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「写真でまちを楽しくする!」写真家MOTOKOさん講演|神戸大学丹波篠山Lab&FS ラボ・オープントークvol.13より

2019年9月8日に行われる「ローカルフォト丹波篠山」に先立ち、8月9日、ローカルフォトを主宰する写真家のMOTOKOさんをお呼びしてのトークイベントが行われた。ローカルフォトによってどのように地域が変わり、そこに住む人たちが変わっていくのか。写真のマジック、撮影によって起きるミラクルについて、熱く語っていただいた。(文・田口郁子、構成・小山龍介)
 
ーーーまず初めに、MOTOKOさんに、地域にカメラを向け始めたきっかけと、ローカルフォトという活動についてお話しいただいた。

被写体をダイヤモンドに変える写真のチカラ

写真に関わる業界の縮小を目の当たりにするなかで、必要とされる写真と写真家とはなにか、と考えたんですね。写真もイノベーションの時代です。

そこで私が目指してきた写真のマジックは、石ころをダイヤモンドに変えること。普通の人をスターにする。かっこわるいとされているものをかっこよくする。オセロのように逆転させることが、写真のおもしろいところだと思っています。

今、東京という中心ではなく、周辺や辺境からシーンが起こっています。徳島県とか海士町、小豆島、青森、北海道。そういうところからおもしろいものがでてきています。そこから未来が生まれていて、未来が予測できる。

そうした地元の人たちが誇りを取り戻せば、何かが生まれてくるんじゃないか、そう考えました。今の私のいちばんの目標は、「シビックプライドを取りもどす」こと。日本人が日本人の誇りを取りもどすことです。

ローカルフォトは「人と人をつなげていく」写真

ローカルフォトは、アートのような自己表現(private)でもなく、コマーシャル広告(public)でもない、人と人をつなげていく写真です。いわば公民連携時代の写真がローカルフォト。

戦後の写真というのは、篠山紀信さんのようなパブリックな芸能写真家、森山大道さんや荒木経惟さんのようなプライベートな私写真しかありませんでした。しかし震災以降に出てきたのが、個人の課題と社会の課題が重なり合った「みんなの課題」に向き合うローカルフォトです。

この写真は、小豆島カメラのメンバーなんですけど、2014年から活動をスタートしました。現在、Facebookページの「いいね」は11,000を超えています。始めた当初、ほぼ素人だったメンバーが休むことなく毎日発信を続け、5年が経ちました。近年は彼女たちに会いたいという人たちがどんどん増えて、小豆島への移住者が一昨年は400人、今年は500人です。もちろん、すべてが小豆島カメラの力というわけではないですが、小豆島において、彼女たちの存在は決して小さくない。

小豆島カメラのメンバー(出典 https://shodoshimacamera.com/

未来を想像してシャッターを切る

次の写真は、神奈川県真鶴町です。この表紙はとてもお世話になっている「ソトコト」の指出編集長に「表紙にしましょう」と作ってもらいました。当時、移住者は二人。そこで知り合いの川口夫妻に入って発信してもらっています。2016年には、真鶴半島イトナミ美術館という事業の一環で、「みんなの家」というプロジェクトを実施しました。

そのとき川口さんに言っていたのが、「今のままではなく、ちょっといい未来を想像してシャッターを切って。それで未来は変わるから」と。そして現在、移住者が着実に増えています。

写真を撮られた人が自分の写真を確認することによって、「自分ってかっこいいんだ」と気づくことが、すごく大事。これがシビックプライドにつながる。「私たちってイケてるよね」と自信を持つことによって輝く。写真を撮って輝かせることがいちばん大事で、外への発信ではなく自分自身に発信していきましょう、ということなんです。

そしてそこからカルチャーが生まれてくる。昔は都市部のものであったカルチャーが、今や地方・地域で生み出せるようになってきた。丹波篠山市で起こっていることがカルチャーだったり、真鶴、小豆島の棚田、滋賀県長浜市の酒蔵でおこっていることが最新カルチャーだったりする。独自のローカルカルチャーの醸成を目指すローカルクリエイターが、地域を変えると思っています。

ローカルフォトでまちの課題を解決する

これからの写真は「納品して終わり」ではなく、「課題解決」へ。そう思っています。よい写真が誰でも撮れるようになったので、きれいな写真を納品することは何の意味もなくなった。だから、課題解決こそが価値になっていくと思っています。

課題解決の成功体験がひとつあります。「京都タワー」です。くるりのベスト盤の写真を岸田繁さんのオファーで撮りました。岸田さんに言われたことは、「ポートレートのように対峙してかっこよく撮って」と。当時、京都タワーはトンデモ建築とか、恥部とかまああまり地元からそんなに愛されていなくて、テナントも閑古鳥が鳴いていた。ところがこの写真を発表したあと、くるりファンの聖地巡礼が始まり、人気のビルになった。斜陽だったビルが写真一枚で様変わりした。ネガティブなイメージがガラッと変わるんです。

くるりのベスト盤に採用された「京都タワー」の写真

その後、滋賀県で米農家の家倉(やぐら)さんに出会います。彼は、私に「農業をかっこよくするにはどうしたらいいでしょう」と。この一人の農家さんのシンプルな問いに、まっとうに答えることができたら、次の時代の新しい写真が撮れるんじゃないか、と思いました。農家を、ロッキング・オン・ジャパン方式で撮ったら、かっこよくなるんじゃないかと。さらに、家倉さんひとりじゃなく彼の友人、農家の後継者チーム「konefa」をかっこよく撮影したら、面白くなるんじゃないかと思って撮ったのがこちらの写真です。

農家集団konefaを発信するため、大阪のデザイン集団・grafにも協力してもらいました。大阪で人気のgrafと仲良くなれば人気ものになるんじゃないかと。実際、イベントにも多くの人が来るようになって、無謀だと思われた「農家フェス」にも、400人以上のお客さんがきて大成功を収めたんです。このフェスには歌手のUAさんも参加。そして最後にはみんなで盆踊り。彼らの表情には自信がみなぎっていました。

目指すのは、表層のかっこよさじゃなくて深層のかっこよさ。内面のかっこよさを見つめて引き出す。写真はそうした内面のかっこよさを引き出せると思っています。

私は、ローカルにはIT起業家よりこうしたクリエイターがいいと思っています。見てきたように、「クリエイティブ」は若者の自信を取り戻し、彼らの都市流出を防いで、関係人口を増やせるから。地域にクリエイターが増えることが、地域を助けることになる。だから、まちの課題解決をするクリエイターを育てたい。

丹波篠山にある日常のかっこよさ

小山:講演ありがとうございました。今日一日、ロケハンしましたが、丹波篠山にどんな可能性を感じましたか?

MOTOKO:地方創生というとどこも「観光をどうする」ということを課題にしていますが、ハレの日の観光はもういらない。「ハレの観光」は、京都と沖縄と北海道に任せておいて、篠山の日常、ふだんの生活を見て、日常を楽しんでもらいたいです。キラキラの観光やよそ者の化粧をしたものではなくて、日常のスッピンがいいです。

小山:そうですよね。ただ日常がかっこいいと言っても、住んでいる人からすると、日常過ぎてかっこいいとは思えない。いくら外から「いや、かっこいいんですよ」と言っても伝わらない。ところが、写真だとかっこよさがズバッと伝わる。

MOTOKO:そもそも、篠山はかっこいい。駅を降りたら山に囲まれ、高層ビルも見えない。木造の小学校もいいし、町並みがいい。小学生が楽しそうに歩いている。商店のおじさんたちにしゃべりかけたら、気さくに話してくれたりする。篠山に関しては、あとは「いかにちゃんと見せるか」ということだけだと思います。

未来に向かっていく覚悟からにじみ出るかっこよさ

小山:さきほどの農家の方の写真ですが、そのかっこよさって、未来に向かっていくかっこよさだと思うんです。農家の方の、「農業で生きていくんだ」という未来に向かっての覚悟が芽生えたことで、内面からかっこよさがにじみ出てくる。未来に向かっていくエネルギー。それがかっこいい。ちょっとした意識の違いで生き方が変わるんだと思います。

MOTOKO:そこでは、いろんなミラクルが起こります。さきほどの農家フェスで刺激を受けたカメラマンの友人が、実家の農家を継ぐことになりました。その後、広告撮影で(彼は就農後も、ときどき写真の仕事を受けていました)小説家の池井戸潤さんと出会い、下町ロケットの殿村役、スマート農業のモデルになるんです。「農業なんかやるか」と言っていた彼が、今や本当にかっこいい農家になった。

小山:ローカルフォトは、そういうミラクルを起こすためにやるんです。ローカルフォトを通じて、自分の地域に向かい合って、そこで可能性を見出すことが未来への大きなエネルギーになっていく。

写真でシーンを作り出す

MOTOKO:どうやってシーンを作るか。これです。みなさんと一緒にシーンを作っていきたい。今は、そうしたシーンがいろいろ起きることで、まちの価値が生まれてくるんじゃないかと思います。

小山:だから、ローカルフォトは写真の撮り方講座ではなく、生き方講座なんです。どんなふうにシーンを作っていくか。シーンの中でどう自分を生かすか、活躍するか、ヒーローになるか。みんながローカルヒーローになるための場所づくり

MOTOKO:そうですね、場所づくりです。シーンという場ですね。

小山:京都タワーがかっこよく変わったように、9月8日に、皆さんは「丹波篠山というまちをこんなふうに見ることができるんだ!」という、住んでいては気づかなかった視点を手に入れる、そういう体験ができます。それは、都会にいたら絶対できません。そういう風景がないからです。

MOTOKO:昭和・平成時代は、休まず前進、たゆまぬ努力で新しいものを生み続けるスクラップビルドなクリエイターでした。終わったら捨てる。

でも、令和って、時々立ち止まって、ときどき休んで、古いものと新しいものを組み合わせてアップデートしていく。外側より中をどうアップデートするか、というのが令和のクリエイターなんじゃないか。

古いものと新しいものを組み合わせるには、東京なんかより篠山のほうが有利ですよね。


小山:10年後からこの日を見たときに「あれがきっかけだった!」と思えるようなことが起きるんじゃないかと思います。ドラマの始まりになるんじゃないかと思います。ぜひご参加ください。

ローカルフォト丹波篠山 は2019年9月8日(日)開催です。


未来のイノベーションを生み出す人に向けて、世界をInspireする人やできごとを取り上げてお届けしたいと思っています。 どうぞよろしくお願いします。