英語便利屋

私の肩書きは通訳だった。名刺にもちゃんと書いてある。
ただ、通訳ができるか? と聞かれると、本当はできなかった。
それでは詐欺ではないか?

英語が話せる事と、通訳する事は必ずしも直結していない。そこにはあらゆる日本語表現を持っている事や、一般教養や専門知識、そして即刻一つの言語から他の言語へ変換するという、頭の切れが必要となってくる。
私はあいにくその中の一つも、持ち合わせていなかった。

私の仕事は、手に汗にぎる会議通訳がぼちぼち、翻訳、その会社に出向している日本人とその家族の英語サポートや、社長の秘書的仕事、日本の会社とのやりとり、日本からやってくる社員やお客様のお世話、等々だった。
いわゆる英語便利屋というところだ。

英語便利屋は、入社直後から電話交換担当の昼休憩の間、電話番をする任務を課せられた。
日本語でも新入社員で電話番をするのは辛い。それが英語である。人の名前がぎっちり書いてあるチャートを渡されても困る。

慣れない大きな電話交換機みたいなものの操作と、知らない名前と英語、三重の痛みである。
一度Harryへかかってきた電話を間違えて、人事部長のHarleyへ回して激怒された。
私の英語力もまだまだだった。

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