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【不思議な夢】闇の中に

謎多き男剣士がモノトーンの世界で消滅した切ない夢の話。

私が彷徨っていた場所は夢の世界だが、いつものような色彩溢れる空間ではなかった。
白と黒とグレーで構成されていた街並みに見覚えはなかった。

まるでその空間だけ時間の流れが存在しないような感じだ。
この世界は新聞の切り抜きのようなイメージに近い。
ひとつひとつが隔離されたような、外界との繋がりはどこにも感じられない。

静寂に包まれた街の中央部分には小さな公園が存在していた。
謎多き男剣士は噴水の側に立っている。
私に背を向けて・・・。

手を伸ばそうとする。
だが・・・思うように動かない。

声をかけると彼はこちらに顔を向けてくれた。
その表情は重苦しくて固いものだった。
彼を取り巻く時間の流れもいつもとは違うようだ。

彼の瞳は静かに私を見つめている。
私も彼を見つめている。
ただ、そこに会話はなかった。

何も言葉が出てこなかった。
私は彼に近づくことが出来なかった。
彼もまた、私の側に来ることもなかった。

ずっと止まったままの2人の時間の流れ。

彼の顔を眺めていた私の心は切なさで埋まっていった。
彼の表情に動きがないために、彼の考えは一切分からなかった。

彼を取り巻く周辺の空気にノイズが入る。
テレビの砂嵐のような、ザーザーとした画面の揺れ。
彼の体は揺れと共に小さな粒となって消えた。

彼が存在しなくなったモノトーンの世界は相変わらずの静けさだ。
まるで、最初から彼がそこに存在しなかったかのように・・・。

私は泣いた。
ただひたすら泣いた。

彼が居なくなってしまったから。

もう、二度と彼は私の目の前に現れてくれない。
彼は私の世界から記憶だけを残して消滅した。

いつの間にか目が覚めていた。
謎多き男剣士との永遠の別れに私は寂しさで憂鬱になってしまった。
もう二度と会えない。

私は彼の姿を思い返してみる・・・。

重苦しい暗黒世界に同化するような漆黒の衣装と大剣を持つ男剣士。
その鋭いアッシュグレイの瞳には誰も知りえないものが映っている。
どこからともなく颯爽と登場し、強大な敵を切り裂く強襲の一撃。
だが、彼の辿る道筋には暗い影を落としている。

追えども手の届かぬ黒い霧のような存在。
強き心を持ち、弱きものを真の道へ導く者。
濃い霧の中より姿現し、深淵に溶け込んで消え失せる。

縛られることを嫌い、自由を追い求める。
誰よりも強く、多くのことを知っている。
その力を時には正義のために使い、時には心正しきものと対立する。

彼の心の内に秘められし思いとはどのようなものか。
消滅してしまった以上知る由もない。

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