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【球質解析】Patrick Murphy【日ハム】

2024シーズンに向けて、北海道日本ハムファイターズは多くの新外国人選手を補強しました。これらの選手たちがどのように活躍してくれるのか、その可能性を探るため、スカウティングレポートを書き残したいと思います。

取り上げるのは、パトリック・マーフィーです。

身長195センチ、体重96キロ、2013年にMLBドラフト3巡目でプロ入り、2020年メジャーデビューし、2022年はナショナルズでリリーフとして登板しましたが、2023年はMLBでの登板はありません。
これまでリリーフとしてのキャリアを送ってきたMurphyですが、2023年の8月より先発に挑戦し、18.2inn 4.34ERAという成績を残しています。(リリーフでは66.2inn 3.51ERA)

トラッキングデータの深掘り

今回は2023年AAAでのトラッキングデータを元に彼の特徴を探ります。

トラッキングデータによれば、フォーシームとシンカー(ツーシーム)とカーブの3球種のみの投手です。
球速はフォーシームが153.5km/h、シンカーが154.5km/hです。速いですね。

ところが、Break Chartを見ると、どうもストレートとカーブの間の変化をするカッターのような球種を投げていると言えそうです。

手元で確認

ファイルを確認したところ、IVB:20 HB:0付近のボールは球速が140中盤であり、カッターとして分類した方が良さそうです。また、シンカーよりさらに曲がって落ちる140中盤のチェンジアップのような球種を投げています。

これらの球種が今はカーブ・フォーシーム・ツーシームに分類されているので、本来はもう少しフォーシームは速く、カーブは変化量が多そうです。

このカッターとチェンジアップを分離してみます。
球速が138km/h以上150未満、変化量が縦-3cm以上30cm未満、横11cm未満、のボールをカッターに、(黄色)
球速が138km/h以上150未満、変化量が縦-3cm以上30cm未満、横11cm以上のボールをチェンジアップに分類してみます。(オレンジ)

違和感はないはず。
各球種の球速・変化量を見てみます。

2023年のPatrick Murphy全投球

チェンジアップ・カッターを分類したことによって、フォーシーム・シンカーがともに155km/h以上であることがわかりました。

(これだけだとNamikiさんも似た分析をしているので、)このデータをさらに深掘りしていきましょう。
GameLogによれば、8月6日に23シーズン初めて3イニング以上登板を行い、8月12日には初先発、これ以降は安定して4,5イニングを投げています。今回は、8月6日以前をリリーフ8月6日以降の登板を先発として、それぞれでの球速を見ると

先発時
リリーフ時

先発ではフォーシーム・シンカーともに154.7km/hです。これはオリックスの山下(154.4km/h)を上回り、日本で2番目の高球速先発になります。
またリリーフではフォーシームが155.4km/h・シンカーが156.3km/hで大体ライデル・マルティネス(155.7km/h)や甲斐野(155.3km/h)と同じ、これも超高速です。
先発とリリーフでの球速差はどちらかというと少ないタイプの投手ですね。彼を最大限に活かしたいなら先発させるのが正解と言えそうです。

来日すると数キロ球速が落ちる投手が多いのはさておいて

各球種の分析

球種をそれっぽい形に分類できたところで、各球種のさらなる分析をしていきます。

フォーシーム・シンカー

2023年MLB投手各球種の平均値と比較すると、シンカーは落ちが弱く、シュート成分が多い球種。フォーシームは縦変化は平均程度で、これもシュート成分が多い球種となっています。変化量・方向の観点でみると、特に打ちにくい性質を持っているわけではなさそうです。

カーブ

カーブは、MLB平均(IVB: -19.4cm, HB: -9.5cm Velo: 126.5)と比較して6km/h速く、8cm一塁側に曲がりながらも、縦変化は同等レベルと有効な球種と言えそうです。
一般的なカーブよりはスイーパー(IVB: 4.0cm HB: -20.3cm Velo: 130.2km/h)に縦変化を足したような球種と解釈できるかも。

近年カーブを武器にNPBで活躍した外国人投手であるDrew VerHagenとPierce Johnsonの来日前年度のカーブが

  • Drew VerHagen VB: -157.5cm HB: 29.4cm Velo: 126.3km/h

  • Pierce Johnson VB: -133.1cm HB: 34.5cm Velo: 130.8km/h

※IVBでなくVB(自由落下も含めた変化量)であることに注意。Patrick Murphyは-121.5cmでした。

なので、彼らに比べて少し速く、代わりに変化量は一回り落ちます。絶対に武器になる!というほどの信頼は得られませんでしたが、まあ大丈夫でしょう。

また2022年MLBと比較して少し変化量が落ちたのは不安要素(VB: -134.3→-121.5, HB: 23.4→20.4)ですが、この辺は NPB球への適応次第だと思います。

チェンジアップ

シンカー同様、三塁側への変化は大きく、落ちは弱い球種となっています。 投球数が46なのであんま信頼できないですが、wOBAは0.257と低い値を記録しました。特筆すべきはGB%が71.4%もあるところで、ゴロを打たせやすいのかもしれません。

カッター

MLB平均(IVB: 16.3 HB:4.1 Velo: 141.6)より速く、一塁側への変化量もわずかに多いです。しかし、wOBAは0.432と非常によくない。そもそもZone%が28.3%なので全然操れてないです。先発をやるには、磨きたい球種ではあると思いますが・・・

コントロール・コマンド

85.1イニングに50個の四球を出しておりコントロールは非常に悪いです。しかし、先発では40.2イニングで15個に抑えられており、コントロールを安定させたいなら先発かなと思います。

Zone%で見てもリリーフ時は44.0%ですが、先発では49.0%に改善されます。
以下は8月30日の先発登板時の動画ですが、2022年のリリーフ時の登板よりかなりフォームが安定しているのが見て取れます。

このフォームの変更は、Extensionの低下(5-7cm)やRelease_z(リリース高)の増加(2-4cm)、Release_x(リリースポイント横成分)の一塁側へのスライド(35cm)にも現れています。
ステップ幅を抑えたことと、腕が体から離れる悪癖を修正したことが伺えます。
特にRelease_xは大きく動いているので、もしかしたらマウンドの踏む位置も変更したのかもしれません。

エンクステンション・リリースポイントの数値を(先発)-(リリーフ)

ちなみに、Zone%自体はさほど悪くありません。にもかかわらず四球が増えてしまう背景には、ボール球を振らせられていないことが原因にありそうです。(下画像を参照)

しかし、これも先発転向で上昇します。特にカーブは10%の上昇を見せています。おそらくコマンドが改善されたことにより、ボール球を振らせる割合も増えたのではないかと考えます。

総評

NPBでも球速は有数であり、カーブも有効な武器になりえます。先発として評価した時、1巡目なら十分抑えられると考えていいのではないでしょうか。しかし、長いイニングを投げるにはサードピッチの確立がまだできていない印象です。

特に、対左打者用のチェンジアップをどこまで磨けるかは彼の先発での活躍を占うでしょう。個人的にはチェンジアップよりスプリットを習得して欲しいです。幸い、日ハムにはスプリットを武器とする投手がたくさんいます。これを習得させることができれば、十分ローテを回す活躍は期待できるのではないでしょうか。




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