THE YELLOW MONEY と私

私がイエモンに出会ったのは2016年、再結成の時だ。新聞広告に載っていたJAMの歌詞が目に留まり、そこから興味を持った。YouTubeでまずJAMを聴き、衝撃を受けた。その歌詞のメッセージ性、吉井さんのユニークな歌声、力強いリズム隊、かっこよくも陰のある印象的なMV、ありとあらゆる面で魅了され、私は一瞬にしてTHE YELLOW MONKEYというバンドに恋に落ちた。

その後初めてテレビでのパフォーマンスを見たときに、さらに衝撃を受けることになる。ど派手な衣装とメイクに身を包んだロン毛の4、50代のおじさんが4人。どう考えてもかっこよくなるはずがない文字の並びなのだが、画面に映るイエモンはめちゃくちゃイケ散らかしている。高身長で抜群のスタイル、ふさふさの髪の毛。そして最高の演奏。裏声で歌うオーバーサイズシャツ黒髪マッシュがあまりに多くて辟易していた私には、このおじさんたちがものすごく輝いて映った。

ファンになって数年。留学、コロナ禍などを経て、ついに先日初めてのライブに行ってきた。タイトルはTHE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 "SHINE ON"、東京ドームでの3年半ぶりの公演だ。

私は生まれてくる時代を間違えてきてしまったので、他の好きなアーティストたちにも同年代のファンというものがほぼ存在せず、1人でライブに行くことが多いのだが、今回は弟が一緒に行ってくれることになった。実家にいたときに少しずつ布教していったのが功を奏したようだ。

ライブ当日、とある事情によりモスバーガーのお食事券を大量に持っていたので、ドーム近くのモスで待ち合わせることにした。ここで私は重大なミスを犯してしまった。ついいつもの癖でアイスコーヒーを頼んでしまったのだ。そう、利尿作用が半端ないのに。いやな予感はしつつもモスを出るときにトイレも借りたし大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。

いよいよ会場に着き、人の多さに圧倒されつつ、開演30分前くらいに入場した。

トイレに行きたい。

絶対に激混みなのは予想していたが、背に腹は代えられない。入口から伸びる行列の最後尾を探しに行った。4階にあるトイレなのだが、どうやら階段下まで並んでいる様子だ。覚悟を決めて階段を下っていくのだが、2階分くらい降りても行列が途切れる様子がない。おかしい。そして二列になっている箇所があることに気が付く。どういう構造なんだ。すると踊り場で案内している係員らしき人物がなにやらおばさんと揉めているのが目に入った。耳を澄ましてみると衝撃の事実が判明したのだった。まず2階分上がって4階分下ってまた2階分上がってようやくトイレにたどり着けるという列になっているらしい。無理だ。どう考えても無理だろ。

絶望した私はプランBを遂行することにした。とりあえず着席して耐える作戦だ。ふと弟が小学校のとき所属していたラグビーチームの練習着に書かれていた文字が脳裏に浮かんだ。「限界に挑戦」。席は通路から遠く座席間隔も狭いので、座っている人たちにかなり避けてもらわないと移動できない。覚悟を決めて着席し、開演を待った。

ステージ脇のスクリーンに映し出されるカウントダウンが60秒を切ると、会場のボルテージが一気にあがる。隣のご婦人はすでに涙を流していて若干ビビったが、私も初めての生イエモンに胸が高鳴る。そして数字が0になり、4人が登場した。2階スタンドの客席からはかろうじて肉眼で認識できるレベルだったが、それでもあふれ出るオーラに圧倒された。1曲目から「バラ色の日々」。制約がなくなり、みんなで大声で合唱できる喜びをかみしめながらライブがスタートした。その後は新曲の「SHINE ON」。イエモンらしい曲調と、ゆるくも深い歌詞が最高だ。3曲目からも代表曲が続き、大いに楽しんでいたのだが、徐々にそれどころではなくなってきた。限界だ。MCに入った瞬間、トイレに行くことを決断した。吉井さん、同列の人たち、本当に申し訳ない。頭を下げながら移動し、トイレに向かう。

帰ってきてからは心の底からライブを楽しむことができた。特に大好きな「SPARK」で "Are you ready to spark?" と叫べたときは、本当にテンションがブチ上がった。

曲間には吉井さんの喉頭癌克服のドキュメンタリーが流され、心が痛むと同時にステージに戻ってきてくれた吉井さんに尊敬、感謝の念を抱いた。そして私の頭の中には「ALRIGHT」の歌詞が浮かんできた。

何よりもここでこうしてることが奇跡と思うんだ
命はいつか絶えるだろう だけど 最高の出会いが

https://theyellowmonkeysuper.jp/lyrics/detail/122/

当たり前だと思っている環境は実は驚くほど不確かで、ある日突然崩れるかもしれない。でもだからこそふとした瞬間、何気ない出会いによって状況が簡単に好転することもある。

永遠なんて一秒で決まる
永遠なんていらないから

https://theyellowmonkeysuper.jp/lyrics/detail/120/

「SPARK」の最後も、そんな儚さをうたっていて大好きな歌詞の一つだ。今持っているもの、環境にこだわらず、この瞬間で一番心惹かれる選択をし、今しかできないかもしれないことを全力で楽しむ、そういう人間になろうと努めている。

自分たちのスタイルを貫きつつ、日々進化を続け、活動を全力で楽しんでいるTHE YELLOW MONKEYというバンドは、私の憧れだ。演奏しながら全力でステージを駆け抜けていく平均年齢58歳のメンバーたちを見つめながら、改めてそう感じた。最後に、少しだけ無理をして頑張ります、という吉井さんの言葉があった。また会える日まで私も少しだけ無理をしてみよう。今度はコーヒーを飲まずに。


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