なぜ時や条件の副詞節では現在形を使うのか
仮定法現在
は「動詞の原形」をとることで知られています。
(1)条件、譲歩、時を表す副詞節中
(2)要求提案の動詞のうしろにあるthat節中
(1)は、学校では未来のことでも現在形と習っていると思いますが、実はもともと動詞の原形でした。原形を使っていたのは、話し手の頭の中だけにあることで、現実になってないからですね。
原形は無色であり、現在形とも過去形でもありません。話し手の頭にあることでまだ現実世界で確定されてないことを原形で表しました。だから助動詞のうしろに動詞の原形を使いますね。The boy will be a doctor. はまだ医者ではないですし、The man will be a doctor. も話し手の判断にすぎず、現実世界で医師と確定されてません。そういう時に原形を使うわけです。
大昔は 以下の a.の書き方で、動詞の原形という、無色透明の表現で、書き手の判断の中立性を示していました。原形が現在形に置き換えられたパターンです。可能性が半々としても、現実世界の枠組みに引っ張られて、現在形になりました。しかし、接続詞や副詞からまだ起こってないと「まあわかるよね」ということで次第に b. のように現在形に置き換えられて今では現在形のみになっています。誤解が生じなければこのような変化が起こったようです。
a. If it (be) fine tomorrow, I will be happy.
b. If it ( is ) fine tomorrow, I will be happy.
(2)の要求提案の動詞のうしろのthat節中は、現在形に置き換えられず、原形のまま残ったパターンが使われます。では、どうして、(2)では、原形のまま残ったのでしょうか。
that節をとる動詞は「事実性の動詞と「事実性ではない動詞 があります。I know that...のknowは事実性を表す動詞の一例です。一方で、I think that...のthinkは、話し手の判断についての話しのため、事実性ではない動詞の一例と言えます。
knowを始めたとした事実性を表す動詞のthat節内では、当然、原形の出番はないのです。一方、話し手の判断や意見、要望など、事実性ではない動詞のあとのthat節内では原形の活躍する余地があることが分かるでしょう。
thinkは事実性ではない動詞 ですが、I think that...の中で、原形が使われているとはとんと聞きません。どうしてでしょうか。「話し手の頭だけにあることで事実ではないこと」は「原形」で述べると言いましたが、thinkは、動詞そのもので、話し手の考えだということをすでに表してます。そのため、わざわざ「それが現実になっていない」=「原形」を使う意味があまりないのです。直説法で書くのが普通になってきます。
最後に、事実性のない動詞 のうちで think等が従える that 節では仮定法現在を使わなくなっている一方で、 order, demand, request 等の動詞や important, necessary 等の形容詞が従える that 節では、なお仮定法現在が用いられています。
e. They requested that Tokyo (hold) the Olympic games.
f. It is necessary that Prime minister Suga ( tell ) us a new foreign policy.
同じ 事実性のない動詞でも think 類と demand 類ではその動詞の持つ機能が全く異なるそうです。
think 類....自分自身の判断を表す動詞
demand類.... 主に自分以外に対して働く動詞important 類の形容詞もそれに準ずる働き
demandやorderが自分以外に働きかけるということはthat 節の内容は「命令文」と同じになるのではないでないでしょうか。
Quirk et al. は、demand類の動詞のあとのthat節中で動詞が原形の形をとっているのは命令文の力があるからと考えている ようです。つまり、この場合、仮定法現在は「広義の命令表現」ということです。
e. They requested that Tokyo (hold) the Olympic games. 重要だからオリンピックやれよ!という命令文が隠れている。
f. It is necessary that Prime minister Suga ( tell ) us a new foreign policy. 重要なんだから教えろよ! という命令の力が隠れている。
以上 豊岡短期大学論集 No.15, 47~56(2018) 仮定法現在についての一考察 西 村 豊 からの引用を要約しました。
例文および論文の要約は私の作成です。ミスがあれば私に責任があることを明記します。一度、本物の論文をお読みいただくことをオススメします。
私も、仮定法現在は「命令文と同じ」と指導してきましたので、 Quirk et al. により理論的バックグラウンドが得られた思いです。高校での指導にぜひ活かして行きたいです。
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