マジカルガール(2014)
※この記事は映画のネタバレを含みます。
娘への愛が、不幸の連鎖を生み出す。
映画の内容
あらすじ
スペインの、なんでも日本文化が好きな監督の作品ということで、ところ
どころにクール・ジャパン的な要素が入っていましたね。
まず娘の好きなアニメが「魔法少女ユキコ」ですから。
そんな「魔法少女ユキコ」のドレスを着る夢を持つルイスの娘(アリシア)ですが、12歳にして余命わずかの病気の身。
生きているうちに、娘にあらゆることをしてあげたいというのは父親として当然の感情でしょう。
たとえ誰かを脅迫しても...。
本をいくら売ってもドレスの値段に届かないことに気づいたルイスは
宝石店強盗を決行します。
誰もいない深夜、道端の石で宝石店のガラスを割ろうとするルイスに、上空から謎の汚物が降りかかります。なんと吐しゃ物です。
いったい誰の吐しゃ物かというと、それは宝石店の入っている建物の上の階に住んでいる女性バルバラのもの。
バルバラは精神疾患を抱えていて、ある出来事がきっかけで処方させている薬物を大量に服用(オーバードーズ)してしまいます。
その結果が窓からのゲロ。つまりルイスに降りかかったわけです。
何が起きたかもわからず慌ててその場から逃げるルイスでしたが、そんなルイスをバルバラは引き留めます。
それはルイスが宝石店を襲おうとした人間だと気づいたからではなく、謝るためでした。
まぁ吐しゃ物を浴びせちゃったからね。
服を洗うためにルイスを家に招くバルバラ。
バルバラは既婚者ですが若い魅力的な女性で、かつ彼女の夫は現在家にません。(それが彼女の大量服薬と関係しているのですが)
深夜の、2人以外誰もいない家で、ルイスはバルバラに迫ります。
最初はそれを拒否したバルバラでしたが、最終的には2人は肉体関係を持つことに。
(ルイスは男手ひとつで娘を育てていましたが、バルバラの方は不倫したことになります)
病の娘のために東西奔走する男性と、心に傷を持った女性。
このまま危ういラブロマンスに発展してもおかしくないですが、残念ながらこの映画はそう言った作品ではありません。
ここから、ルイスも、娘のアリシアも、バルバラもみんなが不幸になっていきます。
ルイスと関係を持った夜が明けて、目を覚ましてバルバラ。
家には彼女の夫が帰っていて、朝食をとっていました。
幸い夫は彼女の不倫に気づいてはおらず、朝食の席にバルバラも座ります。
そんな朝食中に、バルバラのもとに電話がかかってきます。
その相手はルイスでした。
なぜルイスが電話番号を知っていたかというと、彼はバルバラの家を去る際に、金目の物を探して家中を物色していました。
そこで電話番号も入手した、というわけですね。
そんなルイスがいったい何の用でバルバラに電話したかというと
「不倫を夫にバラされたくなければ、7,000ユーロを用意しろ」というものでした。
つまり、脅迫です。
※7.000ユーロは日本円にして当時で900,000円ほど。
言わずもがな、この7,000ユーロという金額は「魔法少女ユキコ」のドレスを買うためのものです。
宝石店の入るような建物ですから、バルバラの家は相当リッチ。
夫は精神科医で、なかなかの高所得者です。
なのでルイスは「あんな家に住んでるんだから、7,000ユーロぐらいなら簡単に用意できるだろう」と踏んだのかもしれません。
ゆえに、この悪魔のような行いに踏み切ったのでしょう。
しかしそのルイスの考えは甘く、バルバラにとって7,000ユーロという金額は簡単に払えるものではありません。
いくら彼女の夫が裕福でも、その財産がバルバラ自身に自由に使えるわけではないのです。
見捨てられることを恐れたのか、バルバラは夫に相談することができず、自分で解決しようとします。
彼女は自分の身を犠牲にして、とある裏世界の人間を頼ることになるのですが、そこからがこの作品の真骨頂。
バルバラの地獄と、ルイスとアリシアの終わりが始まります。
感想
私がこの映画を見て思ったのが、ルイスへの怒りですね。
いくら娘のためとはいえ、なぜ他人にそんなひどいことができるのかという感情です。
しかしルイスが悪人かというと、それも違うような...。
ルイスはただ、13歳までも生きられないだろう娘にできる限りのことをしたかったんです。
大切な本も売った、恥を忍んで知人にお金を借りようとした、知人がダメなら他のところから借金をしようとした。
決して、血も涙もない悪人ではないんです。
そんな彼が、なぜバルバラという一人の女性を地獄に叩き落すような人間になってしまったかというと、それには「愛は盲目」という表現がぴったり合うような気がします。
彼は、深すぎる娘への愛で他が何も見えなくなっていたんです。
「宝石強盗をして捕まったら娘はどう思う?」
「バルバラは簡単に大金を用意できるような立場か?」
「自分のしていることは他人を破滅させることではないか?」
「脅迫して得たお金でドレスを買うことが娘への愛か?」
など、有り得る様々な可能性に気づくことができなかった。
「愛」という言葉は、前向きでロマンチックな意味の使われ方をすることが多いです。
しかし、本作はこの言葉の意味、つまり愛の恐ろしさを徹底的に、容赦なく描き切った作品だと思います。
誰も救われない。
主要人物のこれからの人生をただ哀しむしかない。
幸せの”し”の字もないバッドエンド。
そんな映画なので誰にでもおすすめできるわけではありませんが
愛の持つ負の面を見たい方の期待には、まず応えられる作品だと思います。