バーテン


私は酒が好きだ、正確に言うと酩酊が好きだ

幼い子供のやるクルクル遊びの延長かもしれない

酒は色々と今まで嗜んだ

そのうちに面子やセッティングが大事なんだという事に気が付いた

自分に合わない人間と酒を飲むと、同じ酒なのに不味く感じるし酔い方が悪い

それに気が付くと合わない方々との飲みの場や気に入らない店員が居る酒場等には行かないように心掛けた

それとは反対の自分が楽しく酔える相手や人間が働くバー等には足しげく通った

困った事に酒を美味く酌み交わすと何か大事な部分を共有したような気持ちになる

11年前に知り合ったバーテンさんが居る

バーテンというよりも実業家みたいなものかもしれない

プロデュースしたバーはどれも当たり繁盛していた

勿論バーテンとしての腕前というか空気感の作り方は天才的だった

ところが、ある時期を境にして酒に飲まれていった

事業がどれも成功したのだ

店舗に顔を出さずとも売上は確保できている

実務をする必要がなく勿論タイムカードなんてものもない

いつ酔っぱらっても叱られる事もない

ある日、昼辺りにボソボソとした声で「あの、今近くの立呑屋に居るんだけど一緒に飲まない?」等と電話がくる

こちとら堅気で昼休みにそんな連絡が来るもんだから酒飲みの私としては羨ましいが誘いに乗れば失業してしまう

「昼からは飲まないようにしてるんですよ」とだけ毎回答える(大嘘だけど)

毎回電話口で寂しそうではあるが失業するわけにはいかないので心を鬼にする

そのうち近所でベロベロの状態で偶然遭遇した

ビックリしたのが運転していた

「飲酒運転なんて今時シャレになりませんよ!」と伝えキーを取り上げようとすると

「いや、違うんだよ!代行を探して運転していたら、ここまで来ちゃったんだよ!」

クレイジー過ぎる…

マジで張り倒しそうになったが、とりあえず代行を呼んであげた

他の日には近所の床屋で偶然会った時に飲みすぎて血を吐いたと言っていた

飲み過ぎて喉が切れて血が出たので水を飲み込んだら胃の中で水と血が擬古して血の塊が出てきたと笑って話していた

床屋が終わったら一緒に飲もうと誘われたが、飲んでいる最中に血の塊を吐かれたらたまったもんじゃない

丁重にお断りした

それから身体を本格的に壊しバーテン業からは引退して、幾つか店舗の権利を売り渡したらしい


久しぶりに全く面子が入れ替わったバーに行って何杯か酒を飲んだ

私が大好きだったバーテンは車椅子の生活をしているという

でも私には分かっている

きっと家族に隠れて飲んでいるに違いない


この話、酒は怖いなんて薄っぺらい話じゃありません


商売として酒を扱う者には独特の雰囲気があります

酒造メーカーの社長もバーテンも

独特な陰?業?

感じます

喉を潤した快楽と引き換えた平和な日常

酒に罪は一切ありません

付き合い方ですね

ドラッグ全般に言える事です。


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