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夢幻鉄道~DD~

僕のクラスには、障がい者と呼ばれているクラスメイトがいる。
クラスでは、虐められるか、無視されているかのどちらかだ。

僕は、前者でも後者でもない。と、言いたいところだが、どちらかというと後者に近い距離感で接していた。
無視ではないが、なるべく関わらないようにしていた。
関わってしまいと、僕も彼と同じように扱われてしまうからだ。

でも、彼が虐められていると、心の中では、「あんな酷い事をして、最低な奴らだ」と、思っている。
そう思いながらも、僕には何も出来ない。

彼を助ける勇気もない…僕は最低だ。

「夢幻鉄道」

障がい者のクラスメイトの名前は拓馬(たくま)君。
いつもヘラヘラして上の方を向きながら笑っていたり、急に変な動きをしたりしている。
クラスのほとんどの人は、「キモい」「変人」「頭がおかしい奴」など、様々な言葉で拓馬君を表していた。
拓馬君は、虐められても、倒されて泥だらけになっても笑っていた。
「拓馬君」と、名前で呼ぶクラスメイトなどいなかった。

僕は拓馬君を嫌いじゃない。
なんなら、笑っていたり、変な動きをしたりする拓馬君を「面白い人」って思っている。
僕は拓馬君に興味があるのだ。

ある日、授業が終わり、珍しく拓馬君は虐められずに校門を出ることが出来た。
僕は拓馬君の後をつけることにした。

歩道を歩く拓馬君は周りの人から避けられる。
拓馬君が道を歩くと、人が左右に分かれるのだ。
「拓馬君凄い!」
拓馬君の行く手を阻むものはなく、拓馬君の前には道が出来る。
僕はワクワクした。

探偵のように拓馬君の後を追い、どんな生活をしているんだろう?と、さらに興味を持った。

拓馬君は公園に入ると、一人でブランコに乗ったり、滑り台で遊んだり、砂場でゴロゴロ寝転がってはニコニコしていた。
僕は拓馬君に話しかけることにした。
「一人で遊んで楽しいの?」
拓馬君は僕を見ることもなく、「あー」とか、「うー」とか言いながら、笑っていた。
「ダメかぁ…」僕はため息をついた。
どうしたら、拓馬君と話せるんだろう。

少し風が吹いた。
滑り台の上に車掌が座っている。
拓馬には見えていたが、少年には見えていない。

辺りはすっかり暗くなっていた。
拓馬君に夢中で、僕は時間を忘れていた。
「お母さん、心配してるかな…」
僕は心配しながらも、拓馬君から目が離せなかった。
他の人は、もういない。

砂場の横に公園内を真っ直ぐ通れる道がある。
その真っ直ぐな道に線路があった。
「あれ?こんな所に線路なんかあったかな?」
僕は首をかしげながら、拓馬君を見た。
拓馬君も線路を見ていた。
その時、辺りに強い風が吹き、列車が走ってきた。
「!?」
僕はびっくりして拓馬君を見た。
拓馬君はしっかりと僕を見ていた。
「拓…」
僕が話しかけると同時に、拓馬君が僕の手を引いて列車内へ引っ張った。

僕はよろけながら、列車に乗った。
列車内は静まり返っていたが、数名の人が乗っていた。
皆、下を向いている。
「そうだ、拓馬君?」
公園の時の拓馬君に戻っていた。
さっきの拓馬君は何だったんだろう?
そう思いながら、今度は僕が拓馬君の手を引いて、拓馬君を座席に座らせた。

列車が走り出した。
他の人は下を向いたまま、誰も会話をしていない。
少し怖い気がしたが、拓馬君と一緒だからなのか、それほど恐怖は感じなかった。
どちらかと言えば、ワクワクしていた。
この列車はどこに行くんだろう?
僕は窓の外を見た。
窓の内側が濡れていて、外がちゃんと見えないが、暗い事はわかる。
僕は諦めて静かに座る事にした。

どのくらい乗っていたんだろう?
列車がブレーキをかけた。
キィィーーーーー!
「終点、白馬駅、白馬駅」
ゴトン!
列車が停まった。
さっきまで下を向いたままだった乗客が、一斉に席を立ち降りていった。
拓馬君もその人達に続き、列車を降りた。
僕も慌てて後に続いた。

降りた瞬間、さっきまで一緒だった乗客の姿は無く、僕と拓馬君しかいない。
そして、真っ白な空間が広がり、キラキラしたものが、フワフワ浮かんでいる。
「わぁ、綺麗だね」
そう言いながら拓馬君を見ると、拓馬君は先を歩いていた。
その先に女の人が立っている。
拓馬君はその女の人に向かって歩いていた。
女の人の前で拓馬君は止まった。
僕も続く。

「拓馬、今日はお友達を連れて来てくれたのね?」
女の人は嬉しそうに笑って言った。
「おばさんは誰?」
僕は女の人に聞いてみた。
「私は拓馬の母親です」女の人は笑顔でそう言った。
「拓馬君のお母さん?」
「えぇ、そうです。もう拓真とは違う世界にいますけど…」拓馬君のお母さんは悲しそうな顔をした。
「死んでるの?」僕は恐る恐る聞いた。
「はい、でもこの世界は夢の中なの」
「夢?拓馬君の夢なの?」
「いえ、拓馬のおばあさん、私の母親の夢です」
僕は何が何だかわからなかった。
「あ、難しいですね…」
拓馬君のお母さんは少し考えて言った。
「拓馬はおばあさんの夢の中に入り、私に会いに来てくれるんです」
「ほら」拓馬君のお母さんが指を指した。
その方を見ると、おばあさんが立っていた。
おばあさんは笑っているように見えるが、影になってはっきりとは見えない。
拓馬君のお母さんが、話し出した。
「拓馬は発達障がいという障がいを持って生まれました。私の命が短い事がわかった時、残される拓馬が心配で仕方なかったのです。そして、私の母に拓馬の事を頼んで私は死にました。」
拓馬君のお母さんはおばあさんを見ながら話している。
「拓馬は自分のおばあちゃんに育てられ、友達も出来て楽しそうで良かった」
僕は急に罪悪感に苛まれ、拓馬君の学校での事を思い出した。
「拓馬君のお母さん…」
僕は言葉に詰まり、何て言ったら良いのか考えていた。
「拓馬はあなたの事を気に入っていますよ」
拓馬君のお母さんは拓馬君を見ながら笑顔で言ってくれた。
「え?だって…」僕はまた、言葉に詰まった。
「拓馬は普通の人のように話す事が出来ないの。だからあなたをここへ連れて来て、自分の事を知ってもらいたかったのね」
僕はそれを聞いて拓馬君を見た。
拓馬君は上を向いてニコニコ楽しそうにしている。
急に涙が出てきた。
「こんな僕を、友達と思ってくれているの?」
僕は決心した。
「ありがとう拓馬君!これからは僕が君を守る!」
拓馬君の前に立ち、僕は誓った。
一瞬、拓馬君と目が合い、笑ってくれたように見えた。
「拓馬君、今…」
もうそんな事はどうでもいい。
僕は決めたんだ、君を守るって。
だからずっと友達でいてね。
僕は心の中でそう言った。
「良かったね、拓馬」
拓馬君のお母さんは嬉しそうに僕に微笑んでくれた。

白い空間には空はないけれど、上の方が紙のように剥がれてきたのがわかった。
「!?」
「そろそろお母さんが目を覚ますみたいね」
僕は驚いていたが、拓馬君のお母さんは静かにそう言った。
「そうだ!あなた、お名前は?」拓馬君のお母さんに聞かれ、僕は慌てて「白兎(はくと)、白兎です!」
と、言った。
「白兎さん、拓馬をよろしくお願いしますね」
拓馬君のお母さんは深々と頭を下げ、
「もう、行って下さい。」
と、僕に言った。
「拓馬君のお母さん!僕も拓馬君を守ります!絶対守りますから!」
僕は拓馬君のお母さんに手を振った。

僕は拓馬君の手を引いて列車に向かって走った。

あれから、拓馬君のおばあさんの夢の中には、入れないまま、おばあさんも亡くなってしまい、10年が経った。
僕は拓馬君のいる障がい者施設の職員として、拓馬君と一緒にいる。
でも、きっと僕と拓馬君もサヨナラをする日が必ずやってくる。
その時まで一緒にいてくれるよね?

ー終ー

~あとがき~

今回は完全にフィクションです。
初めに、~DD~の意味、
Developmental disorders=発達障害
という意味です。
挿し絵(写真)等を入れて読みやすくしたかったのですが、内容の性質上、文章のみにしました。

前回と同様に素人の作品ですので、ご了承下さい。
我ながら駅名のセンスの無さに震えが止まりません。
一応、拓馬君と白兎君が友達になり、お互いの一部を取って白馬になりましたが、「白兎て!」と自分にツッコミました。
そういえば、前作も駅名が全く思いつかず何となくつけました。
性懲りも無く、また次回、作ってしまう事があれば、駅名に悩まされそうです…。

最後に、貴重な時間を使って読んで頂きありがとうございました。
心より感謝致します。


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