア 本来の処理を行った場合とくらべて費用は過大計上となる。
 イ 本来の処理を行った場合とくらべて費用は過少計上となる。
 ウ 本来の処理を行った場合とくらべて費用はいったん過大計上となるものの、やがてその違いは解消される。
 エ 本欄の処理を行った場合と同種の費用が計上される。
5 その他有価証券を例として、リサイクリングはどのような手続か、なぜそれが必要とされるのかを説明しなさい。


(3)第70回(令和2年)第一問

企業会計基準第25号第21項においては、次のように記述されている。これについて以下の各問に答えなさい。
包括利益の表示によって提供される情報は、( A )が期待されるとともに、貸借対照表との連携を明示することを通じて、財務諸表の理解可能性と比較可能性を高め、また、国際的な会計基準とのコ ンバージェ ンスにも資するものと考えられる 。
① 空欄( A )に当てはまる語句として最も適切なものを1つ選び、記号で答えなさ い。
 ア 会計基準設定主体が会計基準の策定を検討するのに役立つこと
 イ 債権者等の財務諸表利用者が企業の清算価値を評価するのに役立つこと
 ウ 投資家等の財務諸表利用者が企業の保有する資産の価値を評価するのに役立つこと
 エ 投資家等の財務諸表利用者が企業の本業に係る業績について検討するのに役立つこと
 オ 投資家等の財務諸表利用者が企業全体の事業活動について検討するのに役立つこ と
② 下線を表す語句として最も適切なものを1つ選び、記号で答えなさ い。
 ア 総資産と包括利益とのクリーン・サープラ ス関係
 イ 総資産と当期純利益とのクリ ーン・サープラ ス関係
 ウ 当期純利益と包括利益とのクリーン・サープラ ス関係
 エ 純資産と包括利益とのクリーン・サープラス関係
 オ 純資産とその他の包括利益と のクリーン・サープラ ス関係
③ 「 クリーン・サープラス関係」とはどのような関係を意味するのかを説明し なさ い。


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