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〜訪問看護師として想う日々のあれこれ。訪問看護師たねあかし〜

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長年、訪問看護師として働いてきた、私自身の仕事観、考え方、私を支えるものなどの話です。
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#病気

「無知はひとをころす」ということを覚えておきなさい。

「ねえ、まか。『無知はひとをころす』ということを覚えておきなさい。」当時高校生だった私に、先生が言った。 当時、高校生の私には先生の言葉が理解ができなかったが、30年以上経た今でも折に触れ、心の奥底から意識へ浮かび上がってくる言葉の一つだ。 その言葉と共に、先生の容姿もなぜかはっきりと覚えている。 小柄で色白、黒縁の眼鏡にショートヘア、襟付きのチェックのシャツにアースカラーのチノパンツ、聖書の授業が専門なのになぜかいつも白衣をフワッと羽織っておいた。 女性だったけれど、女性

訪問看護師働き方改革

こんにちは。久しぶりの投稿になってしまいました。 訪問看護という仕事柄、身近な問題として2月は新型肺炎の対応に追われてしまいnoteを開くのも久しぶりとなった次第です。 病気を持たれた方への自宅および施設への訪問看護を行うという仕事は、ご利用いただく利用者さんにとっても、私たちスタッフにとっても配慮と工夫が必要となります。 今回は、私たち働く側の工夫について、実際行っていることをご紹介します。(少しでも参考になれば幸いです) ①事務所近隣在住スタッフの自宅からの直行直帰体

訪問看護でお会いして、お見送りをした方々が「自分に何を教えてくれたか」を心に刻み、共に生きるということ

綺麗な三日月の夜に旅立たれた、Mさんの四十九日が過ぎ、私から担当を引き継いでくれたスタッフナースと担当ケアマネジャーの3人で、Mさんのご自宅にお伺いした。 ・・・ ドアを開けた奥様の顔が「ぱっ」と明るい笑顔になり、「わー、懐かしい。来てくれてありがとう。」と私たちを招き入れて下さった。 すっきりと片付けられたリビングには、Mさんの柔らかな笑顔の遺影とともに小さなお仏壇があった。 山が好きで文章を書くことが好きな、Mさんらしい戒名。 最期のとき「夕焼けが見たい」と言われたMさん

1杯のコーヒーのような、看護。

今回の退院時カンファレンスは2時間に及んだ。 私はカンファレンスの後、病室で待つYさんにご挨拶をし 「それでは、次はご自宅でお会いしましょうね。今日はありがとうございました。」と病室を後にした。 病院玄関を出た頃には、すっかり日が落ちていた。 自宅退院をされ訪問看護を希望される方の支援として、入院中に病院に伺い、退院に向けてのカンファレンスを行うことがある。 病院の主治医・病棟看護師・理学療法士・ケースワーカー、ケアマネジャー、訪問看護ステーションスタッフ、訪問診療の医

昨夜は綺麗な三日月だった。

ここのところ、台風や雨、多忙の為の私自身のゆとりの無さも手伝って、夜空を見上げる機会がなかった。 昨夜、夜に外出したこともあり、久しぶりに夜空を見上げた。 雲のないひんやりとした夜空に、綺麗な三日月が浮かんでいた。 それからしばらくして、スタッフからMさんの訃報が届いた。 私が、夜空を見上げていたちょうどその頃、Mさんは旅立たれたそうだ。 ・・・ 私はサテライト看護部門開設準備のため、途中でMさんの担当を外れることになってしまったが、その後もずっと気になっていた方だっ

大切にされていることを、大切にしたい。

Mさんは消化器系のご病気で、病気が分かってから1年以上、ずっと奥様と二人三脚で闘病をされてきました。口からの食事がとれない為、24時間の持続点滴は欠かせません。 先日、知的で穏やかなMさんにしては珍しく、スタッフとの電話の際Mさんが語気を強めたやり取りをされたと聴き、私は少し気になっていました。 抗生物質の点滴の追加指示が出たため、私は久しぶりにMさんのお宅へお伺いしました。 他愛のない話の後、私が抗生物質の点滴の準備をしていると、Mさんがぽつりぽつりとお話ししてくださいま

私の仕事における「日常」とは「非日常」であることを忘れてはいけない。

日曜日から娘の熱が下がらない。 何の症状もなく、急な発熱と頭痛。季節の変わり目の体調不良かと思いきや40度の高熱と頭痛のため、前回の季節外れのインフルエンザも疑い、翌日、急病診療所へ1回目の受診をした。 インフルエンザ検査はマイナス、解熱剤処方にて様子を見ることになった。 3日経っても熱が下がる様子はなく、色々な可能性を予想しながらも、小さい頃にお世話になっていた、かかりつけ医へ2回目の受診をした。クラスでインフルエンザが出ていたこともあり、再検査をお願いするもマイナス。

眠れない夜に〜

オンコール当番の夜。電話が鳴りました。 「夜分にすみません。父のことで相談です。どうしたら良いかわからなくて・・。」 電話口では、心配そうで、そして、夜に電話した事が申し訳なさそうな娘さんの声。 私は娘さんとのやり取りの後、今からうかがって様子を看させていただく事を提案しました。 「本当ですか!来ていただけるのなら、お願いします!」 娘さんの声が少し明るくなりました。 (うかがって、対処ができて、何とかなりますように) 私は内心ドキドキしながら、利用者さんのお宅へ車

くやし涙

訪問看護部門の中でも、あまり感情を表に出さず、冷静に淡々と仕事をこなすKさんが事務所に戻ってきたとき、珍しく涙をためていました。 どうやら悲しいのではなく、くやし涙のようです。 主治医の先生とこんなやり取りがあったようです。 彼女の受け持ちの利用者さんは微熱が続いており、経過観察していたのですが、血液検査の結果炎症反応が悪化していました。 ご家族も微熱が続いている事、検査結果が悪くなっている事、 「このままでは身体が弱ってしまうのではないか」と心配をされていました。