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第10話 『空白』

——ブロロロロロ!!!!!!!
ドンッ!!!!!!!!!!!!

「!!?ぐぉッ!!!」
砂煙の中から
突然派手なトラックが現れる

トラックは仇のヘルメスを
瓦礫の山まで吹き飛ばし
オルタとモネの前に急停車する

「オルタ、モネ!!!
 怪我はないか?!」

車窓から、
ガバッと勢いよく
老人が顔を出す

頭はツルツル、
ボサボサの白髭を
胸の辺りまで蓄えている

「!!?
 げっ!テンテン!!」

モネは目は引き攣り
迷惑そうな声で、
リアクションをする

天!!元!!てんげんじゃッ!!
 天月 天元あまつき てんげん……祖父をあだ名で呼ぶなと、
 親の顔を見てみたいわ、全く。

 ……まぁ、悪くないがのぅ。
 しゅほほほほほ、ヒック」


天元は、
ウィスキーを片手に
ヒックとしゃっくりをする

「……また、飲酒運転」

オルタはボソッと
ツッコみを入れる
 
「それよりも……
 お前たちに何かあったら、
 わしはもう……うっうっう……」

天元は急に泣き出すと
パーカーの上に重ねた
白衣の袖で涙を拭う

白衣は涙のほかに
油染みが目立っている

「もう、また泣き上戸!?
 今すっっっごく忙しいの!!」

オルタは両腕を上にあげ、
プンスカと怒る

「マモルから "連れ戻せ" と言われての、
 お前たちの後を急いで追ってきたんじゃ。
 もう少しで、"アレ" が
 完成しそうだったんじゃがのう……」

車窓から両手を広げ、
ジェスチャーを加えながら説明をする

「!!?
 マ、マ、マモ兄から!?」

マモルという兄の名前を出された瞬間
顔面は青ざめ……
双子は急にオドオドする

「やばい……どうしよう。
 黙って、マモ兄の干し芋を
 食べたのが、バレた?」

オルタは
指先を咥えながら
歯をカタカタと鳴らし怯える

「オルタ、違うやろ!
 黙って "活動範囲外" まで
 きてるのがバレとるんや」

モネは冷静にツッコミを入れる

「そういうわけじゃ。
 はよ、後ろに掴み乗れ!!」

天元は車窓から
積荷にかけたロープを指差す

——ガラガラガラッ!!

「う、うぅぅう」

仇のヘルメスは、
瓦礫の山から起き上がる

「!!?」

オルタとモネに
改めて緊張が走る

「はて、オカシイのう。
 多少のダメージは
 あってもいいはずじゃが」

サングラスを右手で上げ、
目を細めて状態を確認する

仇のヘルメスは
意識が朦朧とし揺れているが
傷は一つもついていない

「うーむ……モネ、見なさい。
 ワシの愛車で吹っ飛ばしても、
 怪我ひとつしておらん。
 
 何かがおかしいんじゃが……はて。
 確実に勝てるまで、
 今は引き下がるべきじゃ」

天元は親指を立てて、
仇のヘルメスを指す

「……でも!!」

モネは大鎌 "シンセイカイ" を
握りしめ食い下がらない

「〜〜モネちゃん!!!
 マモ兄の言うことは "絶対" !!
 仕切り直そ!!」


「マモルはともかく、
 一旦仕切り直しじゃ!
 はよ荷台に掴まれ!!!」

グビグビグビと
ウィスキーを飲みながら、
右手でバンバンとドアを叩く

「絶対に、嫌や!!!」

モネはここまで言われても、
駄々をこねる子供のように
食い下がらない

やり取りは平行線のまま

……その横では
シン日本軍とヘルメス兵士が
混乱している

「な、なんだ……!?
 この悪趣味なトラックは?」


「えーと……コレは明らかに
 ウチの軍じゃないよな?」


この突然の状況に、
明らかに戸惑うシン日本軍

さらに……

Jジェイ様!!!!!
 い……"異名持ち" が
 吹っ飛ばされた!?」

仇のヘルメスはJジェイ
と呼ばれている

彼がここまで派手に
ダメージを受ける光景を
他の兵士は見たことがない様子

「ほう!
 あのクソ野郎に "異名" が
 ついてるとはな……
 想像通り厄介かもしれんな」

天元は、
ぼさっと伸びた髭を
摘むように撫でながら、呟く

「……それにしても、
 こっち方面のヘルメスは、
 やりたい放題じゃな。
 関東とは "大違い" じゃ」

天元は、
明らかに奪い取った形跡のある
食料や水を横目で見ながら、
ウィスキーをぐびっと飲み干す

「がは!!ゲホッゴホッ!!
 俺の "能力" じゃなきゃ死んでたな……。
 ぐっ……頭が揺れる」

Jジェイは、
左手で頭を押さえ、
揺れが治まるのを待つ

「能力……
 ネオNFTエヌエフティUTユーティリティかの?」

「あ゛ぁ……痛テェ……
 が、死に近づく感じ、悪くねぇなぁ〜。
 にひひ……」

Jジェイは、
頭の揺れが少し収まり、
初めて天元を直視する

「しゅっほっほ!
 生きてて安心したわい。
  "あいつのカタキ" は愛する孫に
 取らせてやりたいからのぉ!」

天元は
酒を持った左腕を
窓からプランと垂らす

「カタキ?……にっひひひ!
 そんなことが理由か。
 心当たりが山ほどあり過ぎて、
 ワカらねぇなぁぁぁ〜〜〜!!?」

Jジェイは、
長いベロをだらんと垂らし、
天元を挑発するように叫ぶ

「数年前の病院立て篭もり、
 お前が殺した勇気ある医者。
 ……これでも、思い出さんか?」

天元は
ガチャっとドアを開けて、
車に捕まりながら立つ

「病院?医者?……!!?」

「親より先に息子を亡くすとはのぅ。
 この世の中じゃ仕方がない……が
 目の前にカタキがおるのは
 不思議な感覚じゃな」

「まさか……!?
 あのヘボ医者の……!!
 お前は覚えてねぇが……」

「わしは、
 足を撃たれただけじゃからな。
 ま、そのおかげで
 老後の楽しみが増えたがのう」

長い白衣の裾を少し捲り
サイボーグ化された義足を見せる

天元は、
ウィスキーの瓶で、
コツコツコツと義足を叩く

「楽しみ?こっちはな、
 切り落とされた腕の傷が
 今でも疼くんだよ……
 お陰で、薬漬けだぜ〜」

ズキズキと痛む腕を抱えながら
天元を睨む

「うぅむ、
 以前から変わってない
 気がするがのぅ……」

目を細めながら、顎髭を撫でる

「あ゛ぁ!!?」

「長く生きていればのぅ、
 得るものもあれば、何かを失う。
 これは必然、世の決まり事じゃ。
 ……そして、
 それはいつでも突然やってくる」

天元は、
空を見上げ寂しそうに呟く

「ウルセェな……
 俺サマは、お前みたいな説教垂れが……
 一番嫌いなんだよ!!」

「……お主は腕を失った。
 わしはバカ息子を失った。
 だが、その "空白" から
 何を創造するか……。
 ——『ミント』!!」

手に持っていた
ウィスキーの瓶を
幾何学模様が覆い変化させる

「このデコり具合、
 めっちゃイケてるじゃろ?」
きらきらにデコレーションされた
爆弾を具現化

「なっ!?
 それは……爆弾!!?」

「空白は "無" であると同時に "無" ではない。
 無と同化し、無を愉しむんじゃ」

ポチッと爆弾のボタンを押す

——キィィィィ!!!!

「フンッ!!!」

義足が光り出し、
爆弾を高速で蹴り出す

(!!?)

Jジェイ
顔の真横、
瓦礫に爆弾がヒットする

——シュゥゥウウウ
———モクモクモク……

(!!?くそ、やられた……煙幕か!!
 いや……
 ファ、ファ……
 ブワックション!!!!!??)

「しゅッほほほほ!!!
 ハラペーーーーーーニョ!!!!
 そりゃ、唐辛子の粉末じゃ。
 干涸びた大地でもよく育つからのぉ」

ふざけたポーズで挑発する

(な、涙が、止まらな……!!
 か、辛い!!
 イテぇーー!!!!!!!)

「うわ、最悪……」
呆れるモネとオルタ

「どうじゃ、効くじゃろ。
 まだ終わらんぞ」

天元はバタンと車に乗り込み、
手元のレバーをガチャガチャ動かす

トラックの上に装備された機関銃が
Jジェイに照準を合わせる

——ウィィ、ガゴッ、ガゴゴゴ!!!

「今度は、なんだ!?
 前が、まだ見えな……」

「ぽちっとな」

天元は
手元のピンクに光るボタンを
人差し指で押す

——ガシャン

機関銃がクルクルと回り出す

そして……

———シュシュシュシュシュ!!

「!!?イテテテテテテ!!
 な、なんだこれ針!?」


「いや、爪楊枝じゃ」

「!!?ふざけッ!!
 ——『ミント』!!」

Jジェイ
扉のようなNFTを具現化し防ぐ

「……って、じじい!
 邪魔すんな!
 こいつはウチが殺すんや!」

トラックの後方から
モネの怒り声

「モネちゃん!!
 おじいちゃんになんてこと言うの!」

オルタはバッと
モネの方を振り向き、
手を上げて注意する

「オルタは悔しくないんか!!
 コイツを見つけるのに、
 何年かかったと……!!
 今なら……!!!!!!」

オルタに向かって食いつく

「た、確かに……!!
 い、いや、だめ……
 一旦戻るよ!!」

Jジェイの方を見る

「しゅほほほほ!!
 楊枝差しみたいになったのう!!」

天元は
しゃっくりをしながら、
今度は日本酒を
瓶でぐびぐびと飲む

「このアル中が!!!
 八つ裂きにしてやる……
 ——『UTユーティリティ「猛り狂うサテュロス」「マスク・オブ・バーサーカー」』」

首の後ろにつけていた
ヤギの仮面をはめる

「……嫌や!!!」

「モネちゃん!!いいかげ……」

子供のように、口喧嘩をする双子

「グゥウウウォオオオオ!!!!!」

ヤギの獣人に変身

「!!?」

全員驚く

「ガァァァアアッ!!!!!!!」

——ズシャ!!

「かっ!?」
(見えな……!!)

急に引き裂かれるシン日本兵

「やめてッ!!
 やめてくだッ……!!!」

味方のヘルメス兵士の叫びも虚しく
切り裂かれる

——ズシャ!!

——ズシャ、ズシャ!!

目にも止まらぬ高速で、
オルタたち以外の全員を
紙屑のように千切る

「ヴォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

暴走している様子で
雄叫びを上げる

「あの時とは、速さが、違う……!!
 仲間までも……一瞬で……!!!!!」

オルタ、たらりと冷や汗をかく

「くッ!!」
(理性がない相手に、
 ウチのリビールは通用せん……
 相性で不利や……!!)


「わかったか!!闇雲に戦って、
 勝てる相手じゃないじゃろ!!!
 アイツの最後の言葉を忘れたのか!?」


「!!!!!」

双子は、ある言葉を思い出し
歯を食いしばり納得

二人とも顔を合わせて、
「うん」と頷く

「分かったら、
 後ろに捕まれ!!」

モネは握っていた大鎌をNFTに戻す
二人とも荷台のロープに掴まる

「フーッフー……
 ゴガァッ!!!!!!!」


「へ?」
オルタが
ロープに捕まった瞬間、
斬りかかられる

————ズシャ!!!!

「!!?
 オルタぁぁぁああ!!!!」
驚き叫ぶモネと天元

「!!!
 大丈夫!!
 羽根で、なんとか!!」
背中にミントした蝶の羽は
大きく傷ついている

「ゴッガァァァアア!!!!」

——ズバッ!!!

双子の逆サイド
トラックの右側面を爪で切り裂く

その衝撃で、車は大きく傾く

「!!?」

天元ハンドルを回しまくる

「ウワォォォオオオオ!!」
オルタとモネは必死にロープに捕まる

「!!?やばい、倒れるんとちゃう!!?」
焦るモネ

「えぇぇええい!!
 こんな事で……
 この世の酒を飲み干すまで、
 わしゃ……死ぬわけには、
 いかんのじゃ!!」


——バラバラバラ!!

後ろに積んであった酒瓶が
落ちていく

「あ゛ぁぁーーーーーーーー!!
 ワシの、命のガソリンが!!!
 くそぉ!!!」

——————ガタン!!!
トラック横転しかけるが、
なんとか保つ

「舐めおって!!
 薬に頼った魂亡き一撃で……
 ワシのワールズ・エンド号が
 止まるはずないじゃろぉぉぉお!!」


———ギャギャギャギャギャ!!!!

——ブロロロロロ!!!!!!!

場面変わり

砂漠化した大阪を進むトラック

なんとか振り切り、
オルタとモネも座席に座る

「オルタ……もうそれ仕舞ってくれへん?
 羽根のせいでギュウギュウやんか」


「へへへ、ごめんごめん!
 今戻すわ。
 ——『アンロード』」

幾何学模様が出て羽根をしまう

オルタとモネ
ふぅと緊張が解けてため息をつく

「それにしても、
 よく見つけたの。
 もう何年も前じゃぞ?」

日本酒を一升瓶でぐびぐび飲む

「けど……
 もう見つけられへんかもしれん」


「ふん、わしを誰だと思っとる!
 場所なんていくらでもわかるわい」

ぷはぁと一息つき、
一升瓶をドンと置く

「これじゃ」

運転しながら
爪楊枝を二人に見せる

「爪楊枝???」

「奴に飛ばした爪楊枝じゃが、
 あれはネオNFTじゃ。
 つまり "アドレス" を調べれば、
 相手の動きは手に取るように、分かる!!」


「!!?」
驚き言葉の出ない二人

「ワシの趣味を舐めるでない!
 しゅほほほほほ!!!!」


「……GPSみたいに
 居場所がわかる……!?」
驚くモネ

「爪楊枝なら警戒しないじゃろ。
 アレだけ飛ばせば、
 1本くらいは奴の服にでも残っとる。
 極小サイズも混ぜといたからのぉ、ほっほ」


「さっすが、天才博士~!
 もう、大好き!!!!
 ……よくわからへんけど!」
ニコニコのオルタ

「じゃろ」

ニカっと笑って
金歯が見える

「……じじい、よそ見すんな」

嬉しいが、プライドで
その表情を見せたくないモネは
窓から外を眺めるふりをする

「おっとスマン。
 何はともあれ……
 いよいよ……じゃな」

ピンっとウォッカの栓を開けて
ぐびぐび飲む

「……飲み過ぎ」

ブロロロロ
砂漠を蛇行運転

——ザッ!!

「逃したか……
 ウッ、頭痛が……」

遠くを蛇行するトラックを見つめる

——コロコロコロ、ゴツ……

「あの二人組を呼び出すか
 ……皆殺しだ。
 にひ……にひひひひ」

Jジェイは、
足に当たった酒瓶を手に取り、
不敵な笑みを浮かべる

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