『映画大好きポンポさん』感想 ※ネタバレ入り

見ました。とても良かったです。
以下詳細な話。

映画大好きポンポさんは元々Pixivに投稿された漫画が原作。Twitter上で話題になり、瞬く間にランキングを駆け上った。その後単行本化したようで、続編もいくつか刊行されているとのこと。生憎自分はPixiv版の第一作しか読んでいないが、それ単体で十二分に世界観を表現しきったとても魅力的な作品だったと記憶している。もっとももう数年前のことだから、詳細に内容を覚えているかと言えばそうではないが……。
主人公ジーン・フィニは根暗な映画オタク。映画プロデューサーのポンポさんのアシスタントとして映画制作所に勤めていたが、予告編の編集を担当したことをきっかけに次回作の映画監督に抜擢される。戸惑いや困難に翻弄されながら、なんとか完成を目指そうとするが――という話。
映画づくりのお話、というとなんだか地味だが、その本来地味な作業を演出と構成で鮮烈に彩っている。ジーンがハサミを片手にフィルムと格闘する姿は、本作の中でも印象的なシーンなのではないか。冴えない映画オタクが監督となり指揮を執る成功譚、シンデレラストーリーとして見ても、なかなか劇的な展開と言えるのではないだろうか。
しかし筆者はどちらかと言えば、映画制作上のうんちくを実作として提示するのが挑戦的な作品だと捉えた。ジーンが作中作の『MEISTER』を編集する際、何をどうすればより絵として映えるか、分かりやすく伝わるかなどを語りながら実際に映像を流すのだが、本編で語られている通り編集後の映像の方がより分かりやすい画になっている。言葉でうんちくを語るだけなら誰でもできるが、目の前に映像として示されるほど説得力のある提示はないだろう。映像作品ならではの手法、素人にも直感的に違いを理解させることのできる有効な手段だ。一方でここが失敗していれば、作品自体の説得力が損なわれてしまう方法でもある。それを恐れずに実作として証明した本作は、まさしく挑戦的な作品と言えるだろう。

また、作中作の制作という形を取っていることが、メタ的な構造にもなっていることは言うまでもない。ましてや本作では『MEISTER』をジーン自身が自らの物語だと理解する場面がある。『MEISTER』がジーンの物語であるということは、ジーンを主人公に据えたこの『映画大好きポンポさん』もまた同じ構造を有していることの表れだ。そうしたメタ構造を楽しめる映画好きこそ、この作品を心から楽しむことができるだろう。
そう、この作品は、映画を好む人々に向けて作られた作品なのだ。本作オリジナルキャラクターであるアラン・ガードナーにそれは象徴されている。銀行マンとして働くアランが、『MEISTER』の制作費の融資を重役にプレゼンするシーン。眉をひそめて却下しようとする重役相手に、アランは四方八方手を尽くして説得を試みる。それも効果なく、あえなく会議が終わろうとしたところ――社長が現れ、全ての風向きが変わっていく。
あまりにも都合が良すぎる。クラウドファンディングの数字を根拠にプレゼンするというのは今だからこその発想で面白い着眼点だったが、許可を取らずに会議中の様子をリアルタイムで配信するなんて強硬手段に出れば、クビなんてものでは到底済まないだろう。実際それで重役の面々は激怒し会議も終わりを迎えようとする。その最後の最後で、社長が登場し見事融資を勝ち取る――そんな劇的な展開が現実にあるだろうか?
あるわけがない。都合が良すぎる。しかしだからこそ、本作は「映画」なのだとこの上なく主張している。
ドキュメンタリーでもノンフィクションでもない。この作品は虚構で、だから劇的な展開も許される。融資が決まった後、書類を宙にバラ撒く――なんてシーンが典型的ではないか。そういった現実にありえない、ご都合主義な場面を、「映画あるある」として受け入れられる人間、すなわち映画好きの人間こそ、本作を楽しめるのである。

本作では映画は万人に向けて作るのではなく、誰か特定の一人が楽しめるものであればよいと一貫して語られる。作中では具体的には語られないが、ジーンが誰に向けて作ったかというのは、演出である程度明らかにされている。ポンポさんだ。
ジーンは自覚的でなかったが、ある少女とかつて幾度となく同じ劇場で映画を観ていた。その少女は途中から劇場を後にし、エンドロールを最後まで見ることはついぞなかった。その少女がポンポさんであるかどうかは明確には語られない。ただ、『90分までの映画しか見れない』と語るポンポさんに向けて作られた、90分ぴったりの映画作品。それが『MEISTER』だったのではないか。
『MEISTER』のエンドロールまで観たポンポさんは、屈託のない笑顔をジーンに向ける。かつてエンドロールまで映画を楽しめなかった少女は、ジーンの撮った『MEISTER』でようやく最後まで映画を味わい楽しみ尽くすことができたのだ。そんな劇的な物語も、また映画らしいではないか。
ところで、『MEISTER』はジーンの物語であり、すなわちこの『映画大好きポンポさん』と同じメタ構造を持った作品と言える、という話を既に述べた。
『MEISTER』はポンポさんに向けて作られた作品。ならば同じ構造を持つこの『映画大好きポンポさん』は、いったい誰に向けて作られたのか?
もう既にタイトルに書いてあるではないか。「映画大好きポンポさん」。映画好きの我々に向けて作られたのだ。すなわちポンポさんとは、映画を愛してやまない我々であり君たちなのである。上映時間もきっかり90分。きっと最後まで席を立つことなく、エンドロールを見終えることができるだろう。きっと映画を愛するあなたにこそ、劇場で観ていただきたい一作である。

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