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試し読み “クソ野郎にならずによい仕事をする方法”

4月12日に刊行する書籍『クリエイティブな仕事をしている君へ。今日からはじめるワーク・シフト:クソ野郎にならずによい仕事をする方法』を紹介します。

ひどいサブタイトルですが、原書のタイトルです。『How to Do Great Work Without Being an Asshole(クソ野郎にならずによい仕事をする方法)』。著者はPaul Woods(ポール・ウッズ)。かのErik Spiekermann(エリック・シュピーカーマン)のデザインファーム Edenspiekermann社のCCOとして、ロサンゼルスのオフィスで、プロダクト/ブランド/サービスのデザイン・構築を行うクリエイティブチームとテクノロジーチームを率いています。

ポールはあとがきでこう述べています。「本書に盛り込んだアイデアは決して画期的なものではない。というか、オリジナルですらない。単に常識的なことを集めたものである」と。

以下に、本書の冒頭部分、シュピーカーマンの寄せ書きに続いて著者の序文までを掲載します。

クソ野郎はいつまでたってもクソ野郎のままである

ポールから、本書への寄せ書きを頼まれた。ってことは、どう考えても彼も私もお互いを悪くは思っていないということだ。でなければ、彼も頼んでこなかっただろうし、私だって書こうとは思わなかったはず。つまり、お互い無事に「嫌な奴」のハードルはクリアしているということになる。

50年以上にわたり(そう、私は結構な年齢なのだ)、私は何百人という同僚と仕事をしてきた。そのほとんどは自分で雇った人たちだ。最初は気付かなかったし、気付いていたとしても自分でそれを認めることはおそらくなかったと思うが、採用の決め手は自分がその人を気に入ったかどうかということに尽きる。「私はこの人と同じ部屋で毎日8時間から10時間を一緒に過ごしたいだろうか? チームの仲間たちも同じように思うだろうか?」。そう自問自答してみるのだ。たいていのグラフィックデザイナーは数週間もあれば特殊スキルを習得できるし、タイポグラフィだってうまく使いこなせるようになるし(いや、これは数年かかるかな)、読みやすいコードを書くことも、とても美味しいエスプレッソを淹れることもできるようになる。しかし、クソ野郎はいつまでたってもクソ野郎のままだ。

私がこれまでに雇ってきた優秀な人材のバックグラウンドは、じつに多種多様である。元大工という人もいれば、シェフ、軍人、歴史家だった人もいる。いわゆる勉強の王道をすんなり進んできた人たちばかりではない。だが、学ぼうとする意欲、溶け込もう、ベストを尽くそうという意気込みは、試験に合格したという事実よりも重要なことだ。その人のポートフォリオにばかり頼るのではなく(人のをまる写ししただけの作品をこれまでずいぶん見てきた。デジタル化のおかげでそういうことが簡単にできてしまう)、採用する側の自分の感性を信じることだ。

いったん人を雇っても、その人はどんどん次の仕事に移っていく。やがて彼らは競争相手にも、同僚にもなる。クライアントになることだって十分にありうる。みんな、在職当時に自分たちがどのような扱いを受けていたかを覚えている。会社を去っていく人を見送るのはいつも寂しいものだ。とりわけ、未経験で入ってきたときに最初の手ほどきをしてあげたりした人ならなおさらだ。それでも、彼らは仕事の場を変えていく必要がある。そうでないと、あなたのやり方が唯一の方法だと思ってしまうからだ。当然ながら、やり方は1つではない。しかし、在職当時あなたがまともな接し方をしていたなら、彼らは連絡を取り続けてくれるだろうし、のちに友人としてつきあいが続いていくことになるだろう。本書の著者、ポールがEdenspiekermann社のベルリンオフィスで何年か働いたあと、会社を離れることになったとき、私はがっかりした。だが同時に、彼が学び、向上していくためには、そうしなければならないこともわかっていた。私たちはその後も数年間、連絡を取り続けた。そして、そう、ご想像通り! こうして、私たちはまた一緒に働くことになったのだ。

ドイツにはこんな諺がある。「森の中に向かって叫ぶと、そっくりそのままこだまが返ってくる(Wie man in den Wald hinein ruft, so schallt es zurück.)」。つたない訳だが、私の言いたいことはおわかりいただけると思う。

さて、この辺にしておこう。いずれにしても、あなたが手にしているこの本の中で全編にわたって展開されるポールの主張は、私たちの主張でもあるのだ。

エリック・シュピーカーマン
はじめに

ロサンゼルスのダウンタウンにあるオフィスの正面玄関付近の壁に、1枚の額入りのポスターがかけられている。Korrexの1961年製 Frankfurt Kra型プレス機で印刷されたこのポスターは、私がこれまでにお目にかかった壁面装飾の中でおそらく一番人気の作品だ。ハリウッドの有名人から投資銀行家に至るまで、エージェンシーを訪れるほぼすべての人が、このポスターを見ると必ず何かしら口にする。ポスターの前で自撮りしていく人もたくさんいる。自分の同僚や友人、ファンなど、誰が見ても、そこに書かれたメッセージに思いあたる節があるはずだと思っているからだろう。ドイツの書体デザイナーであり起業家でもあるエリック・シュピーカーマンが手がけたこのポスター、書いてあることは至ってシンプルだ。曰く、「クソ野郎のために働くな。クソ野郎と一緒に働くな(Don’t work for assholes. Don’t work with assholes.)」。

これだけいろいろな人が揃いも揃って、クソ野郎のためになんか働きたくないと思っているのに、なぜみんなそうしているのだろう。クリエイティブ業界では、どこを見ても「クソ野郎」とそこから生まれる有害な企業文化がごくありふれた光景として見られる。

何年もの間、この業界のたくさんの友人たちが、単に嫌な奴であるだけでなく嫌な奴である自分を誇りに思っているようなCEOやらクリエイティブディレクターやらアカウントディレクター、よく知らないがなんとかディレクターのもとで働いてきた。たとえば、クライアントへのプレゼンを月曜朝に控えているのに、金曜日の午後5時50分にその場の思いつきでデザイナーに指示を出し、土壇場で口を挟んでくる「自己中」なクリエイティブディレクター。応募者に対して不採用通知も出さない人事部。「夢を生きる」という名目のもと、長時間労働が当たり前のような職場環境を作る経営陣。クリエイティブエージェンシーという土壌で才能ある多感な若者のよき助言者となるよりも、強制労働収容所を運営するほうがよっぽど向いていそうな人であふれかえっているというのが、クリエイティブ業界が長きにわたって有しているイメージである。

しかし、ゆっくりとではあるけれども事態は変化の兆しを見せている。ひと昔前なら、才能ある若者は長時間労働やエゴの塊のような上司、その他あらゆる望ましくない職場慣行にひたすら耐えるしかなかった。安定した収入と引き換えに表現欲求を満たすことのできるキャリアパスは、この業界以外になかったからだ。しかし今日では、ハイテク企業、ベンチャー企業をはじめ、社内にデザインチームを持つ企業もどんどん増加しており、選択肢は格段に広がった。今や才能ある優秀な人たちは、職場の悪しき文化や他人のエゴなどに振り回されることなくキャリアを選ぶことができるようになりつつある。こうした若干の前向きな変化が見られるとはいえ、古い習慣というものはなかなかなくならないものだ。いわゆる「クリエイティブエージェンシー」〔本書では「エージェンシー」と呼んでいるが、広告代理店に限らずサービスやプロダクトを受託開発するようになった現代的なデザイン会社も含まれる〕では無茶な職場のしきたりがいまだ当たり前のように横行しており、これが結果的に、燃え尽き症候群や高い離職率、仕事の質の低下につながっている。弊害だらけの環境で働いていては、個人にとっても、クライアントにも、また仕事それ自体にも、何のプラスにもならない。

本書で検討する問題は至って簡単。すなわち「クソ野郎にならなくてもよい仕事はできるか?」ということだ。

持続可能な働き方が定着しているわけでもない、エゴが蔓延している業界でこんなことを言うのは、安請け合いだろうか? 競争上の強みを維持しつつ、さらにクライアントを満足させ、そしておそらくもっとも重要なことだが、優れた作品を生み出していくということは可能なのだろうか?

本書を読み進めていただくと、私がドイツにいた時代とアメリカにいた時代とを繰り返し比較して述べていることがわかるはずだ。北欧(ドイツ、スウェーデン、デンマークなど)と欧米の英語圏の国(米国、イギリス、アイルランドなど)とでは、クリエイティブエージェンシーの持つ文化に大きな違いがある。北欧人は効率的に仕事をこなすことに重点を置く一方で、英米人の場合はプライベートな生活に影響しようがお構いなしで、仕事を最優先にする傾向がある。両方の文化圏で働いてみると、どちらの作業スタイルにも明確なメリットがあることがわかる。本書では、両者の最良の(そして最悪の)特徴を比較していきたい。

ポール・ウッズ


P.S.「これを書いてる本人がちょっとクソ野郎っぽいな」と疑っている、そこのあなた。それは、あながち間違いではないかも……。

原書のタイトルがどこからつけられたのか明快ですね。

>>単に嫌な奴であるだけでなく嫌な奴である自分を誇りに思っているような<<

ふふふ…(耳が痛い)

ポールがあとがきで述べている通り、本書の中には「で・す・よ・ね!(やれてないけどね!)」「知・っ・て・る!(やってないけどな!)」「聞・い・た・こ・と・あ・る!(やるつもりもなかったけども!)」な、我々クリエイティブクソ野郎予備軍がとるべきアクションプランが盛りだくさんです。

特に業界に長く浸かっている人には必ず読んで欲しい。今こそ己の悪しき習慣と向き合う時です。

目次や詳しい内容は以下のリンクからご確認ください。

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