ニート革命

【奴隷制・資本主義・自動化について】
人が夢を諦めなければならない本当の理由は、才能の有無ではなく、経済的問題なのではないだろうか。歌手でも俳優でも漫画家でも小説家でも映像作家でもスポーツ選手でも学者でも何でもいいのだが、それらの活動自身がマネタイズ可能でなければならない理由はどこにもない。それらの活動以外に時間とエネルギー、つまり人生のほとんどが奪われるのは、生活コストがゼロではなく社会から労働対価を得る必要があるからだ。

古代ギリシャには市民と奴隷という階層構造が存在し、奴隷が生み出す労働力に市民生活が支えられていた。正確な数字は分からないが、例えば10人の奴隷を使って1人の市民の生活を支える事で、市民は自分の好きなことに時間とエネルギーを割くことができた。近代になりようやく奴隷の組織化された蜂起が可能となり、長きに渡る奴隷解放運動によって、人間を所有したり売買することがようやく全世界で禁止された。全ての奴隷は市民になった。しかしそれは表向き人間を所有できなくなっただけであり、階層構造は依然として存在している。奴隷制度は資本主義へと姿を変えたのである。

資本主義は現代の奴隷制度といっても過言ではない。かつての市民が資本家に、奴隷が労働者に衣替えしただけである。これも数字が分からないが、例えば50人の労働者が1人の資本家の不労所得を捻出している。当然労働者は資本家になろうと努力するが、全員が資本家になってしまうと資本家自身も社会も自滅する。働き手がいなくなるからである。そのため資本家は政府を通して経済成長と物価上昇を意図的に連動させる。労働者は上がり続ける生活コストを賄うため時間を提供しなければならず、いつまでも資本家になれない。労働価値が蓄積し世の中にどれだけカネが増えようとも、国民の所得がどれだけ上がろうとも、資本家と労働者の差だけは埋まらないように計画調整される。

繰り返しになるが、人生のほとんどの時間が社会への労働価値提供のために奪われてしまう根本的な原因は、生活コストがゼロではないからである。生活コストの多くを占めるのが食住と健康である(教育コストもばかにならないが、これは将来の所得に対する投資であるため、一種の循環論法であり、将来の所得が必要なくなれば教育コストもゼロである)。

市民と奴隷というゲームを成立させていたものは軍事力である。ある時点から市民と奴隷の軍事力が拮抗したため、このゲームは終了した。資本家と労働者のゲームを成立させているものは、資本力である。過去の失敗から、資本家は資本力を拮抗させない事が肝であることを学んでいるので、物価調整という経済装置を作った。つまり物価コントロールを奪われた時点でこのゲームは終了する。それを可能とするのが食料や住居を無人で生産・製造する自動化技術である。自動化技術によって資本家と労働者の階層構造はユーザーとオートメーション(ロボット)に変わる。かつて全ての奴隷が市民になったように、資本家も労働者も皆等しくユーザーとなり、共に自由な時間を享受できるようになる。健康(医療費)に関しては医療機器や医薬品の自動生産、医師から人工知能への代替にもっと時間がかかるだろう。農業や住宅などの伝統産業に比べて医療機器や創薬では精密部品が多かったり設計コストが大きかったりするためだ。また個人の選択の問題ではあるものの、私ならば、人生の時間を多額の医療費を支払うために生きなければならないとするならば、何もせず自らの自然死を選択するだろう。健康によって得られるであろう、残りの人生の時間を買うという考え方もあるかも知れないが。

【NPO法人 不労生活】
デジタルアバターの技術で自分のコピーが作れて仕事をAIにオフロード出来ているという前提。第1段階として、まずはモデルケースを1つ作る。米や穀類・野菜・果物を生産する土地を購入する。食料生産と配送に必要なハードとソフトを実装しオープンソースにする。第2段階としてクラウドファンディング方式で土地や空き家購入の資金を集める。原資回収するまでのサブスクリプションでも良い。水は井戸から、電気は太陽電池で賄う。生産場所と配送先を出来るだけ近くに置き、その間に通信設備を設置する。宣伝のため移動車を駅前やショッピングモールの近くに出して食料を配給するのもありかも知れない。ユーザーは土地や家の所有権ではなく利用権を購入する事になるため、引っ越した場合でもインフラが整備されている地区であれば、同じ広さの家と食料供給を受けられる。新規契約時に10年分のメンテナンス費用も入れておき、10年後の更新時に新たにメンテナンス費用を徴収する。年々コストは下がるはずである。

【ニート革命(半自動選挙)】
世界を良くする最も簡単な方法は、恐らく1000人にも満たない世界の政治的リーダーの脳を洗脳する事かも知れない。中国共産党のトップ7人を洗脳するだけでも世界は大きく変わるだろう。勿論洗脳の必要がなければそのままでいいのだが、もし洗脳を必要としない人間が各国のリーダーになっていたのだとすれば、恐らく今の世界には戦争も貧困もきっと存在しないだろう。これは宗教の開祖が国のリーダーに説法を伝えたり、政治的判断についての助言を与えたりする事と同じである。ローマ帝国がキリスト教を国教とした事はこうしたハックに近いが、結局失敗して中世になってしまった(キリスト自身がローマ皇帝に助言したわけではないので不適切な例かも知れない)。勿論ローマ帝国にも戦争や奴隷制があった。なので本当に上手くいくのかどうか、歴史的には反証されていると言えなくもない。ここで言う洗脳とは、利己性が強い脳を利他性の強い脳に変異させる事である。例えば前帯状皮質のGABA濃度と向社会性(利他性)には負の相関がある事がfMRIを使った研究で明らかになっている。恐らく特定の神経核や皮質部位の活動を抑制/亢進させるための訓練や電脳的・薬理的補助になるだろう。脳への直接書き込みによる受動的・強制的神経改変ではなく、バイオフィードバックや認知行動療法のような主体的変容である。

機械による政治家候補の推薦を認める法律を整備しなければならない。恐らく最初は信用度スコアを算出する仕組みとして、企業が人事や採用活動に導入する事になるだろう。最終的には国民や議員が政治的リーダーを決める事にしないと、プログラムが国のリーダーを決めるようでは納得感がないだろうし、人間にしか備わっていないであろう直観力やコードに落とし込めないような無意識的な判断力も意思決定においては重要な要素だからである。正しい判断には常に根拠が伴うと思うかも知れないが、それは単なる幻想である。プログラム部分の担当はあくまで人間のスクリーニングである。脳をスキャンする事で知能・経験値・利他性を算出し、それぞれに重みを付けたスコアで政治家をソート、その中の上位数パーセントを次のリーダー候補とする。

スクリーニングは選挙時のみではなく、任期中も定期的に、特に利他性のスコアを診断する。政治家を自動スクリーニングすることを法律的に定めたところで、システムそのものがハックされてしまえば元も子もない。脳スキャンの診断結果が正しい事をどう保証するかという問題になる。スキャンデバイスのハードもソフトもクラックされるという前提で2重3重に防壁を張るべきである。人間を測る物差しはやはり人間にしか務まらない。まずベンチマークを複数人用意する。過去6ヶ月間高い利他性スコアを出した人間と低いスコアの人間を用意し、複数のデバイスの間で同じ診断結果が得られるかどうかを確認する。このキャリブレーションが正常であれば、どのデバイスを使っても正確な診断が可能になるはずである。この方法の脆弱性は、ブレインプリントなどの個人を特定可能な特徴的な脳形態あるいは脳活動を用いてスキャン対象を特定し、診断結果を改竄するようなウィルスを仕込めてしまう事である。複数人のベンチマークを使ったデバイスのキャリブレーションだけではこの攻撃は見抜けない。利他性指標の元となる神経核の位置が解剖学的に個体差の少ない神経組織であれば、個人を特定せずにブランドテストが可能になる。政治家が検査機関ないし検査官そのものを買収し診断結果を改竄させる事を防ぐためには、検査機関同士の多重相互チェックが必要になる。恐らく国際司法機関が中心となり、その下に各国の検査機関が国とは独立して存在し、検査官同士が互いの脳スコアを相互チェックする体制になるだろう。検査官の利他性スコアが一定値を下回ると資格を剥奪される。検査官を市民団体のボランディアから募るのも有効かも知れない。金で買えなければ一切の利権が通用しない。利他性が低い人もボランディアのベンチマークとして奉仕する機会を得る。金はもらえないが利他性、即ち社会的な信用スコアを上げられるという大きなメリットがある。勿論どんなにボランディア活動で実績を積もうとも、中身の脳が変わらなければスコアは上がらない。

ハードウェアの場合、チップやボードのROMに共通鍵を仕込んでおき、それを読み出して工場出荷時から部品が交換されていないかチェックする事は出来る。またスケマ(回路図)から生成したハッシュを使って回路そのものへの改竄もチェック出来るかも知れない。ソフトウェアも同様にバイナリの改竄チェックを行う。これらハード/ソフトの改竄チェックはデバイスをネットに繋ぎ専用のポータルサイトからテストプログラムを走らせ事で実施する。

政治的リーダーの善人洗脳によって資本家と労働者の関係は崩壊する。また食料と住宅の半無償供給システムによって戦争と貧困は撲滅され、全地球人が高等遊民となる。これこそがニート革命である。

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