ガム

男はいつもガムを噛んでいた。
長方形の紙箱に入った正方形のガムを。
緑のガム。

別れの際、男のキスの味を覚えていたくてガムを買ったが同じではなかった。

私が噛んで味がなくなったガムを、キスするとき男の口に移したことがあった。
男は非常に驚いていた。笑っていた。

笑うとできる目尻のシワ。綺麗に並んだ歯。薄い唇。

私は次いつ男に会うのか。
会いたければ航空券を買えばいい。時間もお金もあるのだから。男は変わらずそこにいるだろう。
私は起こりえる『変化』を恐れているのだ。変わってしまった男。変わってしまった私。

ただ、あの時あの瞬間の男に会いたい。
『今』の男には興味がない。

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