黄昏よりも、もっと夜

黄昏よりも、もっと夜

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18時のモーニング・コール

深い緑の杉か、あれは。今日は風が強いからあのせせらぎのような音はきっと目の前の湖からではないのだろう。開けきった目の前に浮かぶ雲の端がまるでヒマラヤの山脈がそびえ立つようで僕は躁になってきた。シルク・ロードを歩く旅人がいた古代が本当に存在しただなんて信じられそうにもなかった。平安貴族がいたことも、バビロニアが栄えたことも、ナチス・ドイツがあったことも、何も信じられない。本を読みたい、自分を読むのはもう疲れた。家の中にいても外にいても結局自分とは離れられない。たまには誰かと遊ん

    • 唯の事を、ふと思い出した

      記憶の白くて薄い膜に、やっすいライターで炙って穴をあけた。縁が黒く変色したまま異臭を放つその欠落へと堕ちる蝶の燐粉は、砂糖だった。記憶の膜の下には浅い湖が広がっていた。その水に溶け込んだ過去の感情が静かに揺れている。僕は水面に顔をつけ、獣のように水を飲んだ。僕は太った。 唯と比べてしまう僕の浅はかさは、全く以て馬鹿げている。しかし僕は唯に勝たねばならない、僕のコンプレックスと酔狂な自作自演が止まない限りは。 僕は唯が許せない。僕が己の17歳に口すらつけずに捨てている傍らで

      • 平成時代の500円の記念硬貨をコンビニでチョコレートにかえた まるで魔法みたいだねなんてね、下らないね 夕暮れを紺の上着と昭和の音楽で泳ぐ日々 クロールかい?いいや、ずっと浮かんでいるだけさ。見世物だからね、これでいいのさ 歩きながら手持ち無沙汰に選んだ森田童子のせいで女を愛したくなっても、寝る5秒前の駄目押しのせいで男とラインをして今日を延長してしまった 何も楽しくなかった 愛されたいと思いながら毎日泣いて走っている、これは表現ではなくリアルの出来事だ 永田カ

        • 山翡翠(やませみ)

          町の外れの洋館の 夏の外れのつるべ水  焦げた鉄粉 剥げた道影         昼は煌々と更けまつる 窓の岸辺の柳腰 門扉の裏のぬるやかさ  吸うた汗蜜 噛んだ青桐         昼は煌々と更けまつる 少年いだすは束なりき 烏の稚児の狂舞や 拾う丸岩 結う玉音           昼は煌々と更けまつる 顔に散りぬる夏吹雪           逃げつ払いつ投げ上げる         狩りし山翡翠 落つる黄桃        夜は馥郁と這いまつる     踏みつけ駆

          執着

          眠りから覚めると午後2時の 火照った息苦しい光が私の太股を食んでいた。いくら食べても満たされない程の淋しさは、食べて埋めるしかない そんな私たちの事だからまたカロリーハーフのドレッシングを買ってしまうんだろうね そうなんだね。 祈りすらも届かない            それは私が望んだからだ         分かってる                今すぐに死にたいな ―――――――――――――――――――――――――― 安いアパートの窓は地上4mに空いた蝉穴だ 茹で

          傲岸な眼 と 爽やかな青

          どうしても青色の食用色素が欲しかったので学校帰りにスーパーへ行ったけれど結局売っていなくてとても悲しかったです。私は しっとりと割れた午後の前髪の隙間から水色の冷えピタが覗いているという鬱な状態で1日を何とか生き終えてきました。もうすぐ5時ですね。 坂口安吾の「傲岸な眼」という作品を読んだことはありますでしょうか。夏の休暇に田舎へ帰省した美しい令嬢と、画家志望の朴訥な田舎の少年との淡い恋を描いた作品なのですが、私はこの物語が本当に大好きなのです。余談ですが、先週の現代文の授

          傲岸な眼 と 爽やかな青