夏へのトンネル、さよならの出口感想

夏へのトンネル、さよならの出口

あの日の君に会いに行く。
デビュー作が第13回小学館ライトノベル大賞において「ガガガ賞」と「審査員特別賞」をW受賞した八目迷による小説『夏へのトンネル、さよならの出口』(小学館「ガガガ文庫」刊)が劇場アニメーションとして2022年9月9日に公開。
劇場アニメーション『夏へのトンネル、さよならの出口』は、監督を映像表現に定評のあるアニメーション監督・田口智久(『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』(20)、『アクダマドライブ』)、キャラクター原案・原作イラストを精緻でドラマティックなイラストレーションで知られるくっか(『D_CIDE TRAUMEREI』キャラクター原案)、制作を『映画大好きポンポさん』(21)などを手がける新進気鋭の制作会社CLAPが担当。
ウラシマトンネル――そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入る。
ただし、それと引き換えに……
掴みどころがない性格のように見えて過去の事故を心の傷として抱える塔野カオルと、芯の通った態度の裏で自身の持つ理想像との違いに悩む花城あんず。ふたりは不思議なトンネルを調査し欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶ。
これは、とある片田舎で起こる郷愁と疾走の、忘れられないひと夏の物語。』

https://natsuton.com/story/より引用

ウラシマトンネルと呼ばれる、何でも手に入ると噂になっている場所があった。
そこに入るは塔野カオルと言うひとりの男子高校生だ。
何でも彼は幼くして亡くなった妹であるカレンを取り戻したいと言う。
もうひとり、トンネルへと入りたがる人物が居る。
花城あんず。彼女は漫画家としての才能が欲しいと言う。
両者は何かを欲していると言う目的があるが相違点がある。
塔野は失ったものを取り戻して、これまでの環境を再生したい事に対し、花城はこれからを築く為の基盤を渇望していると言う違いがある。
過去と未来と言った二極化したものを結び付けるものは何だったのか?
それは、何気なく始めたトンネル内の探索をしていく日々が2人を手繰り寄せ、自然と相手の存在を認め意識していた事だ。
トンネル内での時間経過を調べたり、携帯で通話しながら時間軸の境界はどこに有るのか、と2人が夏休みを利用して行く姿が目的の為とは言え積極的に探索する場面に惹き付けられた。そして失った年月を代償に空白の時間を経て存在の大きさを認識し、2人それぞれが有している気持ちがそこで確かなものになった事が分かった時の感情移入が堪らなく愛おしい時間だった。
2人が唇を重ねた瞬間は、心の中にずっとしこりになっていた不安や虚ろげな気持ちが全て吹き飛んで、今居るこの時間の尊さを観賞者にとても強く印象付けた場面だった。
塔野はカレンを取り戻せなかったけど、想いを引き継ぎ、花城を真正面から受け止め、花城もこれからの生活を送る気持ちが整った。
夏と言うものが終わる時に感じる、どことない物悲しさを強引ながらも空白の時間と照らし合わせてしまう。だから、あの夏に誓った2人の共同戦線は夏が終わろうと空白の時間を埋めるかの如くこれからもずっと続いていく。
そんなひと夏の出来事が未来に明かりを灯し、ようやくスタートを切れた。
これからやって来るだろう未来に生きろ、と強いメッセージすら感じさせる様に踏みしめようとする本作が、自分の心の糧になる。そんな作品だった。

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