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ロックの思い出

私の実家は二世帯住宅として1960年代に造られた。私が産まれたころ,その家には父方の祖父母と伯父一家(伯父,伯母(後妻),先妻の子である長男,後妻の子である次男)が住んでいた。次男は私と産まれた年と月が同じだった。

伯父の家ではロックという名の柴犬の雑種を飼っていた。私がものごごろついた時には,ロックは威厳をもって存在していた。柴犬だけど,当時の私にとっては秋田犬くらいの大きさと脅威の存在だった。吠えるし。

私の一家(父,母,私,弟。末の弟はまだ産まれていない頃)は同じ敷地内の戸建て(2階部分が単身者向けのアパートになっているその1階)に住んでいた。つまり隣。

敷地にはでかい鉄の門があって,庭は50坪はあったのではなかろうか。祖父が庭いじりが好きなので松や椿,ツツジなどが植わっていた。高いところを伐採するための鉄製の頑丈な折りたたみハシゴ(赤くて2メートルくらいある。通称「鉄塔」)なんかもあった。

たぶん3歳頃のある日,庭に出ると,ロックが鎖から外されていた。門が閉まっていたので自由にされていたのだろう。

何も知らない私は,野に放たれたロックに遭遇した。

ロックは「遊んでくれるの?」と思ったのか追いかけてくる。犬の習性なんて知らんし誰も教えてくれなかったころだった。

大型犬(私にとって)に追いかけられ,泣きながら逃げる私。庭のまんなかに置いてあった「鉄塔」に泣きながら登って助けを求めた。

誰が助けてくれたかは記憶にないが,その一件ですっかり犬嫌いになった。


私が4歳の時に祖父が死んで,なんか知らんが遺産相続のゴタゴタがあって,伯父一家が離婚して伯父+長男,伯母+次男(実子)でそれぞれ別のところで暮らし始めた。そして私の一家が祖母と二世帯住宅に暮らすようになった。

ロックは祖母が面倒を見るようになった。ロックを特に可愛がっていたのは,小学生だった従兄弟の長男だったけど,アパートでは飼えなかったのかな。当時はよくわからなかった。

やがて,ロックも高齢になって,私も大きくなって,それほど怖くはなくなっていた。祖母と毎日散歩に行っていた。

数年後,祖母が死んだ頃か,その前くらいに従兄弟の次男のほうが突然母とやってきて,ロックを連れて行った。

それっきり,ロックにも同じ年同じ月に産まれた従兄弟にも会っていない。

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