うみう

飄々としていて自分にしか見えない世界で生きている、君と僕の日常をのぞいてみてください。…

うみう

飄々としていて自分にしか見えない世界で生きている、君と僕の日常をのぞいてみてください。| 連載超ショートショート| 写真もこだわって撮った・撮ってもらったものです𖤐

最近の記事

7.自分の世界を広げながら生きている。

長いトンネルをいくつも通り抜け、僕らを乗せた大型バスは長野県へ辿り着いた。今日から5泊6日の夏合宿が始まる。ほぼ毎日他大学との試合が組まれている怒涛の6日間の幕開けに逃げ腰になりそうな半面、丸々6日間君と同じ時間を共有できることに喜び以上の感情を抱いていた。 合宿の醍醐味は練習中以外にも部員と共に行動する時間が格段に増える点だろう。普段あまり話さないメンバーとも自然と話す機会が多くなり、部全体の結びつきがぐっと強くなる。 合宿初日の練習を終え、部員でごった返す風呂から上が

    • 6.君は音楽みたいな人だ。

      僕らが所属している部活動では不定期だがブログを更新している。年に2,3度自分の番が回ってくるのだが、毎回自分のプレーに関する反省点と今シーズンへの意気込みを書くだけの、何の面白みも個性もない文章をネットに放っている。毎日会っている部員でも、こんな表現をするんだ、こんな思いを抱えているのか、と読むたびに発見があって楽しいのだが、僕が一番楽しみにしているのはもちろん君のブログだ。 君は話すときもそうだが本当に独特な表現をする。そしてそれらすべてが奇をてらっているわけでなく、むし

      • 5.そういう気持ち全部、空に混ぜてる。

        君はよく空を見上げる。部活中も、そうでないときも、ふとしたときにその目は空を見ている。そしてたまに変わった形の雲をみつけたり、日が傾きかけている空の色の変化に目を輝かせている。 あるとき君のスマホのロック画面が視界の隅に入った。そこには青々とした空と太陽の光で照らされた雲が対照的でありながら、絶妙な比率でバランスの取れている綺麗な空が広がっていた。ロック画面いいっすねと話しかけると君はとても嬉しそうに微笑んだ。心なしかポニーテールも弾んでいた。 「これ私が撮ったの。すんご

        • 4.心を揺さぶられることがあったら、誰よりも早く君に話そう

          君はSNSをやっていない。SNSを介して生活を立てている人がいる世界で、親しい友人から1回喋ったことがあるかも怪しい人たちの近況を何の苦もなく知ることができる世の中を、君は生きているのにそこに君はいない。 大学に入ってSNSをやっていない人に会ったのは君が初めてだった。大して興味もない人がいまどこで何をしているのかは求めずともわかるのに、君が今どこで何をしているのかは分からない。それをひどくもどかしく感じるとともに、君らしい生き方を貫き通している感じがして、どこまでも掴めな

        7.自分の世界を広げながら生きている。

          3.ずっとなんてないもん。明日死んじゃうかもしれないし。

          君は飄々としていてクールな雰囲気をまとっているけれど、いつみても笑顔だ。静かに微笑んでいたり、おどけて笑っていたり、綺麗に並んだ歯に目を奪われるくらい口を大きく開けて爆笑してたり。その笑顔を見ながらどこかホッとしている自分がいるのに気が付く。あぁ、君も僕と同じ人間なんだ。急に風景に溶け込んで消えてしまったりしないんだ。運動部のマネージャーをしているから日に焼けてこんがり小麦色の肌なのに不思議と透明感を放つ君は、目を離したらいなくなってしまいそうで、何の前触れもなく二度と会えな

          3.ずっとなんてないもん。明日死んじゃうかもしれないし。

          2.特に何も考えてないよ。

          君が見ている景色を見てみたい。そう思うようになったのはいつからだっただろうか。部員とも、同じ学科の人たちとも仲が良くて、聞くところによると外部にも友人が多いらしい。それでいながら周囲の人たちと群れることもなく、独特な距離感で人間関係を築いているように見えた。相手を問わず分け隔てなく接しながら、拒むことはなくて、でもそこに執着を感じることは微塵もない。そんな感じだった。 派手に遊んでいるわけでも自分勝手な行動をしているわけでもないのに、「自分のペースで生きている」という言葉が

          2.特に何も考えてないよ。

          1.ファーストコンタクト。

          「今日、暑いっすね。」 今年初めての真夏日になると天気予報が伝えていた通り、日向に出るのを躊躇してしまうような猛暑日に、僕は君に初めて声をかけた。ファーストコンタクトを不意打ちで、且つできる限りフランクにすることで君の気を引こうと思案した結果のひとことだった。君はちらっと横目で僕を見たと思った次の瞬間、0,1秒前まで無表情だったことが信じられないくらいのキラキラした笑顔でこう言った。 「ね!でもやっと夏が来てくれたって感じで嬉しい。私、待ってた。」 僕の渾身の不意打ちコ

          1.ファーストコンタクト。

          0.君を見つけた

          君は遠くを見ていた。優しいような、どこか哀しそうな、それでいて柔らかいまなざしだった。大きく息を吸って、君は微笑んだ。その目線の先に誰かとても愛しい人がいるみたいだった。不意に君は歩き出した。少し弾むような、楽しげな歩き方で、君はどこまでも遠くまで行ってしまうような気がした。君の艶やかで長い、ポニーテールが揺れた。 君と出会ったのは大学の部活動だった。僕はプレイヤーで、君は1個年上のマネージャーだった。入部して1か月ほど経ち、部員全員の顔と名前が一致したぐらいの頃から、僕の

          0.君を見つけた