見出し画像

「紛争の平和的解決」

「紛争の平和的解決義務の尊重」

国連憲章2条3は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」と規定し、紛争の平和的解決を義務づけている。

国連憲章33条によれば、「いかなる紛争でもその継続が国際の平和及び安全の維持を危うくするおそれのあるものについては、その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない」とし、第37条1に、「第三十三条に掲げる性質の紛争の当事者は、同条に示す手段によってこの紛争を解決することができなかったときは、これを安全保障理事会に付託しなければならない」としている。

「その継続が国際の平和及び安全の維持を危うくするおそれのある」紛争とは、田岡良一によれば、当事者の少なくとも一方の側から非常手段に訴えても解決しようという動きが生ずるおそれのある紛争をいう。こういう紛争が生じたときに、当事者である加盟国は、これを強制手段によって解決を企てないで、まず第33条に列挙された手段によって解決を試み、それが失敗した場合は安全保障理事会に付託して解決を仰がねばならないとされる。

「安全保障理事会の介入と勧告」

第37条に基づく紛争解決のための安全保障理事会の活動は、第一に、付託された紛争が国際平和および安全の維持を危うくするおそれがあるか否かを審査し、この問題が肯定された場合に、第二に、紛争解決のために当事国に向かってなす勧告を審議する。

勧告の内容は、当事国が紛争解決のためにとるべき行為の指示であるが、紛争解決条件を掲げて、妥協を要請するものであってもよく、ある紛争解決手段を当事国に指定するものであってもよい。

国連憲章第六章にしたがい、安全保障理事会は、紛争または事態を調査し、その継続が国際平和および安全の維持を危うくするおそれありと認めた場合に、関係諸国に向かって勧告をなすことができる。その注意を促す権限は、安保理の組成国および加盟国全部ならびに国連事務総長に与えられている。

第27条によれば、手続事項に関する安全保障理事会の決定は、9理事国の賛成投票によって行われる。その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる。ただし、第6章および第52条3に基づく決定については、紛争当事国は、投票を棄権しなければならない。

「紛争解決の機関としての総会」

また、国連憲章第10条以下の規定によれば、総会はこの憲章の範囲内に属する一切の問題を検討し加盟国に勧告する権限をもつ。ただし、第12条によれば、安全保障理事会がある紛争または事態についてその解決または調整のための活動をしている間は、総会は安全保障理事会からの特別の要求がないかぎり、この紛争または事態に関しいかなる勧告もしてはならないとされている。しかし、第12条については、実際には、総会は考えられるすべての状況において決議を採択してきたとされる。

重要問題に関する総会の決定は、出席し且つ投票する構成国の三分の二の多数によって行われる。重要問題には、「国際の平和及び安全の維持に関する勧告」が含まれる。総会のような民主的な機関による紛争解決は、介入するのが大国・強国である場合に比べると、同じように政治的影響力によって解決をもたらすとしても、程度の差とはいえより公正な解決が期待できるといえよう。逆に、大国・強国による介入は、強い影響力によって紛争の解決を促す場合がある。しかし、介入する国の利益が解決に影を落とすことは否定できない。

「国際司法裁判所の司法審査」

松井芳郎によれば、ICJ自身は、国連機関の決定について抽象的な司法審査の権限を持つものではないが、具体的な事例の処理のために必要な限りでは、これらの決定の憲章適合性を審査することができるという態度を取っている。

国連憲章第96条によれば、国連総会と安全保障理事会は、いかなる法律問題についても、またその他の国際機関と専門機関で総会の許可を得たものは、その活動の範囲内で生じる法律問題について、ICJの勧告的意見を求めることができる。この点では、司法審査の門戸が広く開かれているといえる。

<参考文献>田岡良一『国際法Ⅲ』/松井芳郎『国際法から世界を見る第3版』/松井芳郎『武力行使禁止原則の歴史と現状』/岩沢雄司編『国際条約集2019』

付・「人道的介入」と合法性

人道的介入を武力行使を伴うものと解するなら、それは、国連憲章第Ⅶ章の下においてのみ、合法的に行使される。その場合、常任理事国による拒否権という恣意性・選別性は排除できない。また、安保理の機能不全も当然想定される。

武力行使禁止原則は、現代国際法および国連の集団安全保障の根幹であって、自衛権行使および国連憲章第Ⅶ章の場合を除いて、例外は認められない。人道的介入は、いくら厳格な要件を付しても、その恣意性・選別性よりも、その濫用の危険性によって、否定される。

国際社会の「保護する責任」は、合法的なあらゆる手段を尽くして果たされなければならない。先ず紛争の平和的解決を尽くし、それが適切でない場合に、安保理の強制的措置を通じて行使されるというような想定は、最初に指摘した拒否権という安保理の限界もあることから、妥当でないのではないか。

人道的介入は合法的でなければならないというのが私見である。すなわち、国連の安全保障体制に基づくべきであって、それ以外の場合は、他の手段を尽くさなければならない。侵されているのは、圧倒的な人道的必要性であり、国際社会の根本利益である。

国際社会の「保護する責任」は、各国が分有すると考えられるから、手段の合法性を考えることが、国際社会の法的安定性にとって、大切なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?