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『青蓮丸、西へ』 夢路 

 「どうしたんだろう、眠くって仕方ないや」と、青蓮丸はうつらうつらからだが揺れて、まぶたが閉じてゆきました。丹徳にもたれて櫂を動かすものは誰もいません、丹徳の膝の上のルカが目を覚ましました。

 「おいおい、ツグミ、みんな寝てしまったよ。どっちへいくのかい」と、ルカはへ先で毛繕いをしているツグミに声をかけました。「あらあら、櫂を漕ぐ人がいなくなっちゃって。ルカには漕げないわね」と、少し高い声で返事をしました。「ふん、僕だって漕げるよ」と、ルカは櫂にしがみつきました。間近に波が寄せてきます。「わわわ、水は駄目だよ、怖いんだ」と、ルカは櫂をバリバリと爪で研いでいるばかりでした。
 「ほらほら、言わないこっちゃない」と、ツグミはルカの頭の上に止まりました。

 「青蓮丸は、昨日の嵐で疲れ切っているのよ」。「このままじゃ僕たちはどこへいくのかわからないじゃないか」と、ルカは狭い額を寄せて心配そうに言いました。「今は、海も静かになっているから、大丈夫。目を覚ます頃には、入江があるはずよ」。「僕は見ているからな」と、ルカはへ先に立って海の匂いを嗅ぎました。


©松井智惠           2022年9月1日 筆

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