万札と正解

わたしは常に人の顔色を見て生活してきた。
常に自分の答えを相手の答えに合わせるのに必死だった。

 あるとき会社から積立金が返却された。3万5000円が封筒に入っていた。万札で返された人も居れば35枚の1000円札で返された人もいる。
仲良くしていた上司は35枚の1000円札で返却されたことを不満に思っていたようで、私にいくらか1000円札と交換するか?と提案してきた。わたしはあまり良く思わなかったがここは、良いですよ!と返事をすればきっと上司は機嫌が良くなるに違いない!そう思ったので、快く引き受けた。しかし思ってた反応ではなかった。

「え?ほんまに欲しいん?」

声色や表情を必要以上に読み取り過ぎた私は、正解ではなかったのだと思い込み、咄嗟に

「嘘です嘘です!交換しないです!(笑)」

と、さっきとは全く逆のことを言っているのだ。
すると
「え?どっちなん?」と当たり前の返事をされた。わたしはどう答えれば良かったのだろうと半日悶々と過ごす羽目になってしまった。

オードリーの若林さんのエッセイを読んだ時ほとんど同じエピソードが綴られていた。
こういう思いをしているのは私だけではないのか!と安心したのと同時に、若林さんにとても感動した。
それから私は若林さんについてもっと深く知りたくなり他のエッセイも購入した。
ズルい、面白い上に文章まで上手いなんて。私が男だったら彼にとんでもない嫉妬を抱いてしまっていただろう、良かった女で。こういうときに性別で区切ることができるので、性別はやっぱりあったほうがいい。
 
 ある日、ネットで若林さんの出ているトーク番組を見た。そこで彼は、「帰って1番にやることは履いてた靴下を脱いで壁に思いっきり叩きつけることだ」と語っていた。
私は腹を抱えて笑った、涙が出るくらい笑った。その当時の私にとってとても面白いエピソードだったのだ。

 次の日、この話を誰かにしたい!この面白さを共有したい!と、職場で一緒に作業をしていた16個も上の男の人に話した。彼は連日何時間もサービス残業をしていて心身共に疲弊していた。面白い話でもして元気付けてあげよう!
私の粋な図らいのつもりだった。
彼に若林さんの話をした。苦笑された。誰が見てもわかるくらいにだ。そのリアクションを受けてわたしは後悔したし、それを機になんとなくオードリーの若林さんからも離れた。

ついこの間試しに仲の良い友達にも同じことを話した。同じリアクションだった。
この話は私の中でぬくぬく温めていてあげようと決めた。

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