見出し画像

遊佐未森とプログレ

遊佐未森をめぐる言説の中で、時折プログレという言葉が出てくることがある。
ここでいうプログレとはプログレッシブ・ロックのことである。
遊佐未森とプログレはいかなる関係にあるのか?
ちょっと考えてみたい。

遊佐未森がプログレについてストレートに語っているテキストは見つからなかったのだが、いくつか断片的に触れているものはある。


「プログレ(笑)」

キーボードマガジン2003年10月号 遊佐未森インタビューより

いきなり笑われておりますが……
これは「流線」(アルバム『ブーゲンビリア』収録)について問われた際の第一声である。

「流線」は遊佐未森のプログレ曲としてよく言及される楽曲だが、実のところプログレのオマージュといった方が正しいだろう。

プログレを代表する名盤であるYesの『危機(Close to the Edge)』からの引用があったり、Yesのキーボーディストであるリック・ウェイクマンを思わせるプレイがあったりする。

となれば、遊佐未森はプログレ好きかと思いたくなるが、冒頭の反応を見るとそう単純でもなさそうである。


「例えば、ピンク・フロイドのライブはイギリスと日本と両方で見たんですが、」

35周年記念 ツアーブック 『ハルモニオデオン』解説より

Pink Floyd はプログレで最も一般的な知名度が高いバンドである。
遊佐未森が見たのは『光〜PERFECT LIVE!(Delicate Sound Of Thunder)』としてまとめられた1988年のツアーだろう。


スタックリッジの『The Man In The Bowler Hat』(邦題『山高帽の男』)はいいですよねー。上質の、こう、いいものを聴かせていただきました、っていう気持ちになるアルバムですよね」

「EXCEED PRESS POP CULTURE SERIES 遊佐未森」p143(1999年10月)

Stackridgeはプログレのど真ん中というわけではなく、プログレのディスクガイドでも最後の方に関連作品として載っているイメージ。
ロックというよりもプログレ・ポップス、プログレ・フォークと呼びたい感じで、いかにも遊佐未森が好きそうなバンドである。


「MUSIC SOUP -45r.p.m.」というCSの番組に出演した際に遊佐未森が選曲したリストがある。

わがままな耳を持つMusic Masterたちが、自分だけの音楽体験をとっておきの45曲に託して語る栄養満点な音楽番組「MUSIC SOUP -45r.p.m.-」。

https://otn.fujitv.co.jp/b_hp/909200077.html

ここからプログレ関連の作品をピックアップしてみる。

  • 「Fundamentally Yours」 Stackridge

  • 「Wuthering Heights」 Kate Bush

  • 「Don’t Give Up」 Peter Gabriel And Kate Bush

  • 「Pictures In The Dark」 Mike Oldfield

  • 「Water Bearer」 Sally Oldfield

  • 「Video Killed The Radio Star」 The Buggles

いずれもプログレそのものではなくて、プログレの周辺領域という感じ。

遊佐未森のケイト・ブッシュ好きはファンにはよく知られたところである。ピーター・ガブリエルとのデュエット「Don’t Give Up」はライブでカバーしたこともある。
ピーター・ガブリエルだと「Solsbury Hill」が遊佐未森的プログレポップスだと思うんだけど、カバーしてくれないかな。

マイク・オールドフィールドは孤高の宅録プログレ。「Pictures In The Dark」はオリジナルアルバムには収録されていない渋い選曲。代表曲「Moonlight Shadow」は遊佐未森もカバーしたことがあるらしい(未確認)。

サリー・オールドフィールドはSSWでマイクの姉。

組曲「ソングス・オヴ・ザ・クウェンディ」は遊佐未森の組曲「Languege Of Flowers」(アルバム『モザイク』収録)に直接影響を与えてるんじゃないかと思う。

で、問題はバグルス。
プログレではなくニューウェーブ/シンセポップ/エレポップなわけだけど後述の理由でプログレの関連作品になる。
まあ、説明不要の大ヒット曲ですね。


さて、ここまで遊佐未森のプログレに関する断片的な発言を見てきたけれど、実のところあんまりプログレ大好き!って感じでもない。
ジャンルとしてのプログレが好きというよりも、好きな音楽がプログレの隣接領域に多い、といった印象だ。

ここで1つだけ、遊佐未森がプログレについてまとまって語っているテキストがあった。

Yesを特集したムック本で、この中に遊佐未森と外間隆史の対談「プログレとニュー・ウェーブの融合から生まれた宝物! バグルス参加の異色作『ドラマ』を語る」という記事が載っている。

外間氏はファンには説明不要の遊佐未森と縁の深い音楽プロデューサーである。

この記事から遊佐未森の発言をいくつかピックアップしてみる。

「最初は、中学生の頃にプログレバンドをやっている先輩からレコードを貸してもらって聴いたのですが、それがちょうど『こわれもの』あたりだったと思います。私にとってのプログレは、変拍子に対する違和感もなく、思いのほかスーッと馴染んで来る感じでした」

「ブリティシュ・ロックであるイエスの音楽、クラシックやケルトの音楽なども内包されている。私自身もクラシックをやりつつ、ロックやケルトで育ったところがありますから、イエスのようなプログレは故郷と言えば言い過ぎかもしれないけど、どことなく懐かしい音楽というイメージなんですよ。」

「イエスの音楽はどちらかというと重厚感があって、女性としては……って言うと語弊があるかもしれませんが(笑)、かなり「聴くぞ」っていう心構えが必要ですよね。でも、バグルスのフレーバーが加わった『ドラマ』は絶妙なポジションにあるアルバムで、よく聴くと可愛いマリンバでユニゾンしていていたりとか、そういう面白さもいっぱい散りばめられています」

THE DIG Special Edition イエス

Yesも長い活動歴の中で音楽性の変遷があって、遊佐未森はいわゆるプログレとしてイメージされる重厚長大な楽曲よりも、バグルスの二人を丸ごと飲み込んでポップ化した『ドラマ』が好きなようです。

おそらく『ドラマ』の延長線上にある大ヒット曲「ロンリーハート」あたりも好きなんでしょう。

さて、今度は外間氏の発言を見てみましょう。

「『危機』と『こわれもの』を聴いて、ぞっこん好きになりました。一方で個人的な趣味はリック・ウェイクマンにいっちゃうんです。パンクやニュー・ウェーブが来るまでは、イエスとリック・ウェイクマンを聴いていればいいと、それくらい好きでしたね。」

「イエス育ちだからか、拍の概念がない。遊佐さんのアルバムを制作しているときも、拍子とか拍といったものを気にしてなくて、アレンジャーに言われて気が付いたりして(笑)」

THE DIG Special Edition イエス

あー、これは。
「流線」をYesのオマージュにしたのは外間氏で確定ですねぇ。
そして、プログレ→パンク→ニューウェーブの流れは平沢進と同じルート。
初期の遊佐未森に平沢進ソロっぽさを感じるのも道理だ。

遊佐未森でプログレっぽさを感じるもう一曲「ロカ」も外間プロデュース。


まあそんなわけで、結論としては……

  • 遊佐未森はプログレ大好きというわけではないが、プログレの構成要素である変拍子や、プログレ周辺のトラッド、フォーク、さらにポスト・プログレとしてのニューウェーブ/エレポップが好き。

  • 外間氏はプログレ→パンク→ニューウェーブな平沢進ルートな人。遊佐未森のプログレ風味は外間氏による味付けの部分が大きそう。

といったところです。


最後に、遊佐未森で最もプログレッシヴな曲は「潮騒」だと思います!
これをアルバムの1曲目に持ってきた外間氏のプロデュースには脱帽する。


以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?