株主資本はいつ変動するのか?
1.はじめに
株主資本はいつ変動するのでしょうか?
株主資本がどのようなタイミングで変化するのかを会計学上の資本と利益の区別及び具体的な会計処理を前提に考えてみました。
2.株主資本とは何か?
まずは対象となる株主資本とは何かを考えておきましょう。
株主資本とは、「純資産のうち株主に帰属する部分」をいいます。
マンションなどでは、所有者の持分といったりしますが、企業の純資産のうちの株主の持分、それが株主資本です。
「株主資本」の歴史は、それほど古いものではありません。
平成18年にそれまでの「資本の部」が「純資産の部」に変更され、貸借対照表に「株主資本」という区分が生まれました。
資本の変動と利益が等しい関係、いわば利益がきれいに資本に反映しているごくあたりまえの関係をクリーン・サープラス関係といいますが、財務諸表にこの関係を示すために株主資本が生まれたともいえます。
この「株主資本」が増加するケースは、2つあります。
一つは資本取引による場合であり、もう一つが損益取引による場合です。
それぞれの会計処理は、以下のように大きく異なり、それぞれにおける株主資本を変動させるタイミングも異なります。
3.資本取引により変動する場合
資本取引とは、株主との直接的な取引です。
株主は、いわば会社の所有者であり、資本取引により株主資本は「期中に」直接的に変動します。
資本取引では、この株主資本の変動を直接的に捉えて記録します。
資本取引の典型は、増資です。
株主からの増資により企業が資金を受け入れ、株主資本は増加します。
【増資の場合】
(借)現 金 預 金××× (貸)資 本 金×××
また、株主に対して配当を行うことでも株主資本は減少します。
配当の原資が利益であれば、次の処理をします。
【配当の場合(利益が原資)】
(借)繰越利益剰余金 ××× (貸)未 払 配 当 金×××
配当の原資が資本であれば、次の処理をします。
【配当の場合(資本が原資)】
(借)その他資本剰余金××× (貸)未払配当金×××
資本金、繰越利益剰余金及びその他資本剰余金は、いずれも「株主資本」に属する項目です。
資本取引では、いわば会社の所有者である株主自身が会社にお金を入れたり、会社からお金を持ち出しているだけであり、株主資本を直接に増減させます。
このような資本取引による株主資本の変動額は、「期中」に直接株主資本の勘定を変動させることになります。
4.損益取引により変動する場合
上記のように期中に資本取引があれば、直接、株主資本の金額を増減させます。
これに対して損益取引により儲かった場合の会計処理は異なります。
損益取引による株主資本の増減は株主資本を直接的に増減させません。
期中では、いったん、「収益」や「費用」の勘定を経由します。
企業会計では、一会計期間の利益の算定が大きな課題であり、利益がどのように発生したかを明らかにする必要があるためです。
損益取引では、資本取引の場合のように期中に株主資本を直接増減させるのではなく、いったん収益(株主資本の増加要因)や費用(株主資本の減少要因)という科目を用いることによりどのような原因で株主資本が変動したのかを明らかにするためにこのような会計処理を行います。
株主資本の原因別の内訳明細書が損益計算書といえるでしょう。
【期中の手続】
(借)現 金 預 金150 (貸)売 上150
(借)仕 入100 (貸)現 金 預 金100
損益取引による株主資本の変動は期末の決算整理及び決算振替を経て、株主に帰属する部分が確定します。
【決算の手続】
(損益振替)売 上150 損 益150
損 益100 仕 入100
(資本振替)損 益 50 繰越利益剰余金 50
当期の純利益は、期末に繰越利益剰余金に振替えられ、この分の株主資本が増加します。
このように損益取引では、期中では収益と費用の勘定で処理され、期末に「繰越利益剰余金」という株主資本の勘定が増加することになります。
5.おわりに
株主資本は、資本取引と損益取引とでは、その記帳の仕方が異なります。
資本取引では期中に直接株主資本を増減させます。
これに対して損益取引では、「期中」で株主資本に属する科目を使わず、収益や費用という勘定を用いその差額で算定された純利益が期間的な変動額として「期末」に株主資本の変動額として把握されます。
このような記帳を行なう限り、資本取引を除いた株主資本の変動額は当期純利益と一致し(クリーン・サープラス関係の成立)、貸借対照表の株主資本と損益計算書の当期純利益は連携します。
資本取引と損益取引とでは、株主資本の変動を捉える記帳の仕方が異なり、このような相違が生じるのは資本取引による期中の直接的な株主資本の変動と損益取引による株主資本の変動とが本質的に異なることによります。
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