深海と空の駅アフターのお話についてガチで考えてみた

事の始まりは7月1日に行われたシアロア1巻発売記念ライブの「深海と空の駅アフター」についての公開打ち合わせでの出来事。
囁一さんが準備してきたネームをもとにどういう話にするかの話し合い。ネームの中身は「奈緒がいなくなってから一年後、千波はなぜか奈緒のことを知っている新キャラともう一度深海と空の駅という現象が起こるのを待っている」という場面。(ちなみにこのお話はシアロア2巻おまけに収録する予定だとのこと)

以下画像二枚が当日配られたネーム(あげてまずかったら画像は消します。)

話し合いの末、新キャラは「三井沙和」という名前ですこしツンツンしている感じのキャラということになった。1時間の打ち合わせではもちろん終わらなかったのでせっかくだからここにいる皆さんからもアイディア募集しますということになった。それを自分なりに考えた結果が下の内容です。

(↑新キャラの三井沙和ちゃん。サインで描いていただきました。)


前提設定
 三井沙和は結城奈緒の妹という設定だと面白いのではないか?    (つまりこれからはあのネームの女の子の「結城沙和」として話しを進めていきます。)
 →ネームの時に「なぜ彼女は奈緒のことを知っているのか」というところが気になりいろいろ考えました
  →奈緒の中学の時の親友、奈緒と千波が深海と空の駅という現象に出くわしたのをみてしまった、消えた奈緒の生まれ変わりなどなど、
  →その中でも身内という設定だといろいろ都合よく話が展開できると考え、実際にお話を妄想してみたら結構うまくいったのでこの設定にしました。

設定(打ち合わせで出てきた設定をいくつか使っています)
 ○結城沙和
  結城奈緒の一つ年下の妹
  明るく誰とも仲のいい姉とは間反対の女の子
  そんな姉が嫌いで高校は別のところを選んだ(転校ネタもうまくいくかなと)
  深海と空の駅の現象により姉がいなくなり何か違和感を感じる
  その違和感の理由を知るために千那高校に転校し千波に出会う

 ○岩崎千波
  千那高校二年生
  深海と空の駅の現象のあと結城を持つようになり性格が変わり友達も増えた。
  →個人的には千波は救われて変わったと思っています
   →第四話退屈の群像の冒頭で千波がお父さんにシアロアのことを言う シーン、あれって結構すごい勇気のいることだとおもうんですよ。思春期の娘が自分の好きなものを語るって。ああいうことが言えるのも奈緒のおかげなのかなって。

 ○その他
  構図としては深海と空の駅で奈緒が千波を救ったように、今度は千波が沙和を救う構図
  深海と空の駅によって奈緒は消えたが奈緒に関わるものの全ては消えてはいなかった(写真とか)
  深海と空の駅という都市伝説はいなくなりたい自分を消す現象なのではなく、いなくなりたいと考える自分の心を消してくれる現象として広まっていくというオチ(都市伝説は形を変えるっていうのもよくあるかなーって)
  後日談としてツンツンしていた沙和が千波のことを姉代わりのような存在に感じてしまう(百合的な)
  →千波のことをまちがえて「お姉ちゃん」とかいっちゃったら萌えるんじゃないんですかね。どうですか編集の田村さん

という設定を踏まえながら帰りのバスでお話し妄想してたら文学的?なネームが出来上がりました。沙和主観です。

(どうしても沙和が違和感に気づかないと始まらないのですこしミステリーっぽくなりました。)

(あと、こういうの作るの初めてなので細かいところは目をつぶっていただければ…)

(あとめちゃくちゃ話長いです。暇つぶしに読んでいただければ…)


それでもいいという方は下にスクロールをば…


1.奈緒と千波が深海と空の駅に行った翌日の朝 
 いつもの朝、目を覚ます。朝ごはんの匂い、テレビの音、母の声。いつもの朝。私はいつものように目を覚ました。眠たい目を擦りながら部屋を出ると違和感を感じた。隣の部屋。何か違うような気がする。扉を開けるとそこにはもう使うかどうかわからないものや何年間も開けていない段ボールとかで溢れていた。違う。この部屋はその為に作られた部屋ではない。この違和感は何だろうか。いやきっと寝ぼけているに違いない。変な夢でも見たのだろう。
 階段を降り母の小言を聞き流し朝ごはんを食べる。テレビからはまた正体不明のバンドが新曲を発表したと取り上げていた。どうでもいい。テレビから目をそらすとまた違和感を感じた。向かいの席だ。私達結城家は3人家族のはずだ。なのになぜ椅子が4つもある。母に聞いてみた。「それは確か4つ売りでやすかったからよ」ごもっともな理由だ。でも何なのだろうこの違和感は。しかしいつまでもこのことばかり考えいる場合じゃない。学校に行かないといけない。朝食を食べ終え身支度を済ませいつもの学校に向かった。 

 1限の退屈な日本史の時間に今朝のことをずっと考えていた。あの違和感はなんだったのだろう。そういえば今日の夢は変だった。大切なものを失ったような夢だった気がする。誰かが笑顔で私の前から去っていく夢。忘れてはいけない誰か。でも思い出せない。あれはあの違和感に関係あるのか…。いやそんな話現実的ではない。そもそも私に大切な人などいないのだから。

 学校から帰ってくると私はもう一度あの部屋について調べ始めた。2時間以上かけてダンボールの中身をすべて調べたが収穫はなかった。この真夏の日に無駄に汗をかいただけだった。涼むために1階に行き冷凍庫を開けアイスを食べた。テレビを付けたがこの夕方に面白い番組などやっているわけなどなくテレビを消した。気休めに居間を見回した。するとあるものが目に入った。家の柱に黒ずんだものがあった。私の腰にあたるぐらいの高さにだ。しかしそれは黒ずみなのではなかった。柱に対して垂直にきれいに横線が引いてあった。線の上にはその高さであろう数字が書いてあり、その横によれよれな字で「ちなみ」と書いていた。私の身長だ。懐かしいとは思わなかった。なぜならさらにその5センチぐらい上にも線が引いてあった。それは翌年の私の身長ではない。なぜそう言いきれるかというと線の横に「なお」と書いてあったからだ。


 夕飯を食べる時に母に聞いたら「あなたの友達じゃないの?」と言われた。確かにそうかもしれないと小学校のアルバムを引っ張り出して見たけど「なお」と名がつく女の子は誰もいなかった。いよいよ怪しくなってきた。この「なお」というのは誰だ?もしかしてこの家にはナオという人がいたのではないか。もしそうだとすると私の姉に当たる結城ナオという人がいたのだろうか。だとするのならば私の部屋に結城ナオについてなにか残っていないのか。そう思いついて自分の部屋を掃除し始めた。そして一時間後。私は一枚の写真を見つけた。机の引き出しの奥の方から出てきた。私と誰かが写っているツーショットの写真だ。家の玄関の前で撮った写真だ。今の高校に入学した日に取った写真だ。だけども隣にいるのは誰だ?もしかしてこのひとがナオなのか?入学式に友達の少ない私が自宅の玄関前で写真を撮るわけがない。間違いない、彼女が私の姉となる結城奈緒だ。結城ナオは明るい笑顔と長い髪をシュシュでまとめているのが特徴的だった。私とはまるで正反対のひとだ。この制服は確か千那高校の制服だ。結城ナオは千那生だったのか。


 結城ナオは私の一つか二つ上の姉(もしかしたら妹かもしれないがきっと姉だ)で千那生、そこまでが今わかっていることだ。ここまでの事実は認めよう。あんな写真まであるのだから。(念のため母に確認してもらったがまた同じような反応だった) だが問題はここからだった。ナオが千那生なのは良かったが私の知り合いに千那生はいない。(そもそも友達すらいないのだけども…。)それになぜナオはいなくなったのか。あの笑顔を見るだけでも彼女が愛されていることがわかるよう女の子が。それに一体どうやって消えたのか。


2.沙和が千那高校に転校し千波に出会う
 翌年の夏私は千那高校に転校した。
 
 正直に言うと私はこの一年間でナオの虜になってしまったのだ。誰も知らない少女を私だけが知っている。つまらない日常を過ごしている私にとって刺激的であった。だがそう感じていたのは最初の一二か月程度だ。それ以降はなにも手掛かりがない状態に嫌気がさした。
 でもそのころには別の発見があった。それは私自身についてだ。あの写真、ナオと私。明るい笑顔を浮かべているナオに比べて、私はふてくされている顔をしていた。まるで光と影のようだ。なぜ姉妹でこんなにも違うのだろうか。もしかして私はナオのことが嫌いだったのだろうか。なんでも手に入る(であろう)姉と何も手に入らない妹。きっとナオがまだこの世にいたとき、私はナオのことを妬み恨んでいたのだろう、だってもし今ナオが存在したらそうするに違いないのだから。学校が違うのもきっとナオのいるところに行きたくなかったのだ。そんな風に私がしてきた今までの行いに「もしナオが存在したなら」を付け加えてみると私がこんな性格になってしまったのも辻褄が合ってしまう。つまりナオを知ることは私自身を知ることにつながるのだ。


 人は自分自身のことを知りたがるものだ。私も例外ではない。ナオを知るとき私を知る。その逆もまたそうであった。私を知るときナオを知ることができたのだ。そのことに気づいたときから私の心にはナオが棲みついていた。だがそれは本当のナオではない。私が一人で作り上げたナオなだけだった。だからこそ私は知りたい本当のナオを。そのためには舞台を変えないといけない。この自分の部屋から学校という箱庭へ。こうして私は転校を決意した。親の反対が大変だったがそこは適当な理由をつけ納得させた。ほかにも手続きなといろいろしていたら、一年が経過していた。
 
 何はともあれ千那高校に転校できた私はナオの写真を手がかりに調べ始めた。だが収穫は一切なかった。せっかく転校して来たのに何も得られなくて少し腹が立った。私が転校してきてから一週間後、昼休みに5,6人の女子のグループとすれ違った。すれ違いざま彼女たちはこんなことを言っていた。「ねえ深海と空の駅って知ってる?」私の耳が反応していた。
 深海と空の駅。そういえばそんな都市伝説があることをネットで見たことがある。ナオがいなくなった方法を探していた時期があった。私は都市伝説などの実際に存在しないものを信じるのは好きではなかった。だが存在したいた一人の人間がいなくなるだなんてことが起きた今、そういったものを完全に否定することができなくなってしまった。
 「それを体験した人がこの学校にいるらしいよ」と続けて聞こえた。そのときにはもう遅かった「あの!」私は声をかけていたらしい。グループの女子全員が私を見る。「何?」眼鏡をかけた女の子が言った。何をやっているんだ私は。「あ、いま深海と…空?の駅とか言いませんでしたか?」落ち着け。「あれ、もしかしてこの子あの転校生?」「あーあの、確か名前は…」勝手に会話が進む。とりあえずここは謝って逃げよう。そう思った時「あなた結城さん?」髪の長い女の人がそう話しかけてきた。


3.千波と話し、深海と空の駅について聞く
 その日の夜私はベットに横たわり、今日あったことを思い返した。

 放課後に彼女、岩崎千波と会うことになった。帰りのHRがいつもより時間がかかってしまったので私は急いで教室を出た。待ち合わせの場所に彼女は先にいた。すみません―、そこまで言って口を閉じた。彼女はカメラを構えていた。その先には木にとまっている二羽の小鳥がいた。シャッターを切ると彼女は満足そうにしていた。そのとき私のことに気が付いたようだ。「ああ、ごめんね、集中するとすぐ周りが見えなくなっちゃうんだ。」まるでさっきとは別人のような、昼休みに会った時と同じ笑顔を見せた。「えっとそれで何が知りたいんだっけ?」


 私はあの写真を見せた。写真を見た彼女は「ナオ―」とつぶやき一粒の涙を見せた。確信した、この人はナオについて知っている。

「ナオについて知っているんですね。」千波さんは少し間を開けてからうなずいた。

「あなたこそナオを知っているの?」千波さんが聞いてくる。

「わからないです。でもなぜか知っているような気がするんです。」

 そういうと千波さんはすこし悩んだような顔をしてから何かを決意したようで私の目を見てこういった。「深海と空の駅って知っている?」


 奈緒、漢字で書くとこうなるらしい。(初めて知った。)千波さんは奈緒とのことについて語り始めた。奈緒は私の予想通りに明るく友達の多い子だったらしい。そんな奈緒は千波さんにも優しく接してくれて、千波さんの数少ない友達だったとのこと。そもそも千波さんは一年前は暗かったらしい。それが変われたのも奈緒のおかげで、きっかけは「深海と空の駅」での出来事。ある夏の日に千波さんは何でも持っている奈緒をうらやましく思い自分のことをひどく嫌ってしまっていて、奈緒に激怒してしまう。そのときに奈緒は「じゃあ消えてみる?」といい、深海と空の駅という都市伝説を語り始めた。二人はその日の夜に深海と空の駅に行くことを決行した。だがしかし、駅に列車は現れなかった。残念がった奈緒は千波に本心を伝えた。自分が周りに顔を合わせていきていること。お互いに真の友達(とでもいうのだろうか)になったその時、列車は現れた。列車に乗る二人。だが自分が消えてしまうことが怖くなってしまった千波さんをみた奈緒は扉がしまう前に千波さんを押し放したそうだ。そうして奈緒だけがのった列車は遠く彼方に消えてしまった。そしてそれ以降奈緒を知るものは今日まで誰も現れなかったのだった。「0時丁度の切符は改札機に飲み込まれてしまったし、あの日私はシャッターを切れなかった。彼女の存在を証明できるものは何もなくなってしまった。でも最後に彼女は私に勇気をくれる言葉を言ってくれた。そのおかげで私は変わることができた。これが私の知っている奈緒の全て。」


 奈緒は深海と空の駅という都市伝説を体験しそこに現れた列車に乗って存在ごと消えた。真相はこういうことだったのだ。それでおしまい。「これが全て…?」つい口に出してしまった私はこれからのことについて考える。考えに考えたがこれ以上何も出てこない。私の一年間に及ぶ謎はこれでおしまいなのだ。どうやら私な何か勘違いをしていたようだ。奈緒のことについてすべてを知ったら私は私にとっての何かが変わると思っていたようだ。私はただ奈緒を知っただけ。逆にそれ以外のことには一切の興味がなくなっている。自分自身が悪化したというところは変わったのだろうか。そう考えると少し笑えてきた。そしてむなしくなった。私は何も変わらない。変わることができない人間なんだ。これからもずっと。思考がだんだん悪い方向に走り出す。そしてこの自己嫌悪の行きつく先は「消えてしまいたい」だった。時計を見る。23時3分。まだ間に合う。スマホを手にし私は電話をかける。
 「千波先輩、これから少しいいですか?」


4.深海と空の駅に行く
 23時38分、学校で千波先輩に会う。「夜遅くにすみません。」「大丈夫だよ、でも本当に行くの?」「はいもう決めましたので。」「そっか…じゃあ行こうか」
 私は千波先輩に嘘をついている。奈緒がきえたという証拠が欲しいからほんものを見に行きたいと嘘をついた。消えたいからついてきてくださいなんて言ったところで人生について説得させられ断られてしまう。でもなぜ私は誘ったのだろう。深海と空の駅の方法なら既に知っている。深夜0時丁度の切符で駅に入って、最終電車のあと午前1時5分になると時刻表にはない列車が来る。非常に簡単なやり方だ。もしかして私は死に際を誰かに看取られたいのだろうか。我ながら情けない。今まで一人だったくせに最後の最後でさみしいなどと思うなんて。ますます自分のことが嫌いになった。だが消えるには好都合だ。
 

 自己嫌悪をし続けていたら駅に着いた。23時48分。その間千波先輩は一言もしゃべっていなかった。
 駅員さんにばれないように身を隠しながらなんとか切符を買い、改札口に入れた。ああ本当に私は消えるのだ。自殺志願者が屋上にたどり着いたときこんな気分なんだろうな。
 

 0時5分、あと一時間だ。これから何をして時間をつぶそうか。あたりを見回すと千波さんがカメラを持っていることに気が付いた。

 「カメラ、いつも持っていますね」

 「癖みたいなものだからね。」

 「写真好きなんですか」

 「うん。大好き。本当はみんなからオタクくさいーとか思われるのが嫌で隠れて撮っていたんだけど、奈緒のおかげで隠す必要なんてないんだなって思えるようになったの。」

 また奈緒だ。いらいらする。

 「私は写真が嫌いです。不愛想な自分がいつまでも永遠に残るので。残さなくてもいいものまで残されるのは迷惑です。」

 すこし八つ当たりしてしまったようだがまあいい。どうせあと一時間もすれば後悔なんてものすらなくなるのだから。

 「たしかに綺麗な物ばかりじゃない。美しいものも美しくないものもいつかは形を変えてしまい忘れ去ってしまう。私はそれが怖いから写真を撮っているのかもしれない。」

 「そう…ですか」 

 共感できなかった。忘れてしまうものなんて大したことないのものだからだ。そんなものもともと残す必要なんて無い。私にとって忘れてしまいたくないものって何なのだろうか。今までの人生を振り返ってみても特に何も浮かばなかった。人はこんなとき泣くのだろうか。それすらもできないなんて私はなんなのだ。自己嫌悪も頂点に達したのだろうか、クラスのみんなの前で先生に怒られた時のように自分が自分でいないかのような宙に浮いた感じがした。いやこれはもう空を飛んでいるみたいだ。


 そんなことを思ったからだろうか。


 列車が来た。時計を確認する。1時5分。たしかに時計の針はその時間を指している。
 「これが…深海と空の駅?」
 「うん、そうだよ、あの日みた列車と一緒。まさか本当に現れるなんて。」
 興奮するかと思ったけど私は冷静だった。
 「シャッター…切らないんですか?」
 「これは撮らない、そう決めているの。だって忘れることなんて絶対ないから」
 笑顔でそう答えた。
 「さてとこれで本当にあることが分かったね。奈緒は存在していたんだよ」
 そうかこれが深海と空の駅。ならば私がすることはただ一つだ。足を動かし電車に乗る。そして千波さんを見て  

 「嘘をついてごめんなさい」と謝った。


 「何をしているの?早く降りて!消えてしまうよ!」
 彼女が焦っている。もしかして私は彼女に嫌がらせをしたいから誘ったのだろうか。奈緒のおかげで変われた千波さん、そして奈緒のせいでこんなふうになってしまった私。私は千波さんに嫉妬していたのだ。ひどいことをしてごめんなさい。でももう消えるからそんなことは関係ない。扉が閉まり始める。そのとき今まで私が生きてきてあった出来事が一気に思い返してきた。これが走馬燈というものなのか。そのなかでは奈緒の顔はちゃんと思い出せていた。笑った顔、怒った顔、泣いている顔、奈緒はちゃんと存在していたのだ。それさえわかればもういい。「さようなら千波さん。」

 

 列車の走る音がする。その音はだんだん小さくなる。そして電車の音が聞こえなくなった。ああ私は消えたのか。でも意識だけはあるみたいだ。少し暖かい。死とはもっと冷たいものだと思った。………もしかして…。私は考える。そしてそれは私の思っていた通りだった。私はいま千波さんに抱きしめられている。どうやら電車から降ろされたみたいだ。彼女をつきはなして私は言った。
 「なんで…なんで止めたんですか!!私は消えたかった!!なのにあなたはどうして邪魔したんですか!!」
 「なんでって」
 「だって沙和ちゃん怖がっていたから…」
 「…!」 

 どうやら私は最後の最後で失敗したらしい。彼女のことなんて無視すればよかったのだ。死ぬのが怖かった。助けを求めていたのだ。ああなんて無様なんだ私は。

 「奈緒は…奈緒は最後なんて言ってたんですか…?」
 「…『千波は千波のままでちゃんと誰かに好きになってもらえる』って」
 まるで私に言っているようだ。
 「私もなれますか。私も私のままで誰かに好きになってもらえますか?」
 「なれるよ だって」
 「私はもう沙和ちゃんのこと好きだから」
 私の瞳にはベンチが写っていた。そのベンチがぼやけて見える。そのあとにどうしようもない声が出て私はわんわんと泣いた。泣くのはいつぶりだろうか。泣いたことなんて久々すぎて涙の止め方がわからなかった。


 「はい」千波さんが水を渡してきてくれた。「ありがとうございます。」水を思いっきり飲んだ。「どうすっきりした?」「はい、とても。」「そう、よかった。」
 「あの…なんで私に構ってくれるんですか?」「うーん、多分、沙和ちゃんは昔の私に似ていたから」
 「私、変われますか?」「変われるよ、私がそうであったように」
 「そう…ですか」少し安心した。
 「さっ、そろそろ帰ろうか。もう歩ける?」
 「はい大丈夫です。」
 改札を出る前に私は線路の方を振り返る。
 私は変われる。ならば。
 「あの、千波さん、お願いしたいことがあります」

 「もうちょい右にうごいて、うん、いいよ、あともっと笑顔でわらってよ。えーそんな急にはできない?まあいいや、はーい1足す1は?」シャッター音が鳴った。

 帰り道私たちは奈緒のことを語り合った。私の知っている奈緒と千波さんのしっている奈緒。まるで秘密の共有をしているみたいだねって千波さんはすこし悪そうな顔をしていった。秘密の共有、私は少しうれしかった。
 分かれ道だ。「じゃあ私はこっちだから、じゃあね」千波さんはもう行ってしまう。なにか言わないと。「あの、お姉ちゃん…っ!」間違えた。千波さんがにやにやしながら私を見る。「お姉ちゃん、いいねえ私一人っ子だからそういうの憧れてたんだー。」「違います!間違えただけです!さようなら!!」「あはは冗談だってじゃあね」恥ずかしくて走って帰った。すこし振り向いてみたら千波さんがまだ手を振っていた。いつまでもそうされいると困るから私は手を振り返した。


 こうして私の不思議な一日は終わった。

 5.後日談
  いつもの朝、目を覚ます。朝ごはんの匂い、テレビの音、母の声。いつもの朝。私はいつものように目を覚ました。母の小言を聞き流しながら朝食をたべる。正体不明のバンドの新曲が流れていた。その曲を私は箸を止めながら聞いていてしまった。しまった。朝の貴重な時間を。まあいい、帰ってきたら調べてみよう。名前は確か…シアロア?っていうのか。身支度をし学校に行く。まだこの暑さは続くようだ。でも悪くない。
学校に着いて教室に入る。もうすでに何人かは来ているようだ。その中でも楽しそうな話をしている女の子たちの集まりにむかって私はこう言う。
 「ねえ何か楽しい話?」
 

 「ねえ深海と空の駅って都市伝説知っている?」
 「あ、しっているよー深夜に現れる列車があって、それに乗ると消えてしまうんだっけ?」
 「違うよ、そこに行くと自分が抱えている悩みが消えてしまうらしいって話だよ」


最後まで読んでいただきありがとうございました。


反省会

長すぎた

沙和が奈緒という姉がいた展開が少し不自然かな…?

転校するのに一年かかったってのが無理やりなような

千波との出会いがへたくそ

千波が写真を好きな理由がイマイチうまく作れなかった

原作の列車が現れる前に千波が「まるで深海のようで~」といったシーンをオマージュしようと空という単語を使ったけど無理やり感が否めない

反省点上げるときりがないね。(といいつつも結構我ながらよくできたと思っていたり。)


 

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