キチゲージ

日本は自殺する人が多いらしい

皆知っている話だ。理由?まあそんなの人それぞれでしょ。投げやりだけど、私は死にたいと思ったことがない。
実際、同じ状況にならなければその人の気持ちなどわからないものだ。

まあ、1つ言えるとすれば、ストレスは大きな原因だと思う。

しゃくり上げる泣き声、不愉快な笑い声、鈍い衝撃音

誰もそれを気にもとめず、手を動かす。
眠たくなるような声でテキスト通りの言葉をなぞる教師。

この世は終わったのだ。



キチゲージ。
かつては精神病として扱われ、後に広く浸透したその言葉は、人間の進化によって新たに生成されたストレスを溜め込む器官である。

昔はある人とない人がいたらしい…が、遺伝子の…優劣?でもうここ100年はキチゲージを持たない人は生まれなくなったらしい。

「おいwwwキチゲどんたけ溜まったw?」

「俺早く解放見てえよ〜w」

キチゲージはストレスを溜めるが、許容量がある。勿論人それぞれ量は違う。しかし、限界値を超えてしまうと、もう人の生活は出来なくなるらしい。

そうなる前に、解放をしなければならない。

「やべでよ…ヴッ」

「おっ!来たぜ来たぜ」

「解放!解放!」

だけど、この解放は最終手段のようなものだ。
ストレスで限界を迎えそうなキチゲージが、己の理性を、…命を繋げようと爆発するのだから

「ォ゛…!オ゛…!」


「おちんちんびろーん」ポロン

_____制御出来ないのだ。

僅かな沈黙の後、教室が笑い声で満ちる。
笑い声でかき消される教師の念仏。
誰もが弓なりの目で震源地を見る。

彼は笑っていた。
泣きながら、何度もおちんちんをびろーんしている。

…キチゲージが出来てからというものの、人間はストレスに過敏になった。

とにかくストレスになりそうな事には関わらず、自分のキチゲージを守るために思想、行動共に消極的になった。

…と、道徳の先生が誰とも目線を合わせずに話していた。

まあ、彼…みやしたくんを見ればそうなる気持ちはわかる。あんな目には…あいたくない。

「あ…あ…」

「最高ー!wwwおい!またやってくれよwww」

「お、おてぃんてぃんwwwび、びろーんwww」

みやしたくんは大粒の涙を流しながら俯いた。


私は勢いよく立ち上がり全裸になった。

女の叫ぶ声、男の歓声。

今は全てが私を彩る装飾品に過ぎない。

ぐるりと教卓に背を向け、あなるを開示した。
隣の席のみさちゃんは 目を見開いている。

私は笑みを浮かべ白目を剥く。

そして、クラスに響き渡るように、彼の心に届くように!いや、世界が鼓動するように!!
尻を叩いた。

「びっっっっっくりするほど!!!!!ユートピア!!!!!!」

何度も叫び続けた。尻を叩いた。
こんな世界、間違ってる。

「びっくりするほど!!!!ユートピア!!!!」

いじめを見て見ぬふり。
自分を守るため。

生徒と向き合わない教師。
自分を守るため。

「こんなの…間違ってるから…!」

目が熱い。覚えのない感覚に戸惑う。

「…ピア」

「…するほど、…トピア」

「びっくりするほど!ユートピア!」

クラス委員のよしだくん

「びっくりするほど、ユートピア!」

クラスのアイドルのいいじまさん

「びっくりするほどぉ!ユートピアぁ!」

声がでかいおおいしくん

「びっくりするほど!」
「ユートピア!」
さくらいさん、なかやまくん、عِرْفَانくん

涙の雫はは波紋を作り広がっていったのだ。
ユートピアの輪を。

「ど、どうしたんだ、君たち」

「わかんねーのかよ?」

喧嘩が強そうなこばやしくん

「響いたんだよ。尻に。」

ヤンキーそうだけど学校にちゃんと来てるおおもりさん

「み、みんな…!」

クラスの殆どが全裸という異様な光景。
だが、それが皆を昂らせた。

「こんなの…異常だ!」
「異常なのはどっちよ。そりゃ、私、最初はこんなこと、絶対やるもんかって思ったけど…」

みさちゃんは全裸で尻を叩いた。

「今ここでやんないと、もう皆と友達になんて絶対なれない!」

柔らかなお尻はぶるぶると震え、喜んでいるようだった。

「みやした!!今まで無視してて、ごめんな!」
「自分のキチゲを守る為に無視って…おかしかったよね。ごめん。」
「そうだ!!俺も後悔しているぞぉ!」

「今度遊びに行こうよ」
「もう解放が起きても恥ずかしくないや。だって皆でこんな恥ずかしい思いをしたんだもの。」
「そーそー、だからおめぇも恥ずかしくねえぞ、みやした!」
「أظن ذلك أيضا」
「あいつらなら俺…の兄貴がしめといてやるからよ!」

「みんな…ありがとう。」


その日は一日中、お尻の暖かいリズムとキマった旋律が響き渡ったそうな。


fin〜おしり

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