ラジオリスナーの悲劇②

[①からのつづきです]


東京から下って荒川を渡るとすぐの埼玉県K市のマンションの窓からサンシャインの上層が僅かに見える。武者小路さんの住まい(とラジオで言っている)池袋の方を向いて拝むような気持ちでそのビルを眺めていた。


深夜1時半を回った街は静かにまばらな明かりを灯してた。緊急事態宣言がなされてから2週間あまり、『眠らない街』というフレーズも最早古く『街は眠らない時代』であった筈が、今は夜は夜らしくなっていた。なんとなく空気が重くはり詰め、外出出来ないストレスも合間って、そう、苦しかった。
街が、特に大都市ほど閑散とし映画のワンシーンではないかと言う光景がニュースで連日流れている。32年生きて来たが、こんな事は初めてであった。



コロナが終息したら二人会を…
昼の番組で師弟が交わした約束を見届けに行くと心に決めていた。それを励みに何とか頑張れていた。


僕のためにも頑張ってくれ!
勝手な想いをぶつけては消して


何にしても頭から離れない『大丈夫だろうか?』の文字。
無事でいて欲しい。それだけを神様にお願いした。いやそれとレントゲンを撮った結果『見たこともない大きなうんこです』再び なんてオチなら最高なのに…

ふたたび窓の外を眺めた。


2時の時報とともにTwitterのTLには『2時! #ijuin 』の呟きが連なった。思わず涙ぐんだ。数週前に武者小路さんが木曜日の有楽町への粋なやり方でのエールをリスナーがパロってるのである。

そうか数週間前か…

そう。数週前に深夜ラジオとネットニュースとTwitter。劇場化された集団心理の恐ろしさと、それが実際の生活に降りかかる体験。つまり番組が打ち切られるかも知れない不安。

いや正確には、木曜日のヘビーリスナーではなかったので、僕自身には降りかかってはないのだが、番組が違うだけで深夜ラジオにすがって生きている人の気持ちは痛いほどよくわかる。


ラジオ番組は時にあっけなく終わる。

面白くても、大勢の人が聴いてても、どんなに惜しまれても終わる時は終わる。

パーソナリティが何かの不祥事で謹慎しても、
そして、事故や病気で倒れても…



ラジオスターの悲劇は、そのままラジオリスナーの悲劇だな

そんな事を考えてる時だった。


『ジャンク総合プロデューサーの髭宮です。ニュースデスクから○○さんです』

『月曜日パーソナリティーの武者小路さんが搬送先の病院で死亡が確認されました。。。。。


。。。。。武者小路さんが息を引き取られました。52才でした。』


つづく

#深夜ラジオ #ショートショート

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