クローン人間と出産

クローン人間を作るなどというとほとんどの者は反対するだろう。科学者のエゴだとか、危険だとか。僕もその感覚は分かる。
しかし、なぜクローンを作るのが悪いかと問われるとかなり困ってしまう。というか、クローンを作るのが悪だとすると出産も悪だし、出産をおめでたいことだとするとクローンも善だということになってしまう気がするのだ。

以下はその論証である。

クローンを作ってはならない理由
1,人間がエゴイズムで生命を作るべきではない
2,クローンは危険だ。癌や未知の病にかかり苦しむ可能性がある命を作るべきではない

上の二つの意見について反論をしてみよう。

1,について
人間がエゴイズムで生命を作るべきではないとすると、通常の出産もまた、それがエゴイズムに基づくならば悪ということになる。これに対する反論として、通常の出産は愛によって正当化されるのだというものがありそうだが、「愛」という観念的な要素によって出産が正当化されるなら、その「愛」という観念によってクローンもまた同じように正当化されうる。つまり、科学者が己の作ったクローンを我が子のように愛するなら(実際クローンを作るほどの科学者ならクローンを本気で愛する可能性はある)、クローンの製造は問題ないということになる。

2,について
癌や未知の病にかかり苦しむ可能性がある命を作るべきではないとすると、やはり同じ論理で通常の出産も悪となる。というのも、生まれた子どもは皆癌やその他の疾病にかかる可能性があるからだ。また、2の反論を認めると、遺伝性疾患の持ち主は子どもを作るべきではないということになる。

結局、倫理的には通常の出産もクローンも同じことであるように思えてならない。出産が正当化されるのが命そのものの神聖性といった観念にあるのなら、クローンもまた神聖な命なのだから、同じ論理で正当化されるであろう。

つまり、出産を正当化するとクローンも正当化され、クローンを否定すると出産も否定しなければならなくなる、というジレンマがあるようだ。
同じ遺伝子を持つ者を作るのは悪、という論理も有効ではない。もしそれを認めると、一卵性双生児を産むのは悪ということになってしまうから。

この矛盾(?)を解決する論理を僕は持っていない。それとも、クローンも正当化されねばならないのか?はたまた出産は悪い行為なのか?
答えの出ない問題である。

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