感想:コンサート『Reframe THEATER EXPERIENCE with you』 デジタルと肉体の往来、過去の捉え方


【制作:日本 2020年公開(コンサート:2019年10月27日実施)】

テクノポップユニット・Perfumeが、2019年10月に実施したコンサート『Reframe 2019』。
LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のこけら落としでもあった本公演の千秋楽を記録したコンサート映画。

「Reframe(再構築)」と題されたこのコンサートは、2000年に結成されたPerfumeの20周年に際し、ユニットの軌跡を踏まえた上で、これまで発表した楽曲や映像を組み合わせて新しい作品として表現するというコンセプトを持つ。
本編内のMCはなく、観客は全席着席、レスポンスも基本的に拍手のみであり、観客と双方向のコミュニケーションで作り上げるというよりは、それ自体で完結した作品を観客が鑑賞するという形式をとる(来場者の写真を解析して舞台演出に反映する『Pose analysis』を通して、観客を作品に組み込む試みは行われている)

公演全体が、Perfumeというユニットの在り方やポリシーを反映しており、20周年という節目に際してユニットのアイデンティティを再確認し、表現している公演だと感じた。

印象的だったのは、「デジタル/肉体」のふたつの極を、作品内でPerfumeが行き来することである。
Perfumeは2003年以降、一貫して中田ヤスタカのプロデュースのもとで楽曲を発表している。加工した歌声によるテクノポップやエレクトロポップ、EDMという楽曲のスタイルは、Perfumeというユニットを特徴づけるものだ。
また、ライブコンサートや一部テレビ出演時の舞台演出では、デジタル技術を表現に応用するクリエイターチーム・ライゾマティクスを起用する。
ステージパフォーマンスを行うPerfumeの身体をスキャン・コピー・加工し、リアルタイムで演出に応用するライゾマティクスの手法は、中田による楽曲に呼応し、Perfumeの世界観を規定・拡張する役割を果たしている。

本公演では、デジタル技術を駆使した楽曲を発表し、パフォーマンスを行うPerfumeの在り方そのものが表現される。
Perfumeのメンバー3名の身体や声が断片化されて素材となり、作品として再構成されていく冒頭〜「マイクチェック」のシークエンスは、中田がPerfumeの楽曲を制作する過程とパラレルである。また、特に「FUSION」と「edge」における、踊る彼女たちの身体が無数にコピーされ、舞台に広がっていく演出も、デジタル技術を通してPerfumeの存在が多くの人に知れ渡り、Perfumeの世界が拡大を続けていく様子を示しているといえる。
リップシンクを積極的に行うユニットであることからもわかるように、Perfumeは録音や複製の技術を非身体的なもの=「偽物」として敬遠するのではなく、自分達の世界を表現し、拡張するためのツールとして肯定的に捉えている。

一方で、ふんだんにデジタル技術を用いたパフォーマンスの狭間に、Perfume3名の「生身の身体」を強く意識させる演出が随所で配置され、拡大し続ける世界の源がPerfumeの生きた肉体であることを強調する。
「マイクチェック」では彼女達の声が断片的に切り取られ、平板な素材として組み合わされるが、続く場面では「VOICE」の一節「点と点をつなげてこ/everythingを合わせてこ」が肉声で朗々と歌い上げられる。これは、Perfume3人の身体こそがPerfumeの世界の発信源であることを示す。また、歌詞の内容から、一度バラバラに断片化された素材が組み合わされ、現在のPerfumeの身体を通して再び結実するという本公演の構造を反映しているといえる。
ライゾマティクスによってリアルタイムで生成される3DCGのPerfumeが舞台に満ちる「edge」も同様で、「誰だっていつかは死んでしまうでしょ」という極めて身体的な歌詞から始まる大サビで、拡張された世界はPerfume3人の肉体に引き戻される。
また、舞台上に立つのっちの身体をあ〜ちゃんとかしゆかがスキャンし、その場でコピーが生成される、という、「生身の人間のコピーをとる行為」そのものを強調するシークエンスも存在する。
限りなく広がり続けるように見えるデジタルの世界と、その絶対的な軸である3人の身体が、公演を通して絶えず行き来する(冒頭の「マイクチェック」でも、ベースとなるリズムは生きた3人の心音である)
ユニットのアイデンティティである「デジタル技術による複製・断片化・再構成」と、生身の3人の双方を肯定し、その両輪があってこそPerfumeは成り立つことを繰り返し確認する構成だと感じた。

過去の映像や音声については、「時系列に沿った振り返り」をベースとしながらも、それのみにとどまらない再構成がなされているのが印象的だった。
公演内では、メジャーデビュー曲である「リニアモーターガール」以降のすべてのシングル曲のタイトルが順に読み上げられ、メンバーが当該曲のダンスにおける象徴的なポーズをとっていくシークエンスと、過去のライブタイトルを順に挙げていくシークエンスが存在する。
デビューから現在にかけての楽曲やパフォーマンスの変遷をたどり、表現の内容や規模がアップデートされていく様子を追うのは、ユニットの節目に行われる演出としてはスタンダードなものであるといえる。
一方で、本公演では過去の映像や音声を、アーカイブとしてのみではなく、「生きた素材」として扱う姿勢がみられる。
冒頭の、3人の過去のインタビュー音声の再構成や、過去のライブ映像をリミックスした「シークレットシークレット」の演出、過去の楽曲から「僕」「君」「光」といった単語を抜き出していく演出からは、過去のあらゆる瞬間を素材として切り取り、時系列順とは異なる文脈で束ねて、新しい表現を生み出す試みがなされる(この手法が最も明確なのは「再生」のミュージックビデオであり、本公演での演出はそれにつながるものという印象を受けた)
Perfumeはインディーズ時代を含めてキャリアが長く、中田のプロデュース開始前後ではユニットのスタイルが大きく異なる。また、テクノロジーを駆使した在り方そのものが未来志向ということもあり、アルバムごとに「更新」を強く掲げている点も特徴であるといえる。
そうしたユニットだからこそ、直線的な現在-未来のみを肯定するのではなく、過去の試行錯誤や挑戦の過程も等しく尊ぶこうした表現は、20周年の節目の「自己の再確認」として効果的なものだと感じた。

「Perfumeの肉体の重視」「過去の有機化」といった表現は、ユニット・ステージ全体のデジタル/未来志向と調和しながらも、重石のような役割を果たしている。
過去が未来を導く、という流れのもとで展開され、3名がステージライトを操り、Perfumeの世界のさらなる拡張を連想させる「無限未来」のあとに、これまでの世界観そのものを疑うような歌詞の「Dream Land」が配置される構成はシニカルで、勢いに身を任せるのみではない、自省的な姿勢が窺える。
全体の最後に配置された楽曲「Challenger」で、照明以外の演出がないステージのもと、Perfumeは初めて笑顔を見せてパフォーマンスを行う。
同曲は中田ヤスタカがPerfumeをプロデュースする契機となったデモ的な楽曲であり、サウンドも2019年現在の楽曲のテイストとは異なり、『Perfume 〜Complete Best〜』(2006/2007年)の楽曲群を思わせるものである。
最後のMCであ〜ちゃんが語るように、Perfumeは「アイドル=テレビやラジオといったマスメディアで特集されるもの」というステレオタイプがまだ根強かった時代に、ライブで下積みを重ねてブレイクに至ったユニットである。
当時は現在のような演出はなく、彼女達は生身の身体をもって目の前の観客を楽しませることを積み重ねてきた。だからこそ、WEBを含めたマスメディアやテクノロジーの後押しを受ける現在も、Perfumeは自らの肉体や肉声に誇りを持ち、それらがあってこその「Perfume」である、というメッセージを打ち出しているように思う。
そういった意味で「Challenger」は、Perfumeの「原点回帰」であり、究極的には板があれば身ひとつでパフォーマンスができる、というライブアイドルとしての矜持を示すものでもあると感じた。

パフォーマーとして自分達に与えられた世界観を尊重しつつも、それに溺れない、という在り方がPerfumeの特徴だと感じる公演だった。
ライブ映像はこれまであまり観てこなかったので、他の歌手の作品なども鑑賞して、ライブコンサートならではの演出や構成、観客とともに構築していく作品の在り方をさらに知っていきたいと思う。

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