イタチとナマケモノ
ナマケモノくんはギャンブルが大好きです。
とりわけ舟の競走がお気に入りで、いつも最終レースまでたっぷり賭けてしまいます。なくなったときは後悔するのですが、寝て起きるとすっかり忘れて、またその日にとった木の実を賭けます。
ナマケモノくんは他に趣味もありまん。舟の競走だけが生き甲斐です。
その日の木の実を採り終えると、木の上でごろんと横になり、人間が作った文明の利器で競走を眺めます。モーターの音は刺激的で、第一ターンマークの派手な攻防が大好きです。特にカドからズバッと捲っていくレースは大好物。ついつい夢を見てしまいます。
ですが、なかなか木の実は増えません。
「ああ、木の実を採るのも面倒だなあ」
そんなときも、競走を眺めるだけでは物足りなく、やっぱり重い腰を上げて木の実を採ってしまいます。ギャンブルをやめたらその必要もなくなります。その矛盾にナマケモノくんも気づいていましたが、楽しければそれでいいやと思っていました。
ある朝、イタチくんが遊びに来ました。
「やあ、ナマケモノ。相変わらず負けてるのかい」
ナマケモノくんはむっとします。
「そういうキミはどうなんだい」
イタチくんはしたり顔で、持っていた袋を開けました。そこには見たことのない貴重な木の実がぎっしり詰まっていました。
「すごい、こんなに」
ナマケモノくんは思わず木から降りました。
「ボクがやっているのはギャンブルじゃないからね」
イタチくんは一枚の紙を取り出して言いました。
「計画に基づいて、システマティックに投票しているのさ。お前みたいにダラダラやっているわけじゃない。どうせさっきのレースも穴を買ったんだろう?」
ナマケモノくんは言い返せません。その通りだったからです。
「キミのその、システムとやらで、そんなにたくさん木の実を稼いだのかい?」
にわかには信じられませんでした。ナマケモノくんにとって、ギャンブルは負けて当然のものだったからです。
「いいかい、ナマケモノ。負ける奴っていうのは、考えもなしに賭けすぎなんだよ。統計データをもとに、当たる確率の高いレースを選択するんだ。賭ける木の実の数は、ケリー基準——ま、難しいことは分からないか。とにかく、数学的に決めてるんだ。だから熱くなることもない」
ナマケモノくんはいつも、目についたレースはすべてやり、あるだけ木の実を賭けていました。
しかし、ふと疑問に思うことがありました。
「何でもかんでも、そうやって決めてしまうと、レースを見ても楽しくないんじゃない?」
イタチくんは鼻で笑いました。
「ククク、馬鹿だなあ。ボクは稼ぐためにやってるのさ。楽しさなんて二の次だよ。そういうバカどもから金をぶんどるんだ。ギャンブルっていうのはそういうもんだよ。もういい、お前にも少し教えてやろうかと思ったけど」
イタチくんは怒ってしまいました。
「ごめんよ。ところで、キミは、稼いでどうするんだい?」
「決まってるだろ。貯金して、働かなくても済むようにするんだ。夜にこそこそ人間様の家に忍び込んでネズミをとっているだろう。あれは疲れるんだよ」
「働かないなら、どうするんだい」
「どうって?」
「毎日退屈しない?」
イタチくんはニヤリと笑って、
「そんとき退屈だったら、そうだな、ギャンブルでもするさ。好きなようにね」
冷たい風が吹いて、木々のこすれ合う音が聞こえました。
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