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航空大学校2次試験受験前に第1種航空身体検査を自費で受けるべきか? 航大合格者/現役医師の考察

航空大学校の受験において大きな関門である、2次試験の航空身体検査。

定番の対策として、
☑事前に航空身体検査指定機関で第1種航空身体検査を受ける
☑徹底的に健康な生活を送る
☑予備校のセミナーに頼る
などが挙げられるかと思います。

本稿では、事前に航空身体検査指定機関で第1種航空身体検査を受けることが本当に必要なのか、私見を述べさせていただきます。参考までに筆者は令和三年度航空大学校入学試験合格者、且つ116回医師国家試験に合格し医籍登録を受けております。

当然ですが航空身体検査は保険適用外であるため、ただでさえ約3万円が相場、中には航大が実施しているより細かい検査をほぼ網羅してくれる代わりに非常に高い金額を設定している医療機関もあります。受検するかの判断材料になれば幸いです。
また、対策する価値のある検査項目のみを選んで近隣のクリニック等で検査する経済的且つ現実的な方策も考察します。


航空身体検査を事前に受けるメリット

☑先天的な異常や不適合となる疾患/異常を予め把握できること、
☑自分の現在の体が第1種航空身体検査の基準に適合しているか否か判明すること、
☑航大2次試験に近い検査を事前に体験できること、
が挙げられるかと思います。

現時点で第1種航空身体検査にどうにも適合しない(治療や努力では解決しない)ことが判明すれば今後の時間の使い方が変わってくる人、なおかつ、高い検査費用を難なく払える人は、受けてみてもいいのではないでしょうか。
例えば脳波検査での不適合や、色覚異常など原因に先天的な要素が大きく且つ対策が難しい項目があります。どうにも受からない異常があるという僅かな可能性を完全に否定できるメリットは確かにあります。
現在持病がある、かかりつけ医から薬の処方を受けている、もしくは、大きな病気や怪我の既往があり、そもそも第1種航空身体検査に適合するか不安な方も受ける価値があると思いますが、これらの場合はまず航空身体検査指定医の外来を予約して相談してみることが先でしょう。いきなり全額自費の身体検査を申し込んで何万円も溶かしてしまうのは時期尚早です。

また、それほど頻度は高くないと思いますが、もし航空身体検査を受けてみた中で、血液検査において肝機能や腎機能、血算や血糖値、尿酸値などに異常が見つかった場合は、適切な治療や生活習慣の改善、つまりいわゆる受験対策に繋がる可能性があります。

また、航大の2次試験本番に近い検査内容を一度実際に体験することで安心感を得られるメリットもあります。検査項目が多岐にわたるため、試験当日は精神的に非常に疲れます。全体像を把握した上で臨めるのはメリットでしょう。

先輩より聞いた話で恐縮ですが、ゴールドマン視野計による視野検査を航大2次で初めて受け、確実に光が見えてからスイッチを押していったところ有所見にされ二次不合格だったという方がいました。これだけが原因で不合格になったのか、他にも原因があったのかは分かりませんが、翌年は身体検査を通過し3次試験に進んでいました。1度経験しておけば、という後悔をしないためにも、お金がある方は一度航空身体検査を体験してみるのは決して悪いことではないと思います。

余談ですが、
例えば視野狭窄では鑑別疾患として、求心性狭窄なら網膜色素変性症/緑内障末期/心因性などが挙がりますし、不規則性狭窄なら網膜剥離/網膜動静脈閉塞症などが挙がります。しかし、当たり前ですがいずれも視野検査だけでは診断基準を満たしません。マニュアルを参照しても、緑内障については『自覚症状、眼圧、視神経乳頭及び視野所見について、緑内障を疑う場合は、眼科医の診断により確認すること。高眼圧症のみで、緑内障と診断されない場合は、適合とする』と記載されています。視野検査が少しうまく行かなかっただけで第1種航空身体検査に不適合とはなり得ないはずですが。航空大学校がどういう判断をするのかは誰にもわかりません。一次試験と合わせて判断されることは確かなので、視野検査だけがうまくできなかったために不合格ということもないと私は思います。

航空身体検査を事前に受けるデメリット

考えられるデメリットは、
☑安心料にしては費用があまりに高額、
☑事前の検査で適合でも、航大の身体検査で適合となる保証は全くない、
ということが挙げられるかと思います。

航大の2次試験は入学試験の1つであるため、おそらくどの指定機関も航大の判定基準を完全には把握していません。航大の合否判定に関わる医師は日常診療の勤務先などでは判定基準を決して口外しないよう言われています。また、航空医学研究センターのホームページでも、「当センターでは航空大学校2次試験に関するご質問にはお答えできませんので、直接、航空大学校にお問い合わせいただきますようお願いいたします。」と記載されています。したがって、個人的に第1種航空身体検査を受け適合と判断されても航大では不適合となる可能性が0ではない、また、逆もあり得ると考えられます。色々なブログを見ていると、事前の第一種航空身体検査で不適合となる可能性が高いと言われてもオールsで合格している方もいるようです。

第1種航空身体検査を受けてみる際の注意点

航空大学校が実施している検査項目を把握していない/精通していない指定機関で航空身体検査を受けてしまうと、例えばアレルギー検査や血液検査を実施せずに適合の判断が出されることがあります。当然、第一種航空身体検査の基準には適合なわけですが、航空大学校の受験を見越して受診したにも関わらず結局不安な検査項目がいくつも残ってしまうことになります。私が最初に頼んだ指定機関がこのパターンでして、約3万円で心電図や脳波、レントゲン、眼科関係の異常がないことだけは分かりましたが、振り返ると非常に勿体ない出費でした。不安が残り、結局、航大での項目をほぼ全て実施してくれると評判の永田町つばさクリニック(参考までに2019年当時で49500円、自社養成向けはさらに高額で8万円近いとのことでした)で受け直すことにしました。航大受験を経て振り返ると確かに航大の身体検査とほぼ同じ項目を検査していただけました。もし航空身体検査を受けるのであれば注意した方がいいかと思います。永田町つばさクリニックと同等の検査内容で 安価な病院は聞いたことがありません。事前に身体検査を受けるなら永田町つばさクリニック一択かと思います。永田町つばさクリニックの予約状況はFacebookにて更新しているようです。

また、読者の中には普段メガネを使用している人もいるかと思います。航空身体検査では予備眼鏡について記載がありますが、クリニックで受ける航空身体検査(模擬)でも航大本番でも予備眼鏡は求められませんので、新たに作る必要はありません。これも無駄な出費になります。


自身の状態を把握する方法は他にないか?

特に持病がなく、大きな病気や怪我の既往歴もない方で、航空身体検査を予め受けることに抵抗がある方に向けて私見を述べさせていただきます。
何とか安心感を得る方法を考察しました。

①航大募集要項と航空身体検査マニュアルを徹底的に確認
当たり前ですが、まずは念の為確認しましょう。
募集要項には、
『身体検査については、第1種航空身体検査基準を踏まえて※身体検査を行い、身体検査の結果及び第一次試験の結果を総合的に勘案し判定します。第1種航空身体検査基準については航空法施行規則第61条の2を確認してください。電子政府の総合窓口(https://www.e-gov.go.jp/)の法令検索からアクセスできます。
※航空大学校の入学試験では、国土交通大臣の判定が必要な場合は基準を満たさないものとします。過去の入学試験の脳波検査で不合格となった方は、これに該当するため、再受験を認めないこととします。また、過去の入学試験の身体検査で当校が把握した既往歴等により、再受検したときの検査結果にかかわらず、不合格となる場合があります。』
とあります。

これを踏まえて身体検査マニュアルを参照し、該当する持病や既往歴がないか確認しておきます。これまで健診で異常を指摘されたり、大きな病気に罹ったことがなければ概ね大丈夫かと思います。体感では8〜9割の受験生は生来健康で花粉症や近視くらいしか持っていないと思います。が、ここで不安なことがあれば、航空身体検査指定機関を受診しましょう。外来での相談や必要な検査が自由診療扱いになることはないと思いますので、身体検査を申し込まず、患者として一般の外来を予約しましょう。

②自分で把握できる項目は調べる
・血圧:家庭用をお持ちでなければ大学の健康支援センターや献血ルームなどの血圧計で測定できます。マニュアルでは『収縮期血圧160㎜Hg未満、拡張期血圧が95㎜Hg未満であり、かつ、自覚症状を伴う起立性低血圧がないこと』ですが、JSH2019ガイドラインでは下表の基準を推奨しており、家庭血圧の平均は135/85mmHg以下を保っておく方が良いと考えられます。低血圧は、一般的には収縮期血圧100 mmHg未満の状態を指しますが、ガイドライン上の明確な定義はなく自覚症状(めまい、立ちくらみ、失神、倦怠感、頭痛、嘔気、動悸、発汗)の有無を含めて内科診察で確認されるかと思います。

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・眼球運動検査:特に重要な項目という訳ではないですが自宅で実施できます。下の写真のように、家族や友人に診てもらってください。注視してもらう指標(指かペン)を眼から50cm程度離してもらい、ゆっくり動かして眼の動きが滑らかかを観察してもららいます。また、左右・上下4 方向の最終地点で指標の動きを止め、眼振の有無を観察してもらいます。この時、指標が二重に見えないかも確認してもらいます。
 次いで指標を被験者の鼻先までもっていって輻輳反射を観察します。この際は同様に50cmのあたりに示指をかざしてもらい、被験者の眼前15cm位まで指先をゆっくり近づけて、両側眼球の内転、瞳孔の収縮を観察してもらってください。

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・平衡機能航空身体検査マニュアル内の平衡機能検査の各項目うち、令和3年度の2次試験では単脚直立検査以外はすべて実施しました。また、遮眼書字検査では斜眼時に開眼時と同じ字(縦にアイウエオ)を書かせるだけでなく、斜眼したまま顔を右に傾けて同じ書字、同じく左に傾けて書字を実施しました。これらは自宅でもできると思われます。練習すれば何とかなる検査項目でもあります。詳しい実施方法はこちらのnote(リンク)に記載していますので是非ご覧ください。
斜位、斜視:これも確実ではありませんがセルフチェックできるかと思います。(https://pp-syashisyai.com/check/)
不安な方は眼科での検査をお勧めします。航大が有所見とする基準が分からないため、不安が残りやすい項目ではあります。
色覚:こちらもある程度はセルフチェックできます。
(http://www.kyoto-be.ne.jp/hotai/cms/?action=common_download_main&upload_id=1475)
(https://tomari.org/main/java/me_shikimou.html)
(https://www.yasuma-ganka.or.jp/treatment/tr-color-inspection/)
不安な方は早めに眼科での検査をお勧めします。
身長、体重:BMIを計算しましょう。日本では18.5 ≤ BMI < 25.0が普通体重とされています。筋肉質な方だと25を超える方もいるかと思いますが、その場合は身体診察や血液検査を踏まえちゃんと考慮されると思いますので、無理な減量は必要ないはずです。


③事前に検査しておくと安心そうなもの(あくまで一意見)

血液検査:航空身体検査医のいるクリニックなどに電話して事情を伝え、保険適用で受けられるところがないか探してみると良いかと思います。
令和3年度の航大の検査ではスピッツ3本の採血があり、スピッツ色から血算、生化学、血糖を測定していたものと思われます。それぞれ何のデータをオーダーしているかは不明ですが、毎年の再検査対象者の表から考えると血算、血糖値に加え肝機能、腎機能関連の検査値は確実に見られているでしょう。
参考までに、永田町つばさクリニックの航大受験生向け模擬検査では、以下の血液検査、尿検査が実施されました。
赤血球、ヘモグロビン、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHC、血小板、白血球、AST、ALT、γGTP、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、尿酸、クレアチニン、血糖、尿検査(←尿蛋白、尿潜血、尿糖)

検査してもらえる項目は限られてしまいますが献血をして無料で検査結果を出してもらう、というのもよくやっている人がいます。腎機能などの項目は検査されません。
アレルギー検査:花粉症などがある場合、近くのアレルギー内科で保険診療で検査してもらえます。大抵のクリニックの場合、エスアールエルなどに検査を外注しますので、概ね1週間で結果がわかります。永田町つばさクリニックでは非特異的IgE、スギ、ダニ、ハウスダストの検査をしてもらえました。航大でもこの項目を検査していると推察されます。
令和3年度の航大の検査表では、何故か[再検査欄]に非特異的IgE、スギ、ダニ、ハウスダストの欄がありました。後に私の開示結果を参照すると、令和3年度はアレルギー関連の検査を実施していなかったようで非常に驚きました。令和4年度以降は実施するかは分かりませんが、今後あまり心配いらない項目になってくるかもしれません。
アレルギー検査、血液検査、尿検査をあわせて、保険適用で自己負担額およそ7千円前後で受けられると思います。クリニックにより差がある場合があります。
視力検査(遠距離、中距離、近距離)、斜視、斜位、視野検査、深視力:近隣の眼科にて検査しておくと良いかと思います。それぞれ具体的な検査方法については、航空身体検査マニュアルに基本的に沿っていましたが、当日の全貌を解説した私の記事(リンク)に別途詳しく記しています。特に視野検査はゴールドマン視野計が導入されているクリニックか確認してから受診してください。視野検査、深視力は練習の意味合いでも一度受けてみる価値が大きい検査です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。
あくまで 事前に航空身体検査を受けた上での私の一意見ですが、参考になれば幸いです。試験である以上万全に対策したい心理が働きますが、あくまで臨床検査なので、万全に体調を整えて臨むのが一番の対策ですし、やはり実際に受けてみないことには航大に受かるか落ちるかは分かりません。メリットデメリットを踏まえて考えてみてください。

何度か文中で紹介しましたが、こちらの記事(リンク)「令和3年度航空大学校2次試験身体検査ー当日の全貌とアドバイスを書き起こしました」にて、具体的な対策や当日の流れ、アドバイスを航大受験経験者且つ現役医師の私の視点から詳しく解説しております。是非ご一読いただければ幸いです。

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