雲の電車
昔、家族でドライブしていたときのこと。
後部座席に座っていた私は、イヤホンから流れる音楽を聴きながら、ぼーっと空を眺めていたのだが、途中で電車のような形をした雲を見つけた。
自分で車を運転するようになるまで、乗り物酔いが酷かった。 長距離のドライブや学校行事の旅行などは苦手だった。 それで、いつも寝てしまうか、外の景色を見るようにしていたのだが、その日は気持ちよく晴れていて、それで空を見ていて、見つけたのだ。
すぐに消えてしまうか、別の形になってしまうと思ったのに、割と長い時間、そのままの形を維持していた。風もなかったのだろう。
その雲の電車をずっと眺めているうちに、早く車を降りたいという気持ちも薄れていた。
———どこまで一緒に走れるかな?
———どんな乗客が乗っているのかな?
なんてことを空想してワクワクしてきてしまっていた。
結局、目的地のほんの少し手前で雲は消えてしまったのだが、空想していた時間が楽し過ぎて、それからは空を眺めることが多くなった。
もしもあの頃。デジカメやスマホを持っていたら、写真に撮ることが出来たかもしれない。けど、写真に残せていたとしたら、あんな風に空想を楽しめなかった気もするし、あとで写真を見て、「実際はそうでもなかった」と思
ってしまっていたかもしれない。
ただ、そのときに感じた気持ちを忘れたくなくて、 手帳だかノートに 「雲の電車」とだけメモを残していた。
大人になってから、そういう言葉たちを書き連ねていくだけのノートを作った。
そのノートには「雲の電車」とか「フリマで見つけたカフェボール」 とか、「ひび割れてしまったお気に入りのコーヒーカップ」とか、他人から見たら「なんのこっちゃ?」 という言葉ばかりが並んでいる。
今回、そのノートを眺めているうちに「雲の電車」について書いてみたくなった。
いつか、別の言葉についてもこんな風に書いてみたいと思う日が来るかもしれない。それはまた、そのときの話だ。
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