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試し読み:『世界ピクト図鑑 サインデザイナーが集めた世界のピクトグラム』

2021年8月17日に刊行した『世界ピクト図鑑 サインデザイナーが集めた世界のピクトグラム』(児山啓一 著)から「まえがき」のテキストをご紹介します。

本書は、鉄道や空港のサインデザインを手がける筆者が世界26か国80都市で撮影したピクトグラムの写真約1000点を項目別、国別にまとめたものです。ピクトグラムでめぐる世界の旅をお楽しみください!

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まえがき

ピクトグラムは図記号とも呼ばれ、一見してその意味が分かるため、難しい文字や専門的な用語を知らない人々や言葉が違う国の人々にも同じように容易に理解でき、また高齢者や障害者配慮の観点からも世界共通のユニバーサルデザインの一環として役立つ、と言われています。「日本産業規格(JIS)」では、「言語によらず情報を伝達するために用いるある固有の意味を持った視覚的に知覚される図形」と定義されています。

出版のきっかけ

私は、駅や空港など公共の場所のサイン計画を主な仕事にしています。また、JSA(日本規格協会)とISO(国際標準化機構)の図記号委員会に所属し、図記号標準化に関わっています。サインは文字、矢印、ピクトグラム、色彩などで構成され、その中でもピクトグラムは欠かすことのできないエレメントであり、共通言語として役立つためには、独りよがりのデザインではなく、どこに行っても同じデザインで統一されていることが必要です。そのため、常に国内統一、あるいは国際整合を念頭にして仕事に取り組んでいます。

ISO には図記号分野の統一のためにTC145 Graphical symbols という委員会があり、私はJSA の委員として年に数回海外で開催される会議に出席しています。また、オーストリアのウィーンに本部を置く情報デザインの団体 IIID(International Institute for Information Design)にも所属し、海外で行われる会議にできる限り参加するようにしています。それに私の仕事とプライベートな旅行を合わせると、毎年4~5回海外を訪れる機会があり、そのたびにいろいろな写真を撮ってきました。

撮ってきた写真は忘れないうちに国別、空港別、鉄道別など大きなカテゴリーに分類して保管していましたが、次第にどこに何があったか探し出すことに膨大な時間を費やすようになっていました。2020 年春頃からテレワークが本格化し、データのほとんどをクラウドに上げることになったので、これを好機と思い立ち、写真の整理を始めました。すると今まで忘れていた写真が埃にまみれた記憶とともにどっさり出てきたので、何とかこれらに風を通し日の目を見せる機会はないものか、と思案してできあがったのがこの本です。

本書の内容

本書では、撮影した写真のうち、ピクトグラムに焦点を当てて選んでみました。内容的にはヨーロッパ、特にTC145 の幹事国であり、ヒースロー空港やロンドン地下鉄など日頃から参考にする施設が集まった英国の写真が一番多く、次に IIID の会議がよく開催されるウィーンが続きます。それからお隣の中国、韓国、あとはそれぞれの用事や休暇で訪問したバラバラの国です。したがって、かなり偏った構成になっています。

本書は「項目別」と「国別」の2部構成です。「項目別」は、JIS Z 8210 案内用図記号の分類を参考に、[1]公共・一般施設、[2]交通施設、[3]商業施設、[4]ツーリズム、[5]安全、[6]禁止、[7]警告・注意・指示、それに[8]マナー、[9]アクセシビリティを加え、最後に[10]道路標識を追加しました。[10]道路標識は、海外旅行の際、都市のインフラデザインである道路標識、ゴミ箱そしてポストにも興味を持ち、撮りためていたので、どちらもピクトとは遠からず関連するものとして、この本に収めることにしました。

「国別」の方は、何回か、あるいは長く滞在したことのある場所について、ピクトグラムを主題とした話をまとめてみたものです。こちらも、タイトルに国や都市の名前をつけるにしては内容がとぼしく、あまりにもおこがましいのですが、便宜上やむなく国名で呼ばせていただくことにしました。

なお、両方への重複掲載はできるだけ避けるようにしたつもりですが、ネタに限りがあることから再登場している場合もあります。

気をつけたこと

ピクトグラムはよく擬人化されて面白おかしく取り上げられることがあります。かく言う私もその一人なのですが、同時にピクトグラムをデザインする立場でもあります。ピクトグラムは安全や情報を正確に伝えるために不要なものを削ぎ落とし、苦労してできあがった究極のデザインです。もちろん集めたピクトグラムの中には下手なものや思慮が欠けているものもあるので、そのような場合、「活」を入れることはありますが、デザイナーとしてその姿を茶化す気にはなれません。文中、失礼な表現があれば、お許しいただくしかないのですが、あえて制作者に対する同業者からの叱咤激励だと読み替えていただければ幸いです。

最後に、この本は単に面白おかしい写真を集めただけでなく、できる限り専門的な点からもコメントを加えて、見るだけではなく、読んでも興味深い内容にしたつもりです。ただし、ピクトグラムができあがった背景を調べたり、インタビューなどはしていないので、誤解も多くあると思いますが、その点はご了承ください。

なお、文中ではピクトグラムを略した「ピクト」と「図記号」という言葉が混在します。ピクトは一般的に使われる言葉として、一方、図記号は、ISO 国際標準やJIS 国内標準の際に使われる「Graphical= 図」「symbol =記号」を直訳した、いわばオフィシャル用語です。これらを説明する必要がある場合に状況に応じて使い分けているので、どちらも同じ意味として捉えてください。

では、これよりピクトグラムを省略した「ピクト」で話を進めることにします。

2021 年6 月
児山 啓一

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続きは本編でお楽しみください。
http://www.bnn.co.jp/books/11193/

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