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小説 ともしび

※素敵な画像はゆきを様にお借りしました。ありがとうございます。

 今年の夏も、貴方に会いに来ました。

 日が落ちたとはいえ、じっとりと蒸し暑い夏の夜。やけに静かだから、この世界で僕ら2人きりみたいだね。神様がダイヤを砕いて散りばめた夜空は、見たことがないくらい美しい。今見ておかないと、もったいないよって貴女に言いたくて仕方がない。

 青白い月明かりに照らされて、貴女はお墓の前で手を合わせている。伏せられた長い睫毛が目元に影を落としていて、その表情はよく見えない。僕の灯で照らしてあげようかと思ったけれど、やめた。微かに震える唇に気がついたからだ。泣き顔は見たくない。何よりも、貴女はとても気が強いから。弱っている姿なんて僕に見せたくないんだろう? たしかに僕は頼りがいのない男だった。でも貴女の涙なら、いくらでも受け止められる自信はあったんだ。
 黒檀の髪が夜の闇に溶けて、貴女の輪郭がぼやけていく。僕の灯が揺らぐ。

今年の夏も、貴女に会いに来ました。蛍になって会いに来ました。大した光じゃないけれど、迷子にならないように貴女の帰る道を照らします。また来年も、貴女と会えますように。


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