【人怖話】豹変する者-第6話-
15年ほど前にオンラインゲームで体験した人怖話。
もうすでにそのオンラインゲームは引退しており、当事者達もログインしていない可能性はある。
そろそろ書いてもいいと思ったので多少フェイクは入れて書いていく。
2002年秋頃にゲーム攻略サイトのチャットルームで知り合ったゲーム友達から勧められたMMORPG内で様々な人間関係を作り上げたことで、半引きこもり状態だった私の生活が大きく変わっていくことになった。
ただ、いいことばかりではなかった。
辛いことも悲しいことも悔しいこともたくさんあった。
これから書く内容は豹変する者-第5話-の続きになる。
◆登場人物紹介◆
・黒犬(仮名)・・・私がオンラインゲームで名乗っていた名前、由来はシルバーグレーのトイプードルを飼っていたことから、勧められたオンラインゲームでネット生活充実中のはずが、急な展開で困惑中
・ケンジ(仮名)・・・自称男子大学生、昼間からチャットルームやゲームにログインしている、一匹狼がかっこいいと思い込んでいるものの、自分で作成した女キャラに萌える部分もあり、過去にネカマになったことでトラブルを引き起こして度々ネタにされている
・英子(仮名)・・・パソコンに詳しい専門学校生で接続時間は夕方から深夜、リアルの素性を隠しては他人をからかって楽しんでいる、本人に悪気があるのかないのか全てにおいて謎が多い、警戒心が強いようで、厄介な性質を持つ相手を誰よりも早く見抜く目を持っている、演技が上手で他人を手のひらの上で転がすのが得意らしい
・白猫(仮名)・・・18歳社会人男性プレイヤー、某MMORPGで知り合ったゲーム友達のひとりだが、リアルではブラック企業に勤めていたことでかなり精神的に追い詰められているようだが、何か心に影のようなものを持っている可能性がある、優しい顔の裏には・・・
・大飯(仮名)・・・22歳男子大学生プレイヤー、私や英子と同じギルドに所属しており、誰とでもすぐに仲良くなれるようなコミュ力の高い陽キャである、名前の由来はごはんが大好きでたくさん食べることから、大の動物好き、読み方はおおい
ケンジのネカマ事件についてはこちら
第1話はこちら
第2話はこちら
第3話はこちら
第4話はこちら
第5話はこちら
あれほど楽しかったオンラインゲームも白猫からの告白で流れが大きく変わってしまった。
丁寧で優しいと思われていた彼の豹変と英子から教えられた裏の顔。
同情、不安、恐怖、期待・・・様々な思いが複雑に交錯する。
ゲーム友達2名からこんなに心配されているというのに、どうして白猫との関係を終わらせることに躊躇してしまうのか。
もう少しだけ、ほんの少しだけでもいい。
先日の冷たい対応は一時的なものであって欲しい、彼の本性も一般的な範囲内であって欲しい。
そう願いつつ夜になってネトゲにログインすると、白猫もログインしており、大飯君や他のギルメンも在席していた。
私はいつも通りにギルチャで挨拶すると、大飯君やギルメンからは返事が返って来る。
ほっと安心する。
よかった、彼らはいつも通りの反応だ。
挨拶をして返事が返って来る、当たり前のことに感じるが、実はとてもありがたいことだと改めて実感させられた。
問題の白猫はどうなのかというと・・・。
相変わらず返事はない、本当に退席しているのか、それとも不在のふりをして様子を伺っているのだろうか。
私は恐る恐る白猫に個人チャットを飛ばしてみる。
私「白猫さん、こんばんわ」
白猫「・・・・・・・・・」
私「あ、不在かな?」
白猫「・・・・・・・・・」
私「この前はごめんね、何か気に障ったことがあるなら遠慮しないで教えてね」
白猫「・・・・・・・・・あ」
白猫「・・・ごめん、この前はどうかしてた」
私「あ、居たんだね」
白猫「仕事、忙しくてさ、ノルマがきつくて」
白猫「君に冷たい態度を取ったのもストレスが原因だった」
白猫「悪いと思ってたんだけど、もうどうにもならないくらい辛くてさ」
白猫「黒犬さんを嫌な気持ちにさせてしまった、もう手遅れだと思った」
白猫「だから・・・」
白猫「個人チャット送られてびっくりした、嫌われたと思ったから」
私「私こそごめんね、仕事忙しいのにギルチャで他の人と楽しそうに会話してて、そういうの見てたらイラっとしちゃうよね」
白猫「うん、本当は怒っちゃいけないんだけど、つい・・・」
私「いいよ、ストレス溜まってたんだよね、だからつい言っちゃったんだよね?」
白猫「黒犬さんと出会う少し前にさ、彼女に振られたんだ」
私「それはショックだったね」
白猫「毎日仲良くしてたんだけどね、僕が社会人になってから毎日会うのが難しくなってね、それで振られたんだ・・・」
私「ごめんね、辛い状況ばっかりなのに支えてあげられなくて」
白猫「いいんだよ、僕がリアル事情説明しなかったから、分からなくて当然だよ」
私「私で良ければいつでも話は聞くし、相談にも乗るから」
白猫「・・・・ありがとう、じゃあ、ひとつお願いしてもいい?」
私「いいよ」
白猫「・・・・・連絡先教えて、携帯のメルアドと電話番号」
私「は はい!?」
・・・一瞬思考が固まってしまった。
仲良くなれば連絡先の交換をすることもあるだろう、だけどフリーメールでのやり取りから入ると思う。
それがいきなり携帯のメルアドと電話番号を教えてというお願い事だったことで困ってしまった。
私「フリーメールじゃだめかな?」
白猫「は?・・・・なんだって?」
私「ほ ほら、ネット上で知り合った関係だし、いきなり個人情報の塊となる携帯のメルアドと電話番号はどうなのかと思って・・・」
白猫「なんでだよ?友達だよね?」
私「英子や他のゲーム友達とも最初はフリーメールでのやり取りだったよ、英子とはそれなりに親しくなったからPCのメルアド教えたことはあるけど、英子にすら携帯のメルアドや電話番号は教えたことないよ!」
白猫「だって、僕たちは恋愛を視野に入れた友達付き合いだよね?」
白猫「普通の友達付き合いなら仕方ないよ、でも、違うよね?」
・・・白猫の言葉が鋭く感じられるが、さすがに携帯関連を教えるのはやばいと感じたので何とか断ろうと考える。
私「ごめん、携帯関連はまだ無理、でもフリーメールなら何とか・・・」
白猫「ふ~ん、携帯は教えたく、ないんだ?」
白猫「・・・・・・・・・・・・・・」
白猫「そっか・・・まぁ、仕方ないね、フリーメールでいいよ」
私「期待に応えられなくてごめんね」
白猫「ちょっと不満だけど、現実で直接対面していれば携帯の連絡先はゲット出来たかもしれないけど、ネット上だから仕方ないか」
私「フリーメールのアドレスは〇〇××・・・」
白猫「僕は最初から携帯の連絡先を教えるよ、○○××で番号は・・・」
私「ば 番号はもっと後でいいから!」
白猫「いや、今教える、;@7-:;p\\^-・・・」
白猫「気軽に電話してね」
私「も もっと親しくなったらね」
彼の勢いに押されてしまってフリーメールのアドレスを教えてしまった。
白猫「今日はどこかに狩りに出かけるつもりはないけど、君と話をしたいな」
私「いいですよ、じゃあどこかに出かけましょう」
白猫「〇〇平原の××に来てくれる?」
私「いいですよ」
私は急いで指定された場所にキャラを移動させた。
白猫はすでに到着していた。
私「おまたせ」
白猫「会いたかったよ!」
白猫「ごめん、この前のことで君を傷つけてしまった」
私「いいよ、もう気にしていないから」
白猫「いや、僕の気が済まないんだ、本当にごめん」
私「リアル事情だから仕方ないよ」
白猫「じゃあ、僕の話に付き合ってくれる?」
私「いいですよ」
白猫「じゃあ、君に質問があるんだ」
私「はい・・・なんでも聞いてね」
白猫「・・・・・・・・・・・・」
私「・・・・・・・・・・・・?」
白猫「・・・・・・・・・・・・」
私「白猫さん?」
白猫・・・・・・・・・・・・・」
私(こ この間は一体何!?)
しばらく間が空いたのちにこんな質問が飛んできた。
白猫「黒犬さんって今日はどんな下着履いてるの?」
白猫「あと、胸のサイズは?」
私「な 何を!?」
白猫「さっき何でも聞いていいって言ってたよね?」
私「確かに言ったけど、いきなり下着と胸のことを聞かれるとは思わなかった」
白猫「元カノにも同じように質問したことあるけどさ、即答だったよ」
私「それは、元カノさんとは現実で接点あって恋愛関係だったからでしょ!?」
白猫「黒犬さんってまっすぐな人だと思ってたのに、なんで嘘つくの?」
白猫が入力する文章にイライラした感情が乗ってきている。
即答じゃないことが気に入らない様子だ。
私「質問内容が私の中でNGだった」
私も何とかチャットで自分の感じたことを書いていくが、少しばかり手が震えていた。
やはり英子の言った通りだった、彼はとんでもない人物だ。
白猫「そんなの最初から言ってくれないと分からないし」
私(逆ギレされてる・・・)
白猫「恋愛を視野に入れた関係なんだから、ありだよね?」
私「まだそこまでは無理だよ」
白猫「興覚めしちゃうね」
・・・彼はそう言って黙ってログアウトしてしまった。
セクハラ発言してきたから、さすがにもうないと思ってしまった。
異性に下着と胸の話をするなんて、私はそういうの苦手だというのに。
英子のように男をからかうのが大好きな人ならさらっと流したり逆に相手に突っ込みを入れて反撃出来るかもしれないが、普通の人でとっさにそういう行動を取れる人は果たしてどのくらい居るだろうか?
しばらくその場でキャラを放置しながらどうしたものかと考えていたところ、ギルチャで大飯君が私に話しかけてきた。
大飯「黒犬さーん、もし暇だったらどこか狩りに出かけない?」
私「いいですよ、どこに行きますか?」
大飯「〇〇山の△△ってところで遊ぼうよ!」
私「OK、今から向かうね」
大飯君の突然の誘いに私はかなり安心してしまった。
誰とでもすぐに仲良くなれる人物であり、いつでも面白い話をしてくれるし、ギルドのムードメーカー的存在である。
この時ばかりは彼が救いの神に見えてしまった。
30分ほど彼と一緒に狩りに出かけたのだが、楽しく会話しながらだったので気持ちが安らいだのは覚えている。
だが、この時の私の行動はとても危ういものだったと後で知るところとなる。
大飯君との狩りを終えて私はログアウトしようとしていたところ、英子がログインしてきた。
私「英子、こんばんわ」
英子「ばんわ~」
英子から個人チャットが飛んでくる。
英子「さっき大飯君と一緒にどこかに狩りに行ってたよね?」
私「あ、うん、なんで知ってるの?」
英子「別キャラでログインしてたんだけどね、大飯君と黒犬の姿見かけてさ、一緒に遊んでいるんだって分かった」
私「大飯君から遊びに誘われてね、それで出かけたんだよ」
英子「白猫が別キャラにログインしてたの気付いてた?」
私「・・・・・え?」
英子「もし見つかっていたらやばかったよ」
私「え?」
英子「ギルメンと一緒に遊ぶのはいいけどさ、白猫がどんな動きするか分かったもんじゃない」
英子「白猫とちゃんと決着つけてからならともかく、答えも出さずに他の人と遊んでいる姿見られたら、黒犬だけじゃなくてその人にも迷惑かける可能性だってある」
私「ご ごめん、そこまで気が回らなくて・・・」
英子「大飯君は白猫に言いがかりつけられたとしても、たぶん適当に流して気にしないでくれるとは思うけど、人によっては巻き添え喰らったって嫌な気持ちにさせられることもあるよ」
・・・もう英子には全て話すしかない。
私「英子、実は・・・」
英子「何かあったんだね」
私「白猫さんの口から個人情報教えて&セクハラ発言が出た」
英子「それで関係解消は伝えたの?」
私「いきなりで混乱して、恐怖心から思考が固まった」
私「心臓がバクバクして動けなかった」
私「彼はいきなり私を責めてきて、嘘つきって言われた」
私「私は間違ったことしていないと思ってたのに、一方的に責められてログアウトされた」
私「そんな時に大飯君が一緒に遊ぼうって誘ってくれて、彼は優しくて面白い人だから、藁にもすがる思いだった」
英子「確かに、大飯君は一緒に居て楽しい人だからね、気持ちは分かるよ」
私「白猫さんの態度を少しでも忘れたかった、彼のセクハラ発言も忘れたかった」
私「大飯君と一緒に遊んでいたら少しだけど忘れられた、だから頼ってしまった」
英子「結局は白猫に負けてしまったんだね」
私「うん」
英子「前にも言ったじゃん、負けちゃダメだって」
私「ごめん、私ってとても弱いからさ、責められたら怖くなって動けなくなる」
英子「それじゃダメ、もっと強くなって!」
私「出来ない、出来ないよ!」
私「私は・・・男に逆らうなっていう環境で育てられた、周囲の誰も助けてくれなかった」
私「そのせいで男が怖いし、怒らせたくないって思ってしまう」
私「自分の言葉を発することさえ認められなかった、押さえつけられて育てられたから、自分の意見を言うことも出来ないし、戦う勇気なんてない」
私「誰も私なんて必要としていない、普段は邪魔者扱い、都合よく利用されて踏み台にされてきた、だから人間そのものが怖いし嫌いだ」
私「地球なんて爆発してしまえ、人類なんて滅亡しろって何度願ったことか」
私「色んなことがどうでもよくなってきてた」
私「そんな時に丁寧で優しくしてくれた白猫さんと知り合いになれて嬉しかったのに、変わってしまった彼の態度に現実世界での辛い体験と重なってしまった、やっぱり私は都合よく利用されるだけなんだと」
英子「黒犬は必要とされてるし独りじゃない!」
英子「私やケンジがいるし、大飯君やギルメンだって大事な仲間じゃないか!」
私「自分の意見をうまく伝える方法が分からないし、何か言っても怒られると思った、だから現実世界の人間関係はめちゃくちゃだった、孤独だった、誰も信頼出来なかった、親や兄弟すら敵だと思っている」
私「世の中は不公平で出来ているって悲観してた」
私「疲れ切った状態でネットの世界に逃げてきたけど、そのネットですらこういう問題で悩まなければならない」
私「ケンジからメールで相談された時は頼られてるって思えて嬉しかった」
私「だけど、本当は羨ましかった」
私「男性プレイヤーからゲーム内でアイテムやゲーム内マネー貢いで貰ったこと、ゲーム内で結婚したこと、リアルでもお付き合いしたいって言われたこと・・・」
私「私にはなかった、同じくらいゲームやってるのに何もなかった・・・」
私「だから、白猫さんに告白された時は一瞬迷ったけど嬉しかった」
私「それなのに・・・冷たい態度とセクハラ発言は正直怖かった」
私「どうしてこうなってしまったのか・・・」
英子「前々から気付いてたよ、黒犬が心に影を落としていることに・・・」
英子「だから、黒犬が傷つかないように、白猫のことは避けてって言ったの」
英子「彼の本性を知ったら絶対傷つくの分かってたから」
英子「ごめん、もっと早くに手を打つべきだった」
私「私の方こそごめん、自分で何とかしなければならなかったのに・・・」
私「ケンジが寂しさからネカマになった気持ちも今なら分かる・・・」
英子「黒犬は自分らしくしてればいいんだよ、いつかきっと本当の黒犬の姿を見て大事にしてくれる人が現れるから、無理にでもそういう人を作ろうとしなくていいから」
私「英子、ありがとう・・・」
ネット世界のいい部分と悪い部分を理解した瞬間だった。
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