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川島俊之・小山龍介対談|鎮魂と仏教ーコロナ禍に宗教はどう対応すべきなのか

川島さんは、もともとは会計監査やコンサルティング会社、ベンチャーキャピタル勤務をしていたバリバリのエリート。名古屋商科大学でビジネスを教えてもいました。今は、高福院の副住職をつとめる一方で、お寺でのワークショップや哲学塾を開催し、新しい寺院の役割を探求されています。こんな経歴の人は日本ひろしといえども、川島さんくらいでしょう。すごい人です。

その川島さんに聞いてみたいことは、コロナ禍における宗教の役割です。医療機関ではないですから、もちろんフィジカルに治療するわけではありません。しかし、コロナにまつわる不安や衝突などを鎮める役割を持っているのではないかと思います。

テーマの「鎮魂」は、ひとつにはコロナでなくなった方への鎮魂です。今回、幸運にも日本では死者が少なかったとはいえ、世界的に多くのひとがなくなっています。そうした亡くなられた方への鎮魂。そして、今生きている人たちが自分を見つめ直し、魂に寄り添った生き方をしていくための鎮魂もあるのではないかと思っています。

なにか結論めいたことを話すのではなく、ざっくばらんにいろんな話題をかわしていきたいと思っています。(小山龍介)

世界を認識する3つのレベル_1.言語と数字

小山龍介(以下、小山)今日は、宗教とコロナの関係を川島さんとご一緒に深く考えてみたいと思うんです。

宗教の話が出てきたのは、ひとつは、アメリカや韓国などで、教会にみんなが集まるとそこでクラスターが発生するという話がきた、というところと、もうひとつは、お葬式には高齢の方が集まるので、コロナがうつらないよう非常に簡略化してオンラインでお葬式に参列するという話があります。でも、本質的にはもっと別の関わり方があるはずだと思うんですよね。

川島さんは本当に珍しい経歴をお持ちでいらっしゃるので、まずは自己紹介からお願いします。

川島俊之(以下、川島) 東京の目黒にある「高野山真言宗高福院」というお寺で副住職をしています。本山が弘法大師空海が開かれた高野山でして、僕らはそこで修行しています。高福院という寺は私の実家で、もともと生まれた寺なんです。

40歳ぐらいになったらお坊さんになると思っていたのですが、それまでは別のことをしろという住職の方針もあって、大学を出たあとに公認会計士をしていました。公認会計士って、いかにも生臭坊主という感じですが(笑)、「監査法人トーマツ」におりました。

そのあと、三和総合研究所というシンクタンクで働いて、その次はグローバル・ブレインというベンチャーキャピタルで、10年弱ぐらいベンチャーキャピタリストをさせていただきました。

私は今52歳なのですが40歳でお坊さんになって、今副住職をやっています。同時に、ビジネスパーソンの方向けの「哲学塾」をお寺でやらせていただいています。

小山 さっそく、今日のテーマですが、特に鎌倉後期は疫病が流行ったり、いろいろな問題が起こったりした時代で、ひとつの救いとして宗教が大きな役割を果たしました。仏教のさまざまな流派が出てきたときですよね。

コロナで、歴史的に何度目か分からないパンデミックの状態が起こっている今、宗教はどんな役割を果たしていくのか。科学的には安全だといわれても、どうも心が落ち着かないし、人と人が密に会ってはいけない。いったいどうやって人とつながっていけばいいのでしょうか。

川島 こちらの図では、世界を認識する=「分かる」ということを3つのレベルに分けて考えています。まず一番目のレベル「言語、数字で分かる」というのは、会計士やコンサルタントやキャピタリストとして私がやっていた世界のことです。すなわち、言語、数字で分かるというのは科学的な次元と言ってもいいと思います。

鎮魂と仏教

小山 「言語」というと、アメリカでは「ソーシャル・ディスタンシング」を「フィジカル・ディスタンシング」と言うようになってきましたね。ソーシャルに離れろと言われると非常に辛いけれど、フィジカルだと受け入れられる。

川島 社会的関係は分断せずに、身体的に、と言っているだけということですね。言語は、たとえば「私があなたのことを好きです」のように、「私とあなた」というのを分離することによってできているわけです。私とあなたがいなかったら言語にならないわけで、私とあなたが分かれている。ですから、私とあなたは「切れている関係」だと言えます。

小山さんと私が言語でつながっているときは、小山さんと私は切れている関係です。つまり、言語や数字で科学的にロジカルにやっているときは、小山さんも1本で立っていて僕も1本で立っていて、今おっしゃったフィジカル・ディスタンス状態になっているんだと思うんです。

一番目のレベルにある「私秘」というのは、人が心の中で考えていることは他人には分からないという意味です。そういった意味で、心も他人とは離れている。私が心の中で考えることは他人にはまったく分からないし、そこは他人とのつながりはない。これがふつうの常識的な世界観ですよね。

世界を認識する3つのレベル_2.身体的に「分かる」

川島 二番目のレベルは、ロジックではなく「身体で分かる」とか「文脈を共有する」とか「阿吽(あうん)の呼吸」などです。

昔は「川島さんすぐ理屈っぽいこと言う」とか「人の心が分からない」とか、よく言われましたが、そういうことではなくて、いくら数字で追い込んだとしても、やはり分からない領域はあるような気がするんですね。

小山 身体的に分かるというのは、ZOOMなどの会議をやっていてすごく思うんですよね。ZOOMは言語は分かるのでコミュニケーションはできている。ところが、京都大学の総長の山極さんは「信頼関係は醸成できない」とおっしゃっています。

ZOOM飲みは、2~3人ならまだしも5~6人になってくると、ちょっと疎外感を覚える人が出てくるんですね。しゃべっていないと居場所がない。普通の居酒屋だと、しゃべらずに横に座って飲んでいても場を共有できるんですが、ZOOM飲みは共有できないんです。

川島 特に仏教は「呼吸」を重視しているところがあると思うんです。小山さんのやってらっしゃる音楽もそうだと思いますし、スポーツでも「非常に息の合ったプレーです」と言ったりします。僕は弓道をやっていて、弓道も呼吸によって合わせます。

ですから飲み会のお話も、その場にうまく「息合い」みたいなものがあって存在感が共有されているみたいな、そんなことがあるのかなと思うわけです。

野中郁次郎先生がおっしゃる「暗黙知」もそうだと思うんです。言語や数字で分かる「形式知」という目に見えるナレッジだけではなくて、暗黙知という次元が身体的に分かる、ということとか。

野中先生は「文脈を共有する」という言い方をされますが、語っていなくても阿吽の呼吸の中で文脈が共有されたり身体で分かるみたいな話は、その場に一緒にいないと分からないということもすごくあります。

もっと広くつながることの可能性

川島 あとは、アフリカ人と日本人でこれができるかというと、やはり文化の差はあると思うんですよね。そうすると、息が合うというのはけっこう身近な人だけの話になってしまう。場の空気みたいな話になってきて、場の空気が分からないやつは出ていけという、ちょっと排他的な議論になってしまうのです。

僕は、そうなってしまうのは、もったいないというかよくないなと思うわけなんです。言語、数字で分かる一番上のレベルでやっているときは、みんなぶつ切りでバラバラです。二番目のレベルになると、身体的に分かるレベルならつながっていくのですが、そうなると近い人とだけのつながりになる。もっと広くつながることはないのかなと、考えるようになりました。

大きく言うと、一番目、二番目の2つとと三番目は、全然違う話をしているんですよね。一番目と二番目は、言語、数字で分かる、身体的に分かると書いてあるように、「分かる話」なんです。逆に三番目は「分からない話」なんです。

世界を認識する3つのレベル_3.「形がない」「分からない」

川島 三番目のレベルの「分からない」というのはどういうことか。何か分かるためには何かないと分からないじゃないですか。何にも現れないような状態、次元を「形がない、分からない」と表現しています。いちばん重要なのは、時間と因果関係という問題なんです。

一番目の科学は因果関係ですよね。リンゴから手を離すと落ちるとか、そういう因果関係があります。因果関係は当然時間の前後がないとできないので、先にリンゴを落とすのをやって、その後1秒もしないうちに落ちる。

このとき因果関係における時間は、過去、現在、未来、そんな大げさでなくても1分前、今、1分後と時間が数直線的に流れている。二番目の身体的に分かるというレベルも、時計みたいなきっちりした時間ではなくある程度ゆるいんですが時間関係はあると思うんですよね。

過去、現在、未来が一体となる次元

川島 今日のテーマの「鎮魂」というのは死者との関係ですよね。コロナで亡くなった方は今世界中でたくさんいらっしゃって、そういう方とどう向き合うかは非常に重要な問題だと思っています。死者との関係は三番目のレベルなんじゃないかなと僕は考えているんです。

小山 科学的には死者はもう亡くなっていて生命はもうないわけです。ですからひとつには、「いない」または「無」であるという言い方ができる。もうひとつは、プラグマティックな立場で考えるというやり方があります。

このやり方はアメリカの思想の根本にあって、すごく単純化して言うと「役に立つのだったら真理と認めよう」ということなのです。おじいちゃん、おばあちゃんが亡くなった後も「お天道様は見ている」という形でわれわれの行動を正しい方向に導くとしたら、科学的に正しい正しくないではなくて、社会的に効用があるので信じるほうがいいであろう、と。これは、プラグマティックな考え方なんですね。

ですから、死者との向き合い方のひとつとして「死者がまだ存在している」と考えたほうがより良く生きられるのだから、そういうふうに考えましょうという説明の仕方もあります。

川島 NHKの朝ドラって、亡くなった方がすごく出てくるんですよ。私はNHKの朝ドラが好きで毎日みているのですが、「エール」では、薬師丸ひろ子さんの亡くなった旦那さんが古典的なおばけで出てこられる。

「リメンバー・ミー」というディズニーの映画も、ちょっとお盆みたいな話で、死者の日にあの世から亡くなった方が帰ってきて、みんなで接待するというシーンが出てきます。

どちらの話も、こちらの世界と亡くなった方の世界を行ったり来たりするという話で、亡くなった方も今ここにふつうに一緒にいるという感覚だと思うんです。こういう話を皆さんがご覧になって、すごく感動されたり共感されたりというのを見ると、先ほどの科学的な説明に収まらないものが、ひょっとしたらあるんじゃないか、と。やはり亡くなった方は今この場にいる、という感覚を多くの方が持っているのではないかという気もしてしまいます。

仏教に「刹那滅(せつなめつ)」という言葉があって、刹那とは瞬間という意味ですが、仏教は「この瞬間」しかないんですね。しかもひとつの瞬間しかなくて、そこに過去、現在、未来がすべてどーんと現れている。そのあとに、数直線的に流れる時間ができる。そういう考え方をします。

『U理論』という本に引用されているマルティン・ハイデガーという哲学者もやはり「ある瞬間において、過去、現在、未来がどーんと全部現れる」と同じようなことを言っているんです。

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『U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』 著 C・オットー・シャーマー/ 訳 中土井僚、由佐美加子 英治出版 (2010/11/16)

僕らも普段数直線的に流れる時間を生きているんですが、流れている時間がときどき割れて、そういう瞬間だけに全部現れることと出会うことがあるんじゃないかと僕は思うんです。

そうすると、そのときだけ過去、現在、未来がどーんと一緒に現れるので、過去に亡くなった死者もそのときに一緒にいるということになるわけなんですね。逆に、未来の人も一緒にいる。

一瞬であって因果関係もないわけなんですよ。過去、現在、未来に分かれていないので。一瞬の中にただ全部現れる。そのとき、まさしく死者と一緒にいる。そういうことがあるんじゃないかなと、そういう知見があるんじゃないかというのが、実は三番目のレベルの話なんです。

「分からない」次元と出会う

小山 一次元が点で二次元が平面ですよね。二次元を「フラットランド」と名付けた人もいますが、二次元に住んでいる人は三次元のことは分からない。ただ、ある物体が平面のところを横切ることがあって、その断面のところだけ、フラットランドの人は見ることができるんですね。

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出典:本荘光史_素粒子脈動原理
https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/86424/04760afeb4c82edd3e171f01d54850d2?frame_id=403425

つまり、低い次元からは高次元のことをある種の変化で感じ取れるというんですよ。なるほどと思いました。ですから、三次元の物理的な空間にいるときに時間というひとつ上の次元をどう感じているかというと、流れで感じているわけですよね

川島 断面の変化を知るとということですね。

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