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島田昭彦・小山龍介対談|京都に学ぶ 「日常」のアップデート―千年を見すえたまちづくりと危機対応

今回は、京都の地域活性化の仕掛け人、島田昭彦さんに登場いただきます! 島田さんは、伝統に甘んじることなく、本質を捉えた「アップデート」をされてきました。サントリーによる「伊右衛門サロン」やデザインホテル『The Screen』、2015年の大リニューアルで注目を集める京都市動物園など、話題の大型プロジェクトをいくつも実現されています。

地元の人からすると、サントリーなどの大手資本が入ってくることには大きな抵抗があります。しかし、そうした企業との連携によって大きな可能性が開かれます。島田さんはそうした複雑な関係の中に飛び込み、コーディネートされています。

こうした島田さんのコーディネート、プロデュース術を伺いながら、千年後を見据えた京都のまちづくりの秘密、また過去多くの災禍をかいくぐってきた京都の知恵や、「新しい日常」へのヒントを伺っていきます。

大嫌いだった京都

小山龍介(以下、小山) 島田さんは本当に幅広く活動されています。敢えて、ひと言で言うならば「地域活性プロデューサー」として、いろいろなプロジェクトを手がけられています。

皆さんが「行ったことある!」という場所、実は島田さんが後ろでいろいろな差配やコーディネートをして、人と人や会社と会社をつなぎ合わせています。島田さん、これまでのプロジェクトを少しご紹介いただけますか。

島田昭彦(以下、島田) 現在は「株式会社クリップ」というヒト、モノ、コト、文化を組み合わせて新しいビジネスをつくる、プロジェクトをつくる企画会社の「プロジェクトデザイナー」という言葉を使って自己紹介をしています。

いろいろなプロジェクトを京都、日本全国、または海外、それぞれの拠点で仕掛けていく。そんなことをやっていますが、ほんの30秒ぐらいで自己紹介しますと……。

小山 30秒で終わりそうにないですが(笑)。

島田 駆け足で、本題に入る前のつかみで(笑)。

京都に生まれたのですが京都が大嫌いで、高校を卒業して大学は東京に飛び出しました。その後出版社に入って、スポーツ総合誌の『Number』の編集を10年間やりました。

その間、たとえばイチロー選手と一緒にメジャーリーグ、またはサッカーのワールドカップ、またはオリンピックといったありとあらゆるスポーツの取材で、日本と海外を行ったり来たりしていました。

中田選手とイタリアのペルージャに行ったときに、切符もぎのおばちゃんが「どこから来た」と僕に聞くので「京都だ」と言うと、「世界遺産が17もある街でしょ」と。イタリア人から逆に教えられたことがすごく恥ずかしかったんです。また、京都に生まれ育った人間にとってはショックでした。

そのときに世界の人が京都を見るまなざしを感じて、京都から何か発信できるものがあるんじゃないかと思ったんです。そこであれほど嫌いだった京都に戻って、京都発でいろいろな文化の発信をやってみたいということで、いろいろな企業の皆さんを巻き込みながら活動しています。

いまあるものを上手に活かして未来につなぐ

島田 たとえば、サントリーの緑茶「伊右衛門」のブランディングの一貫として、京都でカフェ「伊右衛門サロン京都」を開きました。

フランスのエスプリでラグジュアリーブランドの「シャネル」が京都で文化発信をしてみたいということで、京都のお寺でフランスのエスプリと京都の伝統文化をコラボレーションしたイベントをやったり、ファッションショーをやったり。

「京都市京セラ美術館」を文化の拠点として多くの人に文化を感じてもらうというプロジェクトに7年くらい関わりました。岡崎エリア全体のエリアリノベーションに取り組みとして動物園を新しくしたり。

小山 私も子どもを連れて動物園へ行ったんですよ。本当に1日楽しめますよね。

島田 小さな動物園なのですが、たとえばきりんを上から見ることができます。下から見るときりんは首が長いですが、見る角度、視点を変えて真上から見ると、きりんの目がどれぐらいの大きさなのかわかる。まつげが30センチぐらいあったりするんです。そういう学びを感じられる動物園施設にリノベーションしました。

小山 人間の側が、上に登ったり下に行ったりというアスレチックのような施設です。また、動物とのふれあいのいろいろなプログラムもあったりして、非常に気の利いた施設に変わりました。大人気なんですよね。

島田 おかげさまで年間の来園者100万人を達成しました。それまでは80万人で、100万人を超えようというのがプロジェクトメンバーのお題だったんです。これは京都市が管理している施設なので、京都市の皆さんからのリクエストというかゴール目標として「年間来場者100万人を超える施設をつくってほしい」と言われました。そんなプレッシャーを感じながら必死のパッチでやったのが動物園です。

小山 ぜひ皆さん、ちょっと調べていただくとすぐ出てきます。(29年ぶりの100万人達成!

島田 京都市京セラ美術館はこの3月にプレオープンして、コロナの影響で一時休館していたのですが、この6月にソーシャルディスタンスを保ちながらの再開館という形になっています。

小山 下がちょっと光っているガラスの通路みたいなのは、地下1階なんですね。

島田 そうなんですよね、一度下に降りた形で。

小山 1階のところの玄関はそのまま残っているけれども、その下にもう1個入口をつくったんですね。

島田 地下にカフェやグッズを売るミュージアムショップなど、新しい動線設計をしています。

小山 建物自体の景観は変えずに、地下をちょっと掘り下げていくことによって新たなリノベ空間をつくったんですね。

島田 これが京都の「らしい」ところです。スクラップ・アンド・ビルドという取り壊して新しいものではなく、あるものを上手に活かしてつくり、それを未来につなげていこうという発想ですべて取り組んでいます。

三方よしを目指して奮闘の日々

島田 こういう人のつながりをテーマにした本を出版したり(『デキる人は皆やっている 一流の人脈術』)、テレビ局の経済番組でコメンテーターもしています。ヴァイオリンの葉加瀬太郎さんたちと、よく京都のお寺でイベントを仕掛けてみたり、去年からは京都芸術大学で「プロジェクト探究」という講義をして、実際のプロジェクトを進める上での最前線のプロジェクトデザインを学生たちに教えています。

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『デキる人は皆やっている 一流の人脈術』島田昭彦、明日香出版社 (2008/11/11)

小山 私も、今京都芸術大学の博士課程で学んでいるんです。そんなご縁もあったりします。

島田さんのされていること、少しお聞きするだけでも、めまいがするぐらいいろいろな大変なことがありそうだなと思うんです。

島田 「島田さん楽しそうに仕事をしているよね」とよく言われるのですが、実際は水面下で必死のパッチでいろいろな思いをしています。関わる皆さんの思いが熱いこともあるし、この7月にオープンする文化施設ですと、地域の方々またはそれを設計する会社、建築会社、それを開発する大手不動産開発会社、そういう皆さんとの協業があります。

そのなかでそれぞれの意見調整をしたり、いろいろな形でいい方向に向かっていって三方よしになるようにと思ってやっているんです。つくる人、買う人、そして世間も良くなるような形にもっていけるように、日々奮闘しています。

小山 三方よしという言葉はよくわかるのですが、なかなか一筋縄ではいかないですよね。たとえばサントリーのような大きな会社が京都でカフェをつくろうというとき、一般的には、大手資本がどーんとお金をかけたカフェがすごく盛り上がるというのは、一方で、文化や生活が壊されてしまうという見方もあるわけです。

どんなことに気をつけて調整されているんですか。コツはなんでしょう?

それぞれの背景や立場を翻訳する

島田 いきなり本質的核心的質問ですね(笑)。京都は喫茶店と呼ばれるような10席、20席の小さなカフェは多いのです。けれども100席となると、人口1400万人規模の東京につくるのと人口260万人規模の京都につくるのでは、だいぶスケールが違ってきます。

僕自身は京都に住んでいますし、京都に軸足を置いて代々着物に家紋を書く老舗の家に生まれていますので、地域のこと、人のつながり、そして京都の文化を大切にしていくという「シビックプライド」をうまく調整していくのが、初期段階で大変なのです。

出店するうえで困る人も当然出てきますよね。近隣の店に「こういうものを出店しますが、どうでしょうか」とお伺いかたがた出店の説明に行きました。そのときに小さなコーヒーショップの人には、「うちはコーヒーはほぼ出しません。純粋な日本のお茶をテーマにしてお茶を日常に感じられる空間なので、カフェではなく日本茶のお店ですよ」と言ってOKをもらったんです。

実は真向かいがスターバックスだったので、お客様の気分に応じて、コーヒーを飲みに行く人もいらっしゃれば日本茶を飲みにきて軽食を食べてもらえる人もいるということで、結果的に地域の人にも愛されます。ここにできることが近隣環境を乱すようなものではないし、皆さんの生活の一部になるようなかたちで、われわれはやらせてもらうようなことを考えていますなど、ひとつずつ丁寧に説明しました。

横文字で言うとコミュニケーションをしっかり重ねてということなんです。近隣やお金を出すサントリーさんなどそれぞれの、背景にある文化を翻訳しながらいい空間をつくって、みんなの生活のプラスになるようなものをつくることを心がけてやっています。

小山 三条通りのあのエリアは、必ずしも観光エリアではないですよね。観光客目的ではなくて、生活文化の中にお店を位置づけたことは重要ですね。観光事業のなかに位置づけるお店と生活文化のなかに位置づけるお店は、思想が違うし自ずとつくりも違います。

出社前の朝食に絶品卵かけご飯

小山 私は、京都に行ってあの近辺に宿を取ったら、伊右衛門サロンに朝食を食べに行くんです。

島田 ありがとうございます。「卵かけご飯」ですね。

小山 そう!卵かけご飯が絶品です。あそこに朝食を食べにいくというのがひとつの生活文化として成立し得るし、そこにおいしいお茶が出てくるという丁寧な文化づくりをされているから、あの場所にしっくりきているのかなと感じました。

島田 おっしゃるとおりですね。朝8時からオープンして、クローズは夜の12時なんです。

小山 長いですね。

島田 なぜ長時間オープンしているかというと、小山さんのようにホテルに宿泊されている、京都在住ではない人も朝から使っていただけるようにです。

京都では室町の呉服店をやられている旦那衆、社長たちが地元の「イノダコーヒー」で朝コーヒーを飲んで新聞を読んでから出社する、そんな習慣がありました。それを21世紀の現代的に解釈して、京都に住まいのある近隣のビジネスマンで出社前の朝ごはんにパンではなくて卵かけご飯を食べようという人たちにも、利用してもらえるようにしました。

すなわち、地域生活に密着した朝の時間帯から深夜の時間帯までをきざみながら、どんなシチュエーションでも、まず地域の方々にも喜んでもらえる施設にする。もともと観光目的のカフェではないしそれをコンセプトにしませんかということを、初期段階でサントリーさんに提案したのです。

小山 コロナの影響でインバウンドがパタッとなくなった。京都でも外国人をほとんど見なくなってしまいました。けれども、実は伊右衛門サロンのような生活文化に密着しているところは、ふつうに地元の人が使ってくれて操業を続けていける。まず地域の人たちに愛されて支持されることがスタート地点だというのを改めて実感しました。

身の丈にあった商売が地域を永続させる

島田 京都は小さなお店の集合体のようなものなんですよね。地域の商店街に買いにくるうちの父親や母親のような、地域のおじいちゃん、おばあちゃんのような人たちが小さな動きをすることで経済活動が回っているんです。

地域の人が気軽に行けて、何かあったときもそこに行けば食べ物が買えるとか、今コロナ禍ですが家から歩いて散歩にいってお茶を買って帰れるとか、そういうベーシックな生活の中に小さな経済活動が行われる。

平安時代からずっと続いている京都の千年の生活の知恵は、実はそういうところにあります。大きな資本のリターンを得るために大きく何かをするのではなく、身の丈に合った商売をする。

その延長に、三方よしで、ときには収益だけではない社会貢献活動も含めた商いと営みをするという意識は、街の八百屋のおっちゃんからカフェのオーナーから、そういう飲食業、サービス業の皆さんは持っていると思いますね。

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