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今日もキッチンで思い出す温かさ

料理をするとき、私は味見をしない。正確に言うと、味見をすることを忘れてしまうのだ。その為、「いただきます」を言って初めて自分の料理の味を知ることになる。びっくりすることが多いので、最近は、味見を忘れないように、キッチンの壁に「あじみ」と書いたシールを貼っている。まあ……それでも忘れてしまうから困っているのだけれど。

3月頃に始まったテレワーク勤務生活も、もうすぐ8か月を過ぎようとしている。テレワーク生活で私が一番戸惑ったのは、食事だった。食べることが好きだから、できることなら美味しいものが食べたい。けれど、テイクアウトばかりではお金がかかる。残念ながら、料理は苦手だ。少し追い込まれた私は、「うーん、これは上達のチャンスかもしれない」と開き直った。私の3食自炊生活が始まった。

週に一度、一週間分の献立を組み立て、食品を無駄にしないように考えて、スーパーへ買い出しに行く。平日の夜でも簡単にできるように休日に下準備をしてみたりもする。...…3食作るって結構大変だ。そんなことを考えていたら、実家にいた頃のことを思い出した。待っていれば、食卓に美味しいご飯が並んでいたあの頃って夢のような時間だったのだ。当たり前のように感じていた私ってなんとおめでたかったのだろう。

もう少し、記憶を遡ってみる。

小学生の頃、私は喋る子だった。美味しいご飯(持ち上げておこう)を食べながら、その日にあったことを家族に隅から隅まで話した。話しているうちに眠くなってうとうとしたり、話したりなくて話が終わるまで片づけをする親の後ろにぴたりとついて話し続けたり、とにかく、その日の出来事をほぼダイジェスト版で話したものだ。

中学生以降になると、少しずつ話せないことも増えていったのだけれど、もやもやしている日も、悔しくて泣きながら帰った日も、食卓は変わらず美味しいご飯で私を迎えてくれた。高校生になっても、大学生になっても、有難いことに、今もだ。

食卓の記憶は、私をとても温かな気持ちにしてくれる。作ってくれる人の温かさとか、愛情も一緒に思い出すからなのだと思う。

第3波の話題がニュースで報道されている状況を見ると、この生活もまだ続くのだろう。自宅での仕事道具も揃えたし、生活サイクルも整ってきたし、この働き方はそんなに嫌いじゃないかも。このまま続けたら、ひょっとしたら料理上手になる日も近いかもしれない、と期待している。

食卓に愛を。そんな料理が作りたくて、私は今日もキッチンに向かうのだ。まあ……まずは、味見から始めよう。

お付き合いいただきありがとうございました。
編集:香山由奈
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