制汗剤とデオドラントの有効成分の違いとは?-アメリカ・バイオテックスタートアップ創業者が解説!
春・夏が近づくにつれて気温が上がる中、気になる機会が増えるのがワキのニオイの悩み。そこで、本記事ではデオドラントと制汗剤の違いや、それらに含まれる有効成分がどのように作用するのかを解説していきます。
制汗剤とデオドラントの違い
制汗剤とデオドラントの違いを一言で言えば、制汗剤は、文字通り汗の分泌を抑制する製品なのに対して、デオドラントは汗を抑制するのではなく、汗による不快なニオイを抑える製品であることです。
例えば、夏の暑い日に外で遊んでいると、汗がたくさん出てきますよね。そんな時、制汗剤は汗を止めてくれます。制汗剤を使うと、汗腺の出口を塞いで汗を出しにくくします。もちろん、暑くても汗をかける部分があるので、必要な場所に制汗剤を塗って使うことができます。
一方、デオドラントは、汗をかいても匂いを抑えるための製品です。具体的には、デオドラント製品に含まれる成分が、汗の臭いを消したり、臭いの原因となる細菌の増殖を抑える働きをします。わたしたちが普段使っているデオドラントスプレーやロールオンなどが、このデオドラントの一種です。
日本で市販されている製品の多くは、制汗剤とデオドラントに含まれている有効成分を兼ね備えた制汗剤デオドラントとして販売されているものがほとんどです(筆者調べ)。そのため、ドラッグストアなどで見かける製品の多くは、汗の分泌を抑制するもの、不快なニオイを抑えるものと2種類以上の有効成分が入っています。
有効成分の確認の仕方
日本で販売されている多くのデオドラント・制汗剤は、医薬部外品として厚生労働省に承認されています。これにより、特定の効能を謳うことが可能となりますが、製品の全成分の開示は必須ではありません。しかし、多くの製品ラベルには「有効成分」および「その他の成分」が記載されており、消費者はこれらの情報を基に有効成分を確認することができます。
主要な有効成分とその作用
デオドラントに含まれている有効成分の作用の種類には、主に「制汗作用」「抗菌(殺菌)作用」「消臭作用」があります。
デオドラントに使われる有効成分として、イソプロピルメチルフェノールやベンザルコニウム塩化物といった抗菌作用を持った成分があります。また、制汗剤には酸化亜鉛やフェノールスルホン酸亜鉛といった収斂作用を持った成分が含まれています。これらの成分の違いを理解することで、自分に合った製品を選ぶことができるでしょう。
クロルヒドロキシアルミニウム
塩化アルミニウムを部分中和した塩基性塩化アルミニウム錯体。
収斂作用、制汗作用。
収斂作用:クロルヒドロキシAlは金属塩の一種であり、皮膚のタンパク質を凝固・収縮させる(皮脂腺や汗腺の開口部を収縮させる)。
制汗作用:上層の角層(塩化Alと比較して)でアルミニウムを含む水酸化物のゲルを形成し、表皮内汗管を物理的に閉塞する。
塩化アルミニウム
アルミニウムの塩化物。
収斂作用、制汗作用。
収斂作用:皮膚のタンパク質を凝固・収縮させる(皮脂腺や汗腺の開口部を収縮させる)
制汗作用:塩化Al処置後に中和の結果として表皮内の導管(汗管;角層より下層)にアルミニウムを含む水酸化物のゲルが形成され、このゲルにより表皮内汗管が物理的に閉塞することによって汗が皮膚表面に到達するのをブロックし、発汗の減少が起こる。
ミョウバン・天然アルム石・硫酸アルミニウムカリウム・焼ミョウバン・カリミョウバン
硫酸(H2SO4)のアルミニウム塩とカリウム塩からなる無機塩。
収斂作用、抗菌作用。
収斂作用:金属塩の一種であり、皮膚のタンパク質を凝固・収縮させる。
抗菌作用:水に溶けて酸性となり、雑菌の繁殖を抑制する。
イソプロピルメチルフェノール・o-シメン-5-オール
抗菌作用。
抗菌作用:細菌、酵母への広い抗菌活性(抗菌スペクトル)を有している。
フェノールスルホン酸亜鉛
フェノールスルホン酸が亜鉛の塩となった化合物
収斂作用。
収斂作用:毛穴を引き締めて皮脂の分泌を抑制する。
ベンザルコニウム塩化物
無色~淡黄色澄明の液で、特異なにおいがある。振ると強く泡立つ。
抗菌作用。
抗菌作用:蛋⽩変性及び酵素の切断、糖の分解と乳酸の酸化など代謝 への作⽤、膜透過性障害による溶菌、リン及びカリウムの漏出、解糖の促進、原形質膜の活動を⽀える酵素に対する作⽤などが考えられている。
酸化亜鉛
白色の無晶性の粉末で、におい及び味はない。
収斂作用。消臭作用。
収斂作用:皮膚のタンパク質に結合又は吸着して不溶性の沈殿物や被膜を形成し、収れん、消炎、保護並びに緩和な防腐作用を現す。また、毛細血管の透過性を減少させ、血漿の浸出や白血球の遊出を抑制するので炎症を抑える(抗炎症作用)と共に、創面又は潰瘍面などを乾燥させる)。
消臭作用:ワキガのキー成分であるビニルケトン類のOEO(1-octen-3-one)をOEOを吸着する(ライオン株式会社 ビューティケア研究所 分析センター)。
エタノール・アルコール
無色澄明の液である。水と混和する。
抗菌作用。
抗菌作用:菌体膜を透過し溶菌、タンパクの変性、原形質阻害、代謝機能障害を起こす。
デオドラントでニオイを完全に抑えることはできるのか?
ワキのニオイを抑えるために、広く使われているデオドラントですが、上記のどの有効成分を用いても、長期間ワキのニオイを抑えることはできません。最大72時間のデオドラント効果が謳われている製品も市場に流通していますが、実証試験の方法論には限界があり、実際の使用下では1日持つかどうかといったところではないでしょうか。
また、殺菌作用のある有効成分を配合したデオドラントを繰り返し使用することで、1. デオドラントの殺菌作用に耐えられる耐性菌が生まれるおそれ、2. ワキのマイクロバイオーム(微生物層)の多様性が低下するおそれがあります。
Aras et al. (2023) Microorganismsの研究結果によると、制汗剤によく用いられるクロルヒドロキシアルミニウムに30日間暴露させることによって、表皮ブドウ球菌はクロルヒドロキシアルミニウムへの耐性を得ることが示唆されています。言い換えると、デオドラントを使用し続けることによって、デオドラントが効かない微生物がワキに定着してしまい、最終的にはデオドラントが効かなくなってしまうおそれが示唆されています。
また、Urban et al. (2016) PeerJの研究結果によると、デオドラントを習慣的に使用している人のワキの微生物叢は制汗剤を使用している人のものに比べて多様性が低いことが示唆されています。つまり、デオドラントを使用し続けることによって、微生物叢の多様性が低下し、デオドラントなどの有効成分に耐性を持った微生物が定着してしまうことによって、デオドラントが効かないワキになってしまう可能性があります。
残念ながら、現在、ワキのニオイ対策として市場に流通している商品・サービスは、上記のようなデメリットを抱えたデオドラント・制汗剤か、より侵襲的なボトックス注射、レーザー治療(ミラドライなど)、皮弁術(ワキガ手術)しかありません。今後、非侵襲で長期間効果が持続する、新しいワキガ対策の商品開発に期待が高まります。(弊社でも、新しいワキガ対策の商品開発が進んでいるかも…!?)
まとめ
この記事では、日本市場におけるデオドラントと制汗剤の違いに注目し、それらがどのように機能するか、どんな成分が使われているかをまとめました。これらの製品を選ぶ際には、どんな成分が含まれているのか、その成分にはどんな効果があるのかを理解することが大切です。そうすることで、自分のニーズに合った製品を見つけることができます。ただし、製品を選ぶ際には自分の肌に合うかどうか、アレルギー反応の可能性はないかなど、自己責任で慎重に選択してください。
Taxa Technologiesでは、合成生物学・マイクロバイオーム研究を通した、消費者目線に立った新たなパーソナルケア商品を研究開発しています。先日、プレシードラウンドの資金調達を発表し、アメリカの合成生物学学会、SynBioBetaに取材いただきました📣
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