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江上広行・小山龍介|アフターコロナにおける金融の役割

緊急事態ということもあり、政府が保証・金利も負担するかたちでの緊急融資が実施されています。

その後、おそらく相当数の倒産も起こってくると考えられます。

そんななか、金融が果たすべき役割はどんなことなのか。『対話する銀行』や『誇りある金融』の著者であり、また新しい金融のあり方についてのビジョナリーとして活躍する 江上 広行 (Hiroyuki Egami) さんと対談します。

アフターコロナの金融機関の選択と役割

小山龍介(以下、小山) 今日は、アフターコロナにおいてものすごく大きくなると思われる金融の役割を、ざっくばらんに伺えたら。それと、ちょうど出るタイミングですね、江上さんの『誇りある金融』。

江上広行(以下、江上) 今日、現物が届くと思います。

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『誇りある金融 ~バリュー・ベース・バンキングの核心』近代セールス社 (2020/5/1)

小山 そういうこともあって「金融の役割」というテーマです。今までなんとかだましだましやってきたけれども、ちょっともう持続不可能だと諦めてしまう会社が今倒産しています。諦めずにがんばろうと思って借り入れをする会社も、長引くと耐えきれなくなって夏や秋に第2次の倒産が起こってくる。

コロナが、大企業に資本集約されていく機会になってしまうのではないかという話もあります。金融機関は、そのときに助けるのか整理するのか、非常に厳しい選択を迫られますよね。

江上 非常に難しい議論で、今日のテーマのひとつだと思います。瀕死の状態の企業さんや個人の方が今流している血を止めるためには融資をするべきですが、小山さんがおっしゃっているとおり、元に戻るわけではないですよね。

人間も企業も、ちょっと価値観がシフトしてしまうと思うので、コロナを機会に体質を変えたり、ビジネスモデルを変容させたりできるところが生き残ります。企業で言うと、たとえばデジタル・トランスフォーメーションにうまく適応できるなどです。

小山 傷んでしまった企業や個人が再生したり、もう一回事業を変えていくときに、業態が変わらざるを得ないですよね。地銀、第二地銀が淘汰されていくという話がある中で、地方の銀行は地域に対してどんな役割を果たしていくのでしょうか。

江上 地銀が生き残れるかどうかは、ひとつには本当に当事者になってコミットしているかどうかだと思っています。たとえばさっきのケースで言うと、融資だけでなく、融資をしたあとに、その会社が変容するお手伝いまで含めたコミットが必要です。

もうひとつは、BtoBやBtoCで個で顧客を捉えるだけではなくて、「B with」でないと駄目だと思います。僕は本の中で「B with Community」と書いたのですが、コミュニティーとかソサエティー、環境までをも含めた貢献です。

金融が社会の一員として、社会や経済や環境にどういうインパクトを与えるかということに自覚的でありコミットメントがあることがすごく大事なのです。そのコンセプトとそれに従ったオペレーションをしている銀行が、アフターコロナではより際立ってくる感じがしますね。

小山 それは、具体的にはどんなコミットやオペレーションをしているのですか。

江上 そのケースは残念ながら少なくて、日本ではひとつだけ取り上げています。たとえば、融資先の情報をすべて預金者に公開をするなどですね。ガバナンスを預金者に委ねる銀行もあります。また、ステークホルダーに対して、貸付け先の企業がこういう事業や社会的な影響を与えることをしているのでお金を預かりますという意図の仲介をしている銀行もあります。

また、ソーシャルインパクトといわれる、お金を融資することによって社会にどんなポジティブな影響を与えるかを計測をする方法が、世界中でいろいろ開発されているのです。たとえば、温室効果ガスの排出削減にどれだけ貢献しているかを指標化したり、どれだけ貧困を減らして雇用を増やせるかみたいなことを、融資とそれによる事業のインパクトまで含めて計測するという手法がどんどん開発されていると思います。

小山 今までは、株式会社が株主に対して情報を公開する責任を負っていました。それがコミュニティーに対しての責任として開示されるようになると、ちょっと意味合いが変わってきますよね。

江上 そうですね。預金が投資みたいになる感じです。ESG投資というのがありますが、年金基金や金融機関が大きなお金を運用するにあたって、機関投資家といわれる人たちは、投資の中に社会的な責任を負いますよと言われています。

けれども、銀行の場合はお金の大半は投資ではなく預金者の預金なので、「社会を変えるために、私の1万円をどの銀行に預けるか」という選択ができるのです。単に利回りがいいとか元本が安全とかいうことに加えて、私のお金で社会をどう変えていくかということに預金者の意図を込めようとすると、銀行は融資先を公開しないといけなくなるのです。

小山 経営情報で公開するという話もありますが、その1歩手前で、銀行がいったいどこにお金を貸しているのか、これは公開するだけでもかなりインパクトがありますね。日本の銀行で実際にできるものなんですか。

江上 日本の銀行はいろいろな障壁があって、「どこに」の公開はないのですが「どの分野」の公開をしている銀行は、少ないですがいくつかあります。たとえば、震災の復興のためにあなたの金利の利息の一部を補填しますとか。

世界の金融機関の取り組み

江上 僕が関わっている、海外の「バリュー・ベース・バンキング」という価値を大切にする金融の動きを見ていると、たとえばオランダに「トリオドス銀行」という銀行があります。その銀行のHPでは、グーグルマップと連携していて融資先のマップが全部出てくる(笑)。

「Know Where your money goes」=「あなたのお金はどこに行っていますか」というページがあって公開されています。ここは、いわゆるこういうソーシャルとかサステナビリティーを銀行のビジネスモデルにしっかり構築した最初の銀行00:17:58です。

マップ上で融資先をクリックすると、その事業が全部見える仕組みです。あなたの近くのどこにあなたのお金が回っているとか、それが何に使われているかとか、そういうことが全部見えます。

ドイツの「GLS銀行」は、アナログですが「バンク・シュピーゲル」という冊子を四半期に1回ぐらい出していて、前回から今までの新規取引などの情報が出ています。それを見ながら、ここにまた預金しようかって、そういうサイクルが回っていたり手法がいろいろあるのです。

今までの銀行のメイン事業は、お金を預けて資産を形成するとか、借りるほうはそのお金で事業で設けるとかいう経済的なリターンを繋ぐ金融仲介でした。けれども、トリオドス銀行のような金融機関は、それに加えて気持ちとか意図とか未来をどうしたいという、「意図を仲介する金融機関」なんです。

小山 (トリオドス銀行のHPを見ながら)画面共有でオランダを見てみると、融資先が数字で出てきます。こんなふうに(外観の画像や事業内容が出てくる)、自分たちの地域のどこに投資をしているのかが見えてきてすごいですね。

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