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強めのスローガン(2023年10月17日の日記)

・矯正歯科の日だった。

・前のワイヤーを抜いて、新しいワイヤーを入れて締め上げる。わたしはなるべく、無表情で眼前で光るライトをぼんやりと見ているが、今日の締め上げは結構強く、ギリリ、と歯が寄せられる感覚に一瞬顔をしかめてしまった。こいつは痛いぜ。

・おそらくこれから動かす歯の方向を定めるためなんだろうけど、歯自体もぐいぐい押された。昔骨折をして若干飛び出てしまった骨を戻すためにぐいぐいと押されたことを思い出す。これは知見なんですけど、折れた骨を押されるとものすごく痛いです。

・ワイヤーをさらに細いワイヤーで結ぶ過程で、明らかにひとつの場所に時間がかかっていたので「これは手こずっているなあ」と思った。照らすライトの白い面に若干反射して、何となく口を開けている自分が見える。しかし詳細まではわからない。衛生士さんはこの間も黙々と試行錯誤しているようだった。でも表情に全然出ないのはすごい。素人目に「手こずっているな」と思うだけで、本当は計画通りなのかもしれない。ここは他の場所よりも時間がかかることが当たり前の場所なのかも。だとしても、わたしだったら「あれっ」とか「おかしいな……」、「あーーー」と言ってしまいそうだ。表情にも思い切り出るだろう。そして患者は不安になる。歯医者って、作業をしている人と患者がずっと向き合うことになる、結構特殊な空間だ。衛生士さんの学校では、「顔に出さない」ことが叩きこまれるのかもしれないな。殺し屋みたいだ。

・2つか3つ先の診察台から「頑張れ~」、「もうすぐ終わるからね~」といった励ましの声が聞こえる。多分院長だ。小さい子どもが来ているのかもしれない。大人でも矯正治療で歯が動く痛みは結構つらいから、小さい子でこの治療に耐えるのは確かに頑張っている。でもあれ、大人にも言ってくれないかなあ。初診時のチェックリストに「励まし 要/不要」の欄を作ってほしい。ああ、でもそれがあっても、わたしは自意識が邪魔して「不要」にチェックを入れてしまうだろうな。

・前回の来院前からずっと刺さり続けていた右上のワイヤーについて申告したらあっさり切ってもらえた。刺さらない。


・ふと、会計時に受付の中が見えた。「受付は休憩室ではない!」という赤字が書かれた細長い紙が貼ってある。圧が強めのスローガンだ。

・スローガンという言葉、大人になってからめっきり聞かなくなったように思う。小中高校生までは何かにつけてスローガンを決めていた。クラスの、部活の、体育祭の、合唱コンクールの……。でも社会に出ると、そんなものを決める機会は無いし、例えば職場にでかい紙でスローガンが貼ってあったらちょっと身構えてしまう。営業売上が中心の事務所なら貼ってあるだろうか。学校でああやって執拗に目標を決めさせられたのは、予行練習だったのかなと思う。何かに取り組む時、ある程度の目標を決めること、これだけは達成しようと意欲を持つための目標だ。または、その意欲の先をひとつに集めて集団のものとすることで団結を促すねらいもあったのだろう。

・子どものスローガンは良い。中には大人のエゴイズムが隠せていないものもあるが、大体は健全でぴかぴかとしている。

・ところが大人のスローガンはどうだろう。こうやって貼りだすことで強く感じるのは団結ではなく圧力だ。一体どこから、こうも澱んでしまうんだろうな。

わたしのスローガンはこれかも

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