ラジオリスナーの悲劇①

月曜深夜。まぎれもなく月曜深夜。

既にベッドに入って部屋の電気は消してある。こうなると一般的には消灯なのだろうが、僕にとっては20年行ってきたスタンバイなのである。

同じ趣味を持ってる仲間はたくさんいる。ざっと地域の人口の1.2%もの人々だそうだ。が、誰一人顔を知らない。
皆スタンバイの方法は人それぞれだろう。僕の場合はこのスタイルでやってきた。もしかしたら深夜1時の5秒前、この瞬間がマックスかもしれない。。。

静まる部屋と高鳴る期待
オープニングのサウンドトラック 

イヤホンから変わらぬ何時もの声。僕の居場所を告げるドナリ。

『今週気付いたこと』

コンマ何秒かの間

『えー、、、みんなM見た?あれさ…』




どよめいた。  僕が。 

先週と同じだ。先週の録音をまた流してる!

月曜深夜のこの番組を月・火・そして週末の3回聞いてる僕が分からない筈がない。

だが、どよめきはワクワクに移行していた。ほんの3秒の間であったろうか。
厳密に言えばその間に局の何らかの技術ミスか?が挟まってからのワクワクであるが。

何か仕掛けてきてる!頭の中がぐるぐる廻る。ドッキリなのか、遅刻か。遅刻?昼と深夜の間のテレビ収録が押してるとか?
ありえない。ラジオを最優先にスケジュール組んでる筈だ。しかも収録って、コロナ禍だし。


すると帝王の言葉を遮るようにして
『ぇー 番組の途中ですが、、すみません。。。ジャンク総合プロデューサーの髭宮です』

このワクワク何年ぶりだろう!サッカーワールドカップの時以来のラジオドラマか?

いよいよ前のめりになる。寝ているので上のめりと言うべきか。

『実は番組開始の時点ではパーソナリティの武者小路さんがスタジオを出て行ったきり帰って来なかったため、、、かと言って替わりに繋ぐのもと、、えー先週の放送を再放送していたのですが、、』

様子がおかしいのは分かった。
ラジオは声で感じるメディアだ。

『スタッフが迎えに行った所、、そのー、倒れてまして、武者小路さんが、、あのー、そのまま病院に搬送されました。大変緊急な事態を向かえまして、、すみません。3時まで、いや、もしかしたらアナウンサーに入って貰うかもしれませんが、、暫く曲をかけさせて下さい。。』

radikoをそのままバックグラウンドにしてTwitterを開いた。
外したのか外れたのか覚えてないイヤホンが腕に絡み付いてる。ジャックから外すとビートルズの『愛こそはすべて』が流れて来た。

#ijuin

タグを検索すると騒然としていた。野次馬もいた。いつもは目立つ有名ネタ職人のアカウントも埋もれるほどの大勢の呟きが、さまざまな感情が、文字となって写し出されていた。

僕はと言えば、まだドッキリの可能性を信じていた。種明かしがされる事を祈りながら立ち上がりカーテンを開けた。



 
 
 
つづく

#ショートショート  

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