絵筆|素描

いま
この瞬間に
あなたの一番美しいさまを
僕は描き取れたのでしょうか…

跪いて絵筆を動かしながら
ふと青年は問いかける

花はいつも
ミステリアスに微笑して
何も答えないけれど。


――少なくとも、
   あなたのその絵ではね。

くすっと淡く霞むように
花はささやく

――誰も、私を写し得ないものよ、と。

* * *


美術館で花の静物画の前に立つと
画家のいろんな眼差しが透けて見えます。

むせかえる花の香に酔ったような絵

手術医のような審美的な絵

花そのものの美は再現しえないことを
悟っている(ぞっとするほど美しい)絵。
あれは、絶望の美、なのだと思う。
(とか言っちゃう)

モイーズ・キスリング
(エコール・ド・パリ)
好きな画家の一人です。

女性の肖像画や
花瓶と花の絵。

釉薬をとろりとかけた
磁器のように艶やかで
ヴァンパイアの血族かと思う
謎めいた退廃美をたたえています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?