泣かせるマーケティングライティング

課題文で泣きそうになった日

 歳を重ねると涙腺がもろくなるというけれど、それはきっと、いろんな経験を積み重ねていった結果、感情移入しやすくなるのだと思う。よく、ドラマや映画を見て泣く人たちは、感情を閉まっている引き出しのラべリングが、わりと見つけやすいのではないかな、とひそかに思っている。  
 現在学んでいる、文章力を底上げする通信講座の課題ワークで読んだ文章に、うっかり泣きそうになった。それが、この記事である。

脳内自動読み上げ機能付き脳みそ


 私の脳みそは、文章を自動読み上げする機能が実装されていて、これが私の速読力に大きく影響を与えている。なので、文字を読むというよりも、文字を自動読み上げ脳内再生で聴いているというほうが自然なのだ。このおかげで、知ってる人のSNSや文章というのは、時々本人の音声で自動再生される。当然、書くときも同じで、キーボードを叩く=しゃべっている、感覚で書いている。なので、この課題文もウェブ記事として読んだのではなく、ただのテキスト文ファイルとして読んだにもかかわらず、最後の追い上げに入った部分で目頭が熱くなった。やばい。やっぱすごいな、この人。ちなみに、以前、ウェブ記事を読んでいたにもかかわらず、今回うっかり不意打ちを食らってしまった。
 天狼院書店の社長である、三浦さんには面識がある。だから、今回の不意打ちは、私が三浦さんと面識が出来たからゆえでもある。5年前は、「なんか面白そうな本屋があるから、今度、京都で時間作っていこう」程度の一方的に間接的に知っている人だった。しかしその後、年越しを書店で過ごすという天狼院のイベントでお逢いしたり、個人的に写真を撮っていただくというご縁もあり、余計に、課題文から読み取れる当時の三浦さんが腹をくくった下りと天狼院書店を興した理念にやられてしまった。

スペックよりもエピソード

 約1か月、毎週2000文字の課題を4回提出してきて感じるのは、これに尽きる。
 「最後まで読んでもらえる文章を書くって、本当に難しい!」
 先日、とある新聞社の重役である友人と食事をしていた時に、農家の婚活についてのエピソードを聴く機会があった。友人曰く、二足のわらじの週末農家の男性よりも、若いうちから親と一緒に畑仕事一筋にやってる男性の方がモテるらしい。一概には言えないだろうが、毎日畑でトマトや稲の世話をしているだけで、語れるエピソードの手持ちが多いそうだ。年収何百万で、車は国産車で、こんな業績を上げてというスペックやエビデンスよりも、朝どれトマトのみずみずしさや、自然の恵みの事を自分の目線から語れる、その人だけのエピソードの方が、女性のハートも摘み取れるらしい。
 今回、課題文で私の涙腺をクリティカルヒットしたのも、三浦さんにしか語れないエピソードの部分だった。プロジェクトX調と言えばそうなのだが、ヒリヒリした逼迫感が三浦さんの声で脳内再生されるから、余計にかもしれない。前述の農家の婚活でも、本人の楽しげな表情と語られるエピソードが連動しているからこそ、「この人となら、農家での生活も楽しめそう」という判断から、好意に変わって行くのだろう。

当事者意識を持ってもらう文章を書くには

 私が、これから本の原稿を書くにあたって、一番重要なのは「当事者として考えてもらう」ことである。
 女性に向けての「おまた力」とか「デリケートゾーンケア」などは、本当にいろんな人がそれぞれのアプローチで発信されているし、LGBTQについての書籍やセクシャルマイノリティの作家さんも年々増えてきている。
 でも、でもだ。
 「自分の娘が、同性の恋人を家に連れて来たら、ショックだ」
 一番最初に、本を書くクラウドファンディングをする相談をした友人から、こう言われた。嫌悪とかでは無く、純粋に、自分の孫を見る夢が叶わない、と言う事にショックを感じるらしい。言いたいことは解かる。そして、それは、おそらく多くの同性愛者が自分のセクシャリティを自覚した時に、親に対して感じる罪悪感と同じだ。その感覚は、セクシャルマイノリティを「自分事」として考えていただく上で、もっとも丁寧に扱わなければならない。それは、何故か。全ての生き物は、命を繋ぐことが目的で生きているからである。本能として、DNAに深く刻み込まれている感覚を無視して、「自分事」として受け止めてもらうには、スペックの説明よりも私にしか語れないエピソードの中で、セクシャリティという個性の表れについてお伝えしていくしかないのだ。
 商業出版でも無く、雑貨として手売りするセクシャリティの本を、私の物語という側面だけでなくて、自分事として読んでもらえる文章を書く力をあと2か月ほどで無事装備できるのだろうか。コツとポイント、文章の組み立ては教わっても、最後に左右するのは、結局、自分の感性だ。こればっかりは、自力で底上げしていくしかない。そして、読んだ人の感情の引き出しを掴むたった一文節を書けれたら、泣かせるマーケティングライティングを習得出来たと胸を張って言えるはずだ。

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